第54話 オリビアVSレオン最終決戦〜対峙〜

 王族仕様の物々しいドアを開け、クラブ室に入るオリビア。ここに来るのは以前、魔法陣を書き写したとき以来だった。初めて入室したときとは違い掃除は行き届いている。


「さあ、座って」


「はい。失礼いたします」


 レオンに促され席につく。


「そういえばジョージ抜きでクラブ会議を始めてもいいのでしょうか?」


「ああ、それは口実だからいいんだ」


「え?」


 オリビアが目を見開き顔を上げると、レオンの表情から先ほどまでの爽やかさが消えていた。代わりになにか含みを持たせるような笑みを浮かべている。しまった、早くここから逃げなくては。そう思ったが出入り口には彼の護衛たちが立っている。


 オリビアの額からこめかみにかけて、冷や汗が伝う。


「オリビア嬢、もう時間がない。今日こそハッキリさせよう」


「一体なんのことでしょうか?」


 眉間にしわを寄せ首を傾げると、レオンが大きなため息をついて眉を釣り上げた。


「わかっているよね? 君の魔法と出自について知りたいんだ」


「わざわざお話しするような特別なことはありませんわ。私はただの伯爵家の娘。この学院ではありふれた生徒のひとりでございます」


「なるほど。話す気はないんだね……じゃあ仕方ないな。オリバー、ハリー。人払いをしてきてくれ」


「「かしこまりました」」


 レオンの合図で護衛たちはすぐにクラブ室を出ていった。大きなドアが開き、バタンと大きな音を立てて閉じた。オリビアは席を立ち一歩後ずさる。


「さあ、これでふたりきりだよ。観念して正体を明かすんだオリビア嬢……君はステファニー・クリスタルの生まれ変わりなんだろう?」


「……違います」


 オリビアとの距離を詰めるようにレオンも席を立ち一歩前に進む。それに合わせてまた一歩後ずさるが、それも彼の一歩で簡単に縮められてしまう。


「違うものか。君の魔法はテレポートだろう?」


「いいえ。違います。殿下はなにか勘違いをされているのですわ」


 オリビアはなんとかジョージが来るまでの時間稼ぎをしなくてはと、目の前のレオンを警戒しつつ考えを巡らせていた。どうやってこちらの話を聞く耳を一切持たない彼を説得できるのか。そもそも、彼はどうしてここまでステファニー・クリスタルにこだわるのか。


「勘違いなんかじゃない。その容姿、魔法、異国を知っているかのような発言……全てが答えを示している」


「なぜ、ステファニー・クリスタルにこだわるのですか? もし私が彼女の生まれ変わりだとしても、それがなんだというのですか?」


 オリビアは目の前のレオンをしっかりと見据え問いかけた。彼もまたこちらを射抜くような視線を向けている。そこには王族としてのプライドがさせる余裕の笑みはかけらもない。


「ステファニー・クリスタルは、今度こそ王家に嫁がなくてはいけない。お祖父様の悲願を僕が叶えるんだ……」


「お祖父様……?」


 今度はレオンが一歩前に踏み出したので、オリビアは呟きながら同じく一歩後ろに足を引いた。


「そう、僕の祖父チャールズ・ダイヤモンド=ジュエリトスのことだ」


「前国王陛下ですわね」


「とぼけないでよ。お祖父様はステファニーの婚約者だっただろう?」


「先ほどから申し上げておりますが、私はステファニーの生まれ変わりではありません」


 会話をしながら、レオンとの距離を保つためにさらに一歩、一歩と後退するオリビア。入り口横の壁際が近づいてきて、逃げ道が残りわずかだと焦り再び冷や汗が伝う。


「それだよ、もし違うとしても普通自分が誰かの生まれ変わりかどうかなんてわからないはずだ。君はなぜ違うと言い切れるの?」


「それは……私は魔力も少なく、殿下の仰るような魔法は使えないからでございます」


 ごまかすように早口で返事をすると、レオンがそれを鼻で笑い一蹴する。


「そんなのいくらでも嘘はつけるよね。魔力だって隠しているのかもしれないし」


「そんな……」


 何を言っても聞き入れられない状況に、苛立ち始めるオリビア。血のめぐりの影響かなんだか体も熱くなってきた気がする。


「単刀直入に言おう。リアムと婚約解消して、僕と結婚するんだ。そして僕の祖父に会って欲しい。君さえいれば、きっとお祖父様は元気を取り戻すんだ」


「……お断りします。私はステファニー・クリスタルの生まれ変わりではありません。それに私は……リアム様の恋人です。彼以外との結婚なんて考えられませんわ!」


 オリビアはハッキリと自分の意思を伝えた。声を張り、真剣な眼差しでまっすぐにレオンを見据える。しかし、彼はそれを聞いてもなお一歩も引こうとはしない。


「だったら、否が応でも君がステファニーの生まれ変わりという証拠を見せてもらおう。あとは王族の権力でなんとでもするさ」


「レオン殿下、あなたという人は……」


「僕に説教する気? お祖父様を捨てて他の男と消えたくせに。さあ、前世の償いをしてもらおうか。ドアを開けてごらん?」


 レオンが出入り口のドアを指して不敵な笑みを浮かべていた。オリビアは自分をステファニーの生まれ変わりだと妄信的に信じる彼の言動に恐怖を覚えた。一旦言う通りにしようと金属でできたドアノブを握った。


「熱っ!」


「どうしたのオリビア嬢?」


 触れた瞬間、焼けるような熱さと痛みを手のひらに感じてオリビアはドアから手を離した。手のひらを確認すると赤く腫れて一部皮がむけている。火傷したようだ。

 そして、自分の様子に異変を感じたレオンがドアに近づいたので、慌てて静止した。


「殿下、ドアに触れてはいけませんっ!」


「どういうこと? オリビア嬢、その手は……」


 ドアを開けるよう指示したはずのレオンの顔が青ざめている。オリビアは想定外のことが起きて混乱している様子の彼に問いかけた。


「殿下が仕組んだことではないのですね」


「…………」


 レオンから返事は返ってこなかった。彼は小さな声で「ごめん」と呟き、出入り口のドアを思いきり蹴飛ばした。大きな音を立てて、クラブ室のドアが開く。


 そして、部屋の外の状況を目の当たりにしたオリビアは驚愕した。


「これは一体……?」


「どういうことだ、これは本物の……?」


 隣に立っているレオンを見ると、彼もまた目を見開いて呟いていた。廊下には赤々とした炎が、掲示物や装飾を養分にして燃え盛っている。

 オリビアはとっさに制服のスカートを手にしながらクラブ室のドアを閉める。そして、レオンとドアから離れた部屋の中心に移動した。


「殿下、どういうことですか。ご説明ください!」


>>続く


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