実力はどれくらいですか?<Ⅲ>
サラは一向に魔法を展開する素振りすら見せない。そうなると余計にサラに視線が集まる。その視線を感じ、余計に顔が強張る。
「289番、そろそろ魔法を展開しなさい」
時間を確認して、クレストが声をかける。聞こえているのかわからないが、顔を前に向けて何かしようとする。
……わたしも行くべきだったかしら。そう思うが既に手遅れだ。わたしはクレストの方を見て、他の担当者の方を見た。……まあバレないだろうし、バレても問題は無いはずだ。
(サラさん。落ち着きなさい)
「ひゃっ!!はいっ!!」
とサラがびっくりする。キョロキョロと辺りを見渡すサラのことを不審に思い、「289番」とクレストが再度声をかける。
「はっ……はいっ!!」
「……そろそろ失格にするぞ」
「はい……わかりました……」
驚かせてしまって悪いとは思いつつ、再び魔法を使う。
(ごめんなさい。でも、落ち着いて、深呼吸をしなさい)
(この感じ……もしかしてリリアさん……?)
(今は目の前の事にだけ集中して、ゆっくり深呼吸をしましょ)
(集中……集中…………)
サラが深呼吸を始める。取り巻き二人が何か言おうとした所をロゼが静止する。
もうわたしの声は必要ないだろう。サラは深呼吸と共に魔力を全身へ巡らせた。そして、全身から手に魔力集める。
魔法を展開する。ロゼの魔法が三角形を描いていたのに対し、サラは三つの魔法陣を直線上に展開し、それぞれ二つの接合魔法で繋いでいる。
そして魔法を放つとーー轟音と熱風がこちらを襲う。クレストがすぐに魔法を展開したため、実際のものより被害は少ないのだろうが、それでも耳を押さえて風によってよろける人がいた。
「……よし、五人はこれで終了だ。次に行いたい者はいるか?」
クレストが声をかけ、慌てたように担当者が土人形を作る。しかし、すぐには声が上がらない。それもそうだ。サラとロゼ、二人がそれぞれ放った魔法は見た目こそ違えど与えた衝撃は凄まじい。心が折れた者も少なからずいるだろう。
サラは急いでこちらに戻ってくる。
「おめでとう。ちゃんと実力を出せたんじゃないの」
「ええっと……アリガトウゴザイマス?」
片言で、しかも疑問系で返事を返すサラ。
「いや、そうじゃなくて!リリアさん、私に話しかけてきたよね!?しかも他の人には聞こえないように!」
伝心の魔法を使い、彼女を落ち着かせるために話しかけた。最初こそ驚かせてしまったけど、結果的に彼女の実力を出させる事ができて良かったと思う。
「静かに……大丈夫だとは思うけど、一応別の魔法使ったことが咎められる可能性もあるから……」
「えっ……あ、うん。わかったよ……そのかわり、後で色々と聞かせてよね」
とサラは言った。すると、こちらに向かってロゼと取り巻き二人が歩いてきた。
「サラさん。貴方、あれだけの実力を隠していらっしゃったのね?」
「ロゼさん……いえいえ、私じゃなくて、リリアさんのお陰で……」
「わたしは何もしていません。彼女が実力を発揮した結果です」
こちらを少し睨むサラの視線を避けるように目を逸らす。するとロゼが、
「わたくし勘違いしておりましたわ。てっきり実力がなく知識だけの方かと思っておりましたが、ちゃんと実力も伴っていたようで」
彼女なりに誉めているのだろうか。サラは「えへへ……」と照れているようだ。
「ではわたくし達はこの辺で。明日の為に、万全は期したいものなので、失礼いたします」
一礼し、建物内に歩いていく。取り巻き二人が何か言いたそうにこちらを睨んでいるが、すぐに振り返り、ロゼの後を追った。
「なんか……リリアさんには助けて貰ってばかりだね」
「そんな事ないわよ」
「あるよ!街に来る時だってそうだし、私を落ち着かせてくれたり……」
「その代わり、宿を始めこの街の事を教えてくれたじゃない。それに、服だって見繕ってくれたし……」
「それだけじゃ足りないよ……!本当に、ありがとう……ね……!」
今にも泣き出してしまいそうなサラを宥める。わたしとしては
わたしに抱き付くサラを振り解くことはせずに、最後の方まで順番を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます