実力はどれくらいですか?<Ⅱ>

 わたしは最初の会場に戻り、休憩のために適当な長椅子に腰掛ける。他の試験はどういうことをやっているかわからないが、ちらほら戻って来ている人がいる。サラの姿は見当たらないので、目を瞑って待つことにした。


「──きて。おーい、起きてよ、リリアさん」


 体を揺さぶられ、目を覚ます。サラが横に座っていた。


「あ、ごめんね。起こさないほうがよかったかな?」

「いえ、ありがとう」


 ほぼ全ての人が戻って来ている。すぐには始まらないだろうが、ここら辺で起きておいたほうが良いだろう。


「びっくりしたよ……私の試験が終わって戻って来たらここで寝てるんだもの……」

「ちょっとね……試験はどうだった?」


 私がそう振ると、その言葉を待っていたかのように元気に話し出す。


「えっとね、今回の試験は炎属性らしく、「段々硬度が上がっていくものを強化魔法をかけて壊せるだけ壊す」ってものだったんだけど、リリアさんに教えてもらったようにやったら集中できて結構残れたんだ!……まあ、最後の方で試験の先生とほぼ一対一になって、重圧に耐えられなくてギリギリ五人の中に残れなかったんだけどね……」

「好成績じゃない、おめでとう」


 わたしがそう言うとサラは「えへへ……」と照れる。


「そういえば、リリアさんの試験ってどんなのだったの?」

「えっと、わたしは──」

「皆様、休憩の程はよろしいでしょうか?次の試験を開始しますので皆さんついて来てください」


と、試験の責任者であるクレストが呼びかける。ぞろぞろと動き出す参加者に倣い、


「その話は後でね、行きましょ」

「あ、うん」


とわたし達は立ち上がり、最後尾の方へ付いた。


 着いていった先は、先程の中庭だった。あれだけ動いていた地面は元に戻っており、最初に来た時となんら変わりのない状態だった。


「次は「放出魔法」の試験を行う。準備を」


 その合図と共に、風魔法の試験担当者だった三人を始め、複数の人が魔法を使う。地面が少し盛り上がり、わたしよりも一回り大きい人型になった。


 準備が出来たことを確認し、クレストは風魔法を使って一直線に地面に印を引いた。


「この位置から出ないように魔法を使って各自三つの的に当てるのが今回の試験だ。放出魔法であればどんな魔法を使おうと構わない。ただし、どれだけ魔法を使おうとも、魔法は同時に使用し、魔法を使える機会は一人一回のみだ」


 印から土人形までおおよそ百歩程あるだろうか。放出魔法であれば何を使おうと良いとは言われたが、どうしたものか。


「なお、試験は五人ずつ行わせて貰う。各自準備ができ次第参加を申請してくれたまえ。試験が終わったものは明日に備えてすぐ帰っても良いし、ここに残って見学して貰っても構わない」


 あまり目立ちたくは無いし、人が少ないであろう最後の方にしよう。しかし、眠いな……。


「ならば!このわたくしが先陣を切って差し上げましょう!」


 声高々に宣言するのはロゼ。ロゼを先頭に二人の取り巻きも前に出る。しかしそれに続く者が現れない。そうしてるとロゼが、


「もしよろしければ、サラさん。貴方も一緒に試験を受けないかしら?」


とサラに声をかけてきた。視線がこちらに集まり、サラが慌てる。


「えっ……どうしよう、リリアさん……」

「別に、断っても問題ないと思うよ」


 そうは言ったものの、この空気では断り辛いか。サラは息をゆっくり吸い、吐き出した。覚悟を決めたのか、前を向く。


「リリアさん、私、行ってくる」

「わたしはいかないつもりだけど、大丈夫……?」

「うん……本音はちょっと一緒に来て欲しいけど、リリアさんは人が少ない最後の方にやると思った。……頑張ってくる」

「ええ、行ってらっしゃい」


 わたしは彼女を見送る。深呼吸を繰り返しながらロゼの元へ歩いていく。別の人が手を上げ、五人が揃った。


「それでは……始め!」


と言う声と共に、各自が魔法を展開する。


 魔法を使う際、まず頭の中に使う魔法の魔法陣を思い描く、その後、その魔法陣を空中に描くように魔力を注ぎながら展開する。強化魔法であれば、魔法をかける対象に魔法陣を刻むように展開する。


 魔法陣の数によって魔法の強さや効果が変わっていく。普段魔法を使わない人でも、最低二つは魔法陣を展開出来る。一つの手で一つの魔法陣を描く感じだ。実力のあるものはより多くの魔法陣を展開し、より強力で複雑な魔法を使う。


 サラとロゼ以外の三人は、それぞれ三つの魔法を単独で展開した。単独とはいえ、魔法陣の大きさはそれなりにあり、発動する魔法はそれなりのものだろう。


 ロゼはと言うと、二つは三人と同じくらいの大きさだが、一つだけ三つの魔法陣を接合魔法という魔法で繋いで三角形を描き、大きな魔法を放つつもりだ。


 接合魔法は、一つ一つの魔法陣の間に絡繰からくりの歯車のように噛み合わせるための魔法だ。接合魔法に割く魔力は少ないので、大体接合魔法二つ分が別の一つの魔法陣と同じ位だ。


 ロゼは五つの魔法陣に三つの接続魔法、つまり最低でも七つは使える事になる。


 四人は魔法を放つ。特に目立つのはロゼだ。彼女の魔法は二つが風魔法と雷魔法、一番大きな魔法が水魔法。恐らく彼女の得意とするのが水属性なのだろう。それ以外の魔法も周りと大差ないくらいには強いものだ。


 土人形に魔法がぶつかる。ロゼが放った水魔法がぶつかると大きな音を出しながら弾ける。


 壊れた土人形の破片が水飛沫と共にこちらに飛んでくる。それをクレストが魔法で止める。


「「流石ですロゼ様!!」」


 取り巻き二人が拍手をし、ロゼはこちらに向けて一礼をする。周りの人の中には、自信をなくしたのか青ざめている人もいる。


 そういえばサラは……と目を向けると、魔法陣を展開してるように見えず、ただ自分の両手を見ているだけだった。

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