気を付けるべきことは何かな?<Ⅰ>

 わたしは何をしているのだ!そう思いながら布団の中で頭を抱える。時間を戻したい……。しかし、師匠せんせいでさえ、時間を巻き戻す魔法については知らないはずだ。いや、もし知っていたとしてもわたしが使えないと意味が無い!


 意識が飛ぶ前後の事はサラから聞いた。あんなの人に向けて撃つ魔法ではない。ましてや試験という場で見せるなんて論外だ。


「二日目……参加しないといけないよね……」


 出来る限り目立たないようにしたかった。正直に言ってしまえば多少は良い評価を狙おうとは思っていた。


 魔法使いに限らず、証明書には「等級」というものがある。白等級から始まり、黄、緑、赤、紫、銅、銀、金と上がっていく。等級が高いほど実績を残していたり、実力が認められている証拠となる。高い等級でないと入れない場所もあるのだとか。


 試験に受かった者は基本的には白等級になるのだが、優秀な成績を収めた者は少し上から始まると師匠せんせいから聞いたことがある。


 出来る限り高い等級から始まる事が出来れば、それだけ早く行動ができる。なので、「目立ち過ぎず、出来る限り良い結果」という、欲張った考えをしてしまった罰なのだろうか。


 ただ、前半部分は叶わないが、後半の「良い結果」という点は何とかなるだろう。強化魔法の試験も、いの一番に渡す事が出来たのだ。


 あれこれ悩みながら支度を進めていると、扉が叩かれる。


「リリアさん、起きてる?ちょっと早く来ちゃったけど、大丈夫かな?」

「ごめんなさい。すぐに支度を終わらすわ」

「いいのいいの!じゃあ下で待ってるね!」


と言い、足音が遠のいていく。顔を洗い、着替えて部屋を出る。眠気は取れたので、昨日のようなことは起こらない……はずだ。


 階段を降りて下で待っていたサラと外に出る。時刻は八の刻から半分くらい過ぎている。


「ちょっと早いし、一緒に朝食でも取りましょ」

「ええ、いきましょ」


 そういえば昨日から食べていなかった。何も口にせずに行動することは経験しているためそこまで気にしていなかったが、食べられるうちに食べておいたほうが良いだろう。


 サラに連れて行かれ、朝食を取る。朝食を食べながら、サラが昨日のことを聞いてくる。


「昨日のことなんだ──」

「忘れてちょうだい」


 わたしは間髪入れずに答える。しかしサラは食い下がる。


「いやいや、流石に忘れられないよ!あんな魔法見ちゃったら色々聞きたくなるよ!」

「う……」


 さて何と答えるべきか……と考えてると、サラの方から


「まあ、今はそっちの話は良いか……」


と言ってきた。


「……?他に何が……」

「あの時の声、やっぱりリリアさんだよね……?ありがとうね……私の為に」


 伝心の魔法を使った方か、と気付く。


「いえいえ、むしろあそこで驚かせてしまってごめんなさい」

「最初は確かにびっくりしたけど……でも、あのお陰で落ち着いて魔法を使えたわ。……あそこまでの魔法使ったのは初めてなのだけど……」

「あれはサラさんの実力よ。わたしは何もしてないし、何かしてたら逆に問題じゃない」

「あはは、確かに何かしてたら問題だね!……そっか、私、あんな魔法使えるのか……」


 そんな話をしながら朝食を食べ終え、会場へと向かう。向かっている途中で、こんな話をする。


「そうだ、今日の試験の内容がどんなものかわからないけど、手を貸すつもりはないわよ」

「……大丈夫!見ててね、一人でもしっかりできるんだから!」


 そう言って二人で笑う。会場に着くと、わたし達に視線が集まり、ヒソヒソと口々に昨日の話をする。


「あの人でしょ?昨日竜巻起こしたって言うのは……」

「建物を半壊させたっていう……」

「最初の試験の方でも凄い結果残したとか……」

「あの子の隣にいる人も最初の炎魔法の子でしょ?そう考えると化け物な二人組じゃん……」

「あの二人が組んだらヤバいんじゃ……」


 一部誇張されているようにも聞こえるが、わたしとサラの事が噂されている。すると人混みの中から三人が近付いてくる。ロゼ達だ。


「貴方が昨日素晴らしい魔法を使ったという方ですの?実力を隠していたなんて、わたくし早く帰ってしまった事を後悔してましてよ?」


 ため息をしながらロゼが言った。


「いえいえ、噂されている程では……」

「あら?謙遜なさいますの。実力がありながらそれを誇らないなんて、わたくしとしては考えられませんが、それもまた一つのあり方ですのね」


 彼女なりに褒めているのだろうか。


「そう言えば、まだ貴方に自己紹介をしておりませんでしたね。わたくし、名をロゼ・C・クリスティアと申しますの」

「えっと……わたしはリリア・F・ルーベルトです」


 ロゼが一礼をし、わたしと何故かサラもそれに倣って頭を下げる。ふと彼女の取り巻きが目に入る。こちらを睨んでいるように見える。


 すると、クレストが壇上に向かって歩いてきた。それに気付きロゼが、


「ではこの辺で。次の試験でもお互い良い結果を目指しましょ。サラさんも、御機嫌よう」

「あ、えっと……ごきげんよう、です……」

「よろしくね」


 そう言い、元の場所へ戻っていく。クレストが壇上に登り、話を始めた。二日目の試験が始まる。

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