気を付けるべきことは何かな?<Ⅱ>

「お早う、諸君。昨日を経て色々と思うこともあるだろうが、一度忘れて今日の試験に集中したまえ。それでは、今日行う試験の内容について話をしよう」


 一度話すのを止め、クレストは参加者全員を見渡し、最後にわたしと目が合う。数秒見つめ合ったかと思うと、正面に向き直り、話を続ける。


「今日の試験は、この街で管理されている訓練区域2で行わせてもらう。説明が終わり次第、試験官の案内の元、開始位置に移動してもらう」

「サラさん、訓練区域ってどんな所かしら?」


 わたしが小声でサラに質問をする。


「えっとね、街の中に大きな柵で覆われた場所がいくつかあるんだけど、それぞれ木々で覆われていたり、岩場だったりして、様々な場所を想定した訓練場があるんだ。養成所でも何回か使ったことがあるよ」


 そういえば街を回っているときによくわからない柵が見えた気がするが、あれのことだろうか。獣などが襲ってくる心配のない安全な場所で訓練ができるのか。羨ましい、と思ってしまう。


「それで確か2の区域は一番広くて、森を想定して作られた区域だったと思うよ。森というより山……ほどではないかな?丘みたいな感じなの」

「……足場が傾斜になってるってことで良いかしら?」

「そうそう!あと、少し低い崖みたいな場所もあるよ」

「教えてくれてありがとう」

「いえいえ、えへへ」


 どんな地形かはある程度わかった。さて、そんな場所で何をやるのだろうか。


「──という訳で区域でやって貰うことは言うなれば「宝探し」だ。昨日風属性の試験を受けた者は想像しやすいだろうが、鋼性の数字が書かれた鉱物を探して貰う。そこに描かれている数字はそのまま持ち主の得点となる」


 どういう訳なのかは聞き逃してしまったが、「宝探し」と称して昨日のような浮き彫り細工を探すとのことだ。


「細かい説明について今からするので、各自しっかりと記憶するように」


 その言葉を聞き、すぐにメモ用紙と鉛筆を用意するサラ。こういう生真面目さが彼女の成績に直結しているのだろう。


「この鉱物はその区域内に隠してある。土の中、草葉の影、木々の上。各々が使える知識、魔法を駆使して集めたまえ。それらは我々の用意した袋に入れて貰い、最終的に入っている鉱物の点数で成績を付け、昨日と合算して結果を出させて頂く。制限時間は2時間だ」


 「最終的に」か。つまりそれは途中で仮に落としたりしたらその分は含まれないということだ。あるいは──


「察しのいい者は気付いているかと思うが、この試験は。参加者全員が敵だと思うことだ。ただし、必要以上にやらないこと。そこはお互い節度を守って行動するように」


 索敵、潜伏、戦闘。様々な力を求められる試験ということか。


「禁止事項は二つ。他者の袋の破損の禁止。そして、鉱物の加工の禁止だ。一応どちらともできないようにはしているが、念の為だ」


 ちらりと、こちらを見られた気がした。……流石のわたしでも勝つために他人の袋を破壊して点数を取れなくしようなどとは思わないのだが。


「なお、禁止事項の確認及び、怪我などによる緊急事態の為の監視係を各所に配置している。赤い笠を被っている為参加者と混同しないように。続けられないような大きな怪我でのみ危険が認められ、その場で所持している点数が成績となる。一応言っておくが、監視係が鉱物を持っていることはない為そのように」


 ある程度確保してから自分で怪我を負って棄権することもできるだろうが、少なくともわたしはしないし、そういった自演行為は監視されてできない可能性もある。やるとしても危険な賭けだろう。


「最後にひとつ。だ。諸君、善処するように。以上だ。」


 一礼し、壇上から降りていく。入れ替わる形で案内係の人達が入ってきて、三十人ずつ固まって移動を開始する。


「……こんな感じかな。ねえリリアさん。何か気をつけた方が良いことってあるかな?」


 重要点を描き終わり、サラが顔を上げる。わたしは少しだけ考えて、


「そうね……できる限り移動し続けた方が良いと思うわ。それを意識して集めなさい」

「……なんかちょっと抽象的だね」

「わたしも確実にそうだと言い切れないからね……間違ったことを教えても嫌だから。ただ、隠密が得意ではないのであれば隠れるのはお勧めしないわ」

「隠密用の魔法は最低限だし……わかった、意識してみる」


 わたしの言葉までしっかりメモ書きするサラ。……まあ、昨日の魔法を見て攻撃してくる人はそうはいまい。もしいるとすれば……。


「……?どうしたの?」

「いえ……ほら、行きましょ」


 係に呼ばれ、わたし達も移動を開始する。

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