第56話 オリビアVSレオン最終決戦〜緊迫〜

 レオンが目を見開いている。オリビアが放った衝撃の言葉にかなり驚いているようだ。その表情を見て、やっと彼がこちらの話を受け入れたと実感する。そして、彼はその場で周りを見渡し力無く呟いた。


「ステファニーが生きている? まさか」


「嘘のような話かもしれませんが、本当ですわ」


「では、僕はなんのためにこんなことを……」


「そんなのこちらが聞きたいですわ」


「それじゃあ、君はテレポートも使えないんだな」


「そうですよ。もう、どうしてくれるんですか? このままでは私たち丸焦げでございます!」


「すまない……」


 レオンがうなだれ、謝罪の言葉を口にした。その意気消沈ぶりにオリビアはまるでこちらが一方的に自分を責めているような気分になる。そんな気を晴らすために励ますような言葉をかけた。


「大丈夫です、きっとリアム様が来てくれますわ」


「リアム? ヘマタイト君ではなく?」


「はい。ジョージではなくリアム様がきっと……」


 意外な名前が出てきたと言いたげにレオンが首を傾げて瞬きした。オリビアの言葉には半分願望が混ざっていた。もうこのまま炎に包まれてしまう可能性もある命の瀬戸際。レオンの手前気丈に振舞ってはいるが怖くてしょうがない。不安でたまらず心が押しつぶされそうな今、一目会いたいと思うくらいにオリビアはリアムを想っていた。


「オリビア嬢……」


「ふふっ。ただ私が会いたいだけなのですが。レオン殿下にはそういった方はいらっしゃらないのですか?」


 オリビアはレオンとしゃがみ込んだまま今の状況に関係ない話を始め笑顔を見せた。


 室内に煙が充満していく。ドアの隙間から天井に向かっていく煙を見ながらオリビアは残された時間の少なさを悟った。


「ああ、いるよ。けれど僕は彼女も彼女の大切な人のことも傷つけてしまったから……もう合わせる顔がないな」


 レオンが少し遠くを見つめて眉と目尻を下げ、寂しげな表情を浮かべた。オリビアは気落ちする彼の頬を両手で軽く叩くように挟み込んだ。


「レオン殿下、だったら余計にその方に会わなくては。お相手を傷つけてしまったのなら会って謝らなくてはいけませんよ! ウジウジと落ち込んでいるとまた私が頭突きしますわ」


「……それは勘弁してほしいな」


「だったら元気を出して。ともにこの場を乗り越えましょう!」


「オリビア嬢、女子に言うことではないのかもしれないが君は逞しいな。かっこいいよ」


 視線をオリビアに向けたレオンがわずかに微笑む。オリビアは彼ににっこりと満面の笑みを返した。


「田舎貴族で商売人の私には褒め言葉ですわ。ありがたく頂戴いたします」


「オリビア嬢……ありがとう」


 レオンからお礼の言葉とともに今度はしっかりと口角が上がった笑みが返ってきた。その瞳にも活力が湧いているように感じる。なんとかふたりで助けを待つか脱出できないか相談しようとしたそのとき、ついにドアの隙間から炎が回ってきた。下から上にメラメラとドアが炎で包まれていく様子を見て、オリビアは目を閉じ首飾りをぎゅっと握りしめた。ちょうどリアムからもらった指輪がある位置だ。


(ああ、お願い。もう一度リアム様に会わせて!)


 クラブ室の大きなドアが燃え盛り、崩れ落ちようとしていた。指輪を握っていない方の手が引っ張られ、オリビアは顔を上げた。レオンが手を引いて、そのまま暖炉の陰に連れられる。


「オリビア嬢、ここに隠れて! 僕はバルコニーに出て脱出できないか確認をする」


「ダメですレオン殿下、危険ですわ」


「このままではふたりとも助からない。僕はこの国の王子だ。国民を、君を守らなくちゃ……」


「ダメです!」


 レオンが窓に向かおうと背を向ける。オリビアは彼が駆け出す前にその腕を掴み静止しようと力を込めた。すると、直前まで黒煙と白煙が入り混じった窓のグレーがかった景色が、急に暗くなる。


「オリビア嬢、伏せて!」


「キャアアッ!!」


 視界にレオンの制服が映る。彼が覆い被るかたちでオリビアは守られていた。


 ガシャンとガラスが割れる大きな音とともに、バキバキと瓦礫を踏み締める足音が聞こえる。何かが室内にやってきたのだ。


「ば、化け物……」


 化け物という何かと対峙するようにレオンが振り返った。オリビアは彼の肩のあたりから顔を出し、やってきた何かを確認する。


「あ、あなたは……」


「オリビア嬢、僕から離れないで!」


「大丈夫です、レオン殿下」


 オリビアは自分を守ろうと必死のレオンを静止し、彼の前に立った。


 目の前にいるのは自分の倍以上の身長かつ大柄で武装した生き物だった。髪は赤く振り乱れており、顔まではよくわからない。全体的に煤けている。確かにレオンが「化け物」というのも無理はないと思った。


「オリビア嬢! 下がって!」


「いいえ、平気です」


 レオンの静止を笑顔でかわし、オリビアは一歩前に出た。


「お待ちしておりました……リアム様!」


「オリビア嬢、無事でよかった……」


 そのまま駆け出し、勢いよくリアムの懐に飛び込む。彼は屈んでオリビアをすっぽりと包み込んだ。リアムに会えたことで気が緩んだオリビアは大粒の涙を流しながら声を出して泣きじゃくった。



>>続く


ここまで読んでいただきありがとうございます!

明日で最終決戦終結です✨


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引き続きよろしくお願いします(^^)/

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