実力はどれくらいですか?<Ⅰ>
「──272番、279番、281番、288番。こちらの担当者の元へ」
わたしの番号が呼ばれたため、指示された通りに担当者の方へ歩いていく。六十人はいるだろうか。担当者は全員が集まった事を確認し、
「……行くぞ」
と言った。担当者は女性の方だ。黒髪を後ろで纏めた、少し厳しそうな感じだ。
しばらく歩き、中庭と呼ぶべきだろうか、開けた場所に着いた。中庭といっても、その空間に家が二軒は入りそうなくらいには広い。着いた先には、担当者なのか二人の男性がいる。
「試験はここで行わせてもらう。まずは各自番号を呼ぶためこちらに来てくれ」
と言い、一人ずつ番号呼ばれ、呼ばれた人は担当者の女性の所へ向かう。担当者から何かを受け取り、それを確認した後に担当者にそれを戻し、元の場所へ戻っていく。
「次、288番」
わたしの番が来た。担当者の所に向かうと、鋼製の何かを手渡される。「288」という文字が浮き彫り細工のような物だ。恐らく各自の番号が合っているかどうか、渡して確認させているのだろう。
わたしが鋼性のそれを担当者に返し、元の場所に戻ると、女性は試験の内容を話し始める。
「ではこれより、風属性の強化魔法の試験を始める。先程一人一人に確認して貰ったのは、人数と番号が揃っているかを念のため確認した。今回はこの浮き彫り細工を使って試験を行う」
一瞬浮かせたりするのかと思ったが、それをやるのは強化魔法ではなく放出魔法だ。それにわざわざ番号で分ける必要も、こんな開けた場所で行う理由もない。とすると……。
「我々試験官は各々土魔法を使い、この中庭を自由に操作する。その中にこれを入れるので、各々自分の番号のものを見つけ出してこちらに持ってきてもらう」
なるほど、縦横無尽に動き回る大地を、魔法を使って駆け巡れということか。
「説明は以上だ。質問のあるものは挙手を」
一応質問を考えるべきかと悩んでいると、恐る恐る一人の少女が手を挙げる。
「えぇっと……質問、よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「あの……土魔法で地面操作するってことは、さっきの鋼のやつ、土の中に埋まっちゃうんじゃあ……」
「そこは我々も熟練の者を集めている。土の中には埋まらないようには魔法を使うので安心したまえ」
流石に土の中に埋まって取れなくなってしまい、試験で不当な評価を受けることはないようだ。わたしも聞きたいことが思いついたので質問をする。
「すみません。風属性の試験ですが、それ以外の属性の魔法を使ったり、放出魔法を使うのはよろしいでしょうか?」
わたしの質問に一瞬担当者が考える。
「もちろん構わない。が、あくまで試験としては風属性の強化魔法をどれだけ使えているかで判断する。そこだけは忘れないように」
と答えた。わたしの質問に周りの人が小声で
「おいおい、風属性の試験受けに来たんじゃないのかよ……」
「他の属性の魔法って……自慢したいだけじゃないの?」
「ここじゃなくて別の試験で披露しろよ……」
と口々に言う。こう言う反応になるだろうとは思い、気にしないことにした。
担当者が鋼性の浮き彫り細工を地面に置く。地面がせり上がり、徐々に中庭の各所にばらけていく。それに伴い中庭の地面が上下しだす。砂埃が舞い、土壁に阻まれ、自分のものがどこにあるかなんてわかったものではない。
「では試験を始める。制限時間は30分だ。それまでに持って来たら評価する。始め!…………なっ!?」
「始め」の言葉と共にわたしがいの一番に駆け出す。土壁を二、三回蹴って飛び超える。風を吹かして砂埃を吹き飛ばし、再び駆け出す。数回地面を蹴ってとりあえず見つけたものを手に取る。
「113……違う」
違うものをどうするべきかと悩み、同じ場所に戻す。見つけ次第取っていく作戦で一度試してみようと思い、魔法をかける。風魔法を広げ、検知をする。近くにあるのは四つか。加速をし、壁を蹴りながら四つ集める。
「054、102、033、272……効率悪いかな、これ」
その場に4つ置き、動きながら考える。手当たり次第とるのは悪くはない。まだ他の人は追いついていないが、すぐにくるだろう。そうなってしまえばより探すのに手間がかかってしまう。できれば早く見つけたいものだと思い、新たに手に取った「170」の浮き彫り細工を置きながら考える。
「あの魔法を使うしか……」
そう呟き目に雷属性の魔法をかける。自身が触れた物や足跡などに残る電磁波を捉え、見分けることができる魔法だ。ただ、残る電磁波は本当に微弱であり、自分のものだけを限定的に捉える必要があるため、立ち止まって集中する必要がある。
近くに反応が六つ。これはさっきのやつか。少し遠く、せり上がった地面の上に反応がある。……あれかな。場所は大体わかったので魔法を解くと同時に足に魔法をかけ走り出す。普通に歩けば二百歩はかかるところを三歩で移動し、せり上がった地面を駆け上がる。
丁度動かす瞬間だったのか、登っている途中で地面が曲がりながら地面に向かって動く。自分のものらしき浮き彫り細工が曲がった方向に吹っ飛んでいく。
地面を蹴り、風でなんとか手繰り寄せて手に取る。「288」……わたしの番号だ。地面に着地するとそのまま開始位置に向けて駆け出す。最初に土壁になっていた所は時間によって動かしたのか今は何もない。勢いのまま担当者の元につき、流石に勢いが殺しきれなかったため、一度建物の壁を蹴り、宙返りをしながら着地する。
「これで大丈夫でしょうか?」
「……ええ、腕章とも同じね。ここに残っても良いし、中に戻って休憩してくれても良いわ……」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言い、わたしは建物の中に戻ることにした。出来れば風属性の強化魔法だけで済ませたかったが、あまり時間をかけるべきでもないと思い、使うことにした。これで評価が落ちてないと良いのだが……。
ーー
228番が建物内に入ったのを確認し、時間を確認する。
「1分37秒……あの歳でどうやってそんな速度を叩き出せるのよ……」
過去に同じ試験を行った際の最速記録の十分の一にも満たない数値を叩き出した少女に、唖然するしかなかった。
ーー
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