第55話 オリビアVSレオン最終決戦〜真実〜


「僕は……君にテレポートを使わせるために廊下を火の海にする予定だった」


「予定通りではありませんか。なぜ驚いているのですか?」


「フリの予定だったからだ。炎の幻覚を見せるつもりだったんだよ……」


 オリビアはため息をついた。狼狽えて呟くように弱々しく返事をするレオンに対して呆れてしまった。廊下がここまで燃えている以上、室内に火が回るのも時間の問題だろう。急いで助けを呼ぶか脱出しなくては。


「どのみち君のテレポートを使わないと僕たちは助からない。早く使って脱出させてよ」


「ですから、使えません」


 オリビアはいまだにステファニーの生まれ変わりであると信じているレオンの言葉を、ため息混じりに否定した。

 彼もまたその返事に呆れ返ったように肩をすくめる。先ほどは一瞬取り乱したが、結局テレポートさえ使えば助かると思っているのが一目瞭然なふてぶてしさだ。オリビアの心の中に憤りと呆れが入り混じった複雑な感情が膨らんでいく。


「この後におよんでしらばっくれないでよ。僕はステファニーの生まれ変わりの君をお祖父様のかわりに娶らないといけないんだ。このまま焼け死ぬわけにはいかない」


「ですから、私はステファニーの生まれ変わりではありません。何度言えばわかるのですか?」


 オリビアの否定の言葉にレオンが不服そうに厳しい視線を向けている。しかし、その視線はオリビアを見てるようでその奥にいるはずがない誰かを見ているようだった。


「いいから早くここから出るよ、テレポートで王宮に行こう」


「無理です、どうか話を聞いてください。レオン殿下……」


 オリビアは必死にレオンに訴えかけたが、彼にはその言葉を受け入れることはできないようだった。オリビアはこのまま助けを待っていても埒があかないと思い、制服のポケットに手を突っ込み、ある物を握りしめ取り出した。


(間に合わないかもしれない、でも……)


 それは、昨日リアムにもらった魔法アイテムだった。一見ガラス細工のような小さな笛の形のチャームを、オリビアは床に落として右足で思い切り踏みつけた

オリビアの足元でチャームは割れ、中から緑色の光の矢のようなものが飛んで高速でクラブ室を出ていく。


(お願い、どうか間に合って!)


 緊急時に壊すとリアムに知らせが行き、呼び出した者の居場所へ道案内をするという魔法アイテム。これで彼に身の危険を知らせることができたはずだ。しかし、リアムが王都の騎士団基地から魔法を使って急いでも学院に到着するには十分ほどかかる。


 オリビアはなんとかリアムが間に合ってくれるよう願った。


「オリビア嬢、今のはなに? やっぱり特殊な魔法が使えるんだ」


「違います。これはリアム様に頂いたものです。おそらく殿下の護衛の方たちもジョージもこの炎では建物内に入れないでしょう。騎士団の力を借りれば助かるかもしれません」


 オリビアは今も激しい思い込みで見当違いなことを口にするレオンがさらに腹立たしく思えてきた。しかし、腐っても王子。なんとしてでも助けなくてはいけない。


 チラリとクラブ室の出入り口に視線を移した。ドアの隙間から少しずつ煙が入ってきている。もうこの部屋に火が回るのも時間の問題だろう。オリビアは次に窓に目を向けるが、こちらも外には黒煙が立ち昇っていて生身での脱出は困難だ。


「オリビア嬢、このままだと僕たち焼け死ぬよ? 意地なんか張らないでテレポートを使うしかないんじゃない?」


 状況を本当の意味で理解していないレオンがテレポートするようせがむ。

 その瞬間、オリビアの中で怒りの限界がきた。膨らみ続けた複雑な負の感情は弾け、その勢いのまま行動に移す。


「だ、か、ら……違うって言ってるでしょうがこのバカ王子!!」


「うわっ!!」


 オリビアは目の前に立つレオンの顔に手を伸ばし掴むと、額を引き寄せ思い切り自分の頭を前に傾けた。額に衝撃が走り、じんじんと血流が激しくなるのを感じた。さらに、若干痛い。

 顔を上げると数歩後退し尻もちをついたレオンが、額を抑えながらこちらを見上げていた。その目には涙がたっぷりと溜まり、唇を噛み締めている。


「何をするんだ! 痛いじゃないか!」


 まだ反論するかと、オリビアはキャンキャンと文句を言っているレオンを見下ろす。なかなか怒りはおさまらなかった。


「こっちだって痛いわよ! さっきから違うって言ってるのに「テレポート、テレポート」って……。しつこいのよ! あんたジュエリトス語もわかんないの? 人の話はちゃんと聞きなさいよ!」


「え、あ……いや……」


「とにかく、私はステファニーの生まれ変わりじゃないから!」


 言いたいことを言ってややすっきりしたオリビアは大きく深呼吸をした。もうトドメを刺すしかない。


「いいですか、今から言うことは内密に……」


「なに?」


「いいですか? 内密に!」


「わ、わかった」


 オリビアはしゃがみ込み、自分に圧倒されポカンと口を開けているレオンと目線を合わせた。


「よくお聞きください。私はステファニーの生まれ変わりではありません。なぜなら……ステファニー・クリスタルは生きているからです」


>>続く


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