弟との電話

『それはそうとして姉さん、ちゃんと送った本、読んでますか』

「今受け取って、今読もうとしましたが、諦めたところです」

『……』

「……」


 しばしの沈黙の後、弟が電話の向こうでまた大きなため息をつく音がしました。


「……姉さん、読書は大切だと今までに何度もお伝えしたはずですが?』

「いえ、元々読書は好きですが、こういった小難しい文体のものは生憎読み慣れていないものでして」


 小説は好きですが、ビジネス書の類や、小説の中でも文豪と呼ばれる方が書かれたものや、茶川賞、直本賞のような有名な賞を取るような小説は、読み慣れていない私です。あの文体、フォントの小ささ、ページ量は厳しいものがあります。


「そもそも私、取り扱い説明書を読まずに使うタイプですし」

『だから、取り扱い説明書を読まずとも、そのゲームを楽しめると?』

「そう思いますね」


 ゲームの楽しみ方は、人それぞれ。ゲームが生まれるまでの歴史や関わってきた人たちのことを知って、プレイするのも一つ。そういった内容は頭に入っておらずとも、好きなゲームを好きなだけ楽しむのもまた、楽しいはずです。


「タクマはタクマ、私は私、です。好きなようにやりますよ」


 タクマからのご厚意は、また気が向いたときに少しずつ、読むとしましょう。


「話は変わりますが、段ボール箱の中に入っていたゲーム機、それが今回の罰ゲームの内容ということで間違いありませんね?」

『ええ、そうです。……くれぐれも、大事にしてくださいね。それ、高いしそもそも抽選に当たらないと買えない、とても貴重なものなのですから』

「ほほう。……ならばそれ、フリマサイトに売れば、さぞ高くで売れるのでしょうね」

 むくむくと立ち上がってくる、どす黒い感情。勤務中は会社、オフの時は弟に叩きのめされるのであれば、私の心が休む暇がありません。

 それならば、このゲーム機を新品未開封状態で売り払ってしまえば、心の安寧、お財布の安寧が訪れるのではないでしょうか。

 世の中やはり、お金が一番大事ですし、おすし。かさもありませんし。その資金で、欲しいものをたくさん買うことが今の私に一番必要なことなのではないでしょうか。


 そんなことを考えていますと、それが伝わったのか、タクマが声を落として言います。


『……大体、あなたの考えていることは理解できます。けれど、それは得策ではないと思いますよ』

「なぜです? だって、大金が手に入るのですよ?」

 私の問いに、明らかにタクマが電話口で鼻で笑うのが聞こえました。


『なぜって、ゲーム機を売り払うより高いお金が、ゲームをしていれば手に入る可能性があるからですよ』

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