欲しかったゲーム
『それに、もしかしたら今、姉さんが気にしている問題の一つを解決する糸口すら、見つかる可能性があります』
弟の自信ありげな言葉。きっと電話口の向こうで彼は、どや顔をしていることでしょう。
「私の悩み事をご存じで?」
『ええ。……少なくとも一つは、ね』
いつの間に私は、弟に弱みを見せてしまったのでしょう。アイラ、一生の不覚です。いや、それを言いますと一生の不覚だらけになってしまうのですけれども。
「……ちなみに、私のどの悩みをご存じで?」
『え、そんなにたくさんの悩みを抱えているのです?』
怪訝そうに聞き返してくる弟。すみませんねぇ、悩みがないように見えて一応悩みくらいは持っているんですよ!
『あなたの将来について……――、といったところでしょうか』
「私の将来ですか……」
私の将来でしたら、先行き不安ではありますが、それが改善されることなんて、あるのでしょうか……。
『とにかく、ゲーム機に入っている取り扱い説明書だけは読んでからログインしてください。今電話に出ることができているということは、今からでもログインできますね。三十分後に、始まりの広場で待ち合わせしましょう。それでは』
そう言うが早いが、弟は電話を切ってしまいました。まったく、言いたいことだけ言ってさっさと切るなんて……。
そう思いながら、ゲーム機の入った段ボール箱を開封します。ああ、これでもう、新品未開封、ではなく未使用、または未使用に近い、という表示にしてフリマサイトには出品しなくてはいけませんね……。
ふと同封されていた納品書に記載されていた名称に、作業の手を止めました。
「……あら、これは……」
これは、弟の大好きな対戦ゲームではありません。いえ、対戦する場所もあったとは思いますが、対戦を主とするゲームとは違います。
「サンキュー弟! 感謝感激雨あられ! です!」
これは、私が今、一番欲しかったゲームではないですか!!
『Wonderland Fantasy Online/ヘッドギアセット』
そう書かれた納品書を思わず抱きしめます。ああ! これは売りません! もちろん! 買値の二倍、いや三倍で売ることができても、です!
約一年ほど前、『Wonderland Fantasy Online』という名前のこのゲームが発売されるという情報を見てから、このゲームは絶対に買いたい、そう思っていました。
でも、購入権利は抽選制になってしまっていて、私はその抽選に外れてしまって買えなかったのです。
抽選に外れてしまった人間は、転売屋さんから購入するか、次の生産分を購入待ちするしかありません。けれども、その購入待ちでもおそらくまた、購入権利をめぐる抽選が行われるのでしょう。そもそも、次回生産時期は未定、という状況でしたし。
そういえば元旦、『Wonderland Fantasy Online』、略してWFOのチラシをボーッと眺めていた記憶があります。タクマはそれを、覚えていたのでしょうか。
抽選には外れましたが、次回生産分の購入権利をゲットできた時のため、WFOについての知識はネット情報などで蓄えてきたつもりです。タクマからもらった本がなくても問題ありません、多分。早速、ログインしてみましょう、話はそれからだ!
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