準備は万全ですか?<Ⅱ>
試験の内容は同じとは限らない。しかし、大まかな流れとしては同じという話を昔師匠せんせいから聞いたことがある。
前日の登録時、名前の登録と共に自分の得意魔法についても聞かれ、わたし達はそれぞれ「炎属性」と「風属性」を選んだ。
得意な魔法を元に、1日目は「強化魔法」と「放出魔法」の試験を、2日目は外で実践的な試験を行う。また座学の試験を行うこともあるそうだが、基本的に魔法がしっかり使えれば問題は無いためそこまで頻度が高い訳では無いらしい。
そんな事を考えながら深呼吸していると、とても深呼吸とは言えない速度で息を吸ったり吐いたりしているサラがいた。
「……サラさん。それじゃあ落ち着かないわよ」
「うぅ……わかってるけど……でも、やっぱり緊張して……」
どうにも緊張が解けないらしい彼女に対し、何か助言出来ないものかと考える。
「そうね……在り来りだけど、まずゆっくり息を吸いなさい」
「ゆっくり……ゆっくり…………すー…………」
「そう、吸い込んだら、同じようにゆっくり息を吐きなさい」
「はー…………」
まずは落ち着かせるために、普通の深呼吸をさせる。
「そして、また同じように息を吸いなさい。今度は自分の中の魔力を一点に集中させるように」
「一点に……集中……すー…………」
「その後、息を吐きながら魔力を全身に巡らせるように」
「はー…………なんか、いつもと違う……?気がする」
少し疑問形だが、違いを感じ、手を広げたり閉じたりしている。
「基本的に、魔法を使う時は手だったり、杖やその腕輪みたいな媒体に集中するように魔力を集めるよね」
「うん……養成所でもそう教わったわ」
「今は逆に全身に魔力が行き届くようにしたわ……そうね、温かい飲み物を飲んだ時、体全体が暖かくなる感じかしらね」
「はー」とサラは息をつく。
「でも、これって何の意味が?」
「例えば、足だけに強化魔法をかけた事はあるかしら?」
「えっと……一応授業の時に手や足だけに強化魔法をかけて岩を壊した事はあるけれど……」
「じゃあ、足から放出魔法を出そうと思った事は?」
「……いやいや!放出だよ!?足から何を出すのさ……」
予想通りの返答に少し笑う。そして、戸惑う彼女に話を続ける。
「そうかしら?例えば炎魔法であれば風魔法を使っているように炎を噴出して早く移動する事が可能よ。土魔法や水魔法はわざわざ手で触れなくとも地面を操作したり柔らかくしたり出来るわよ」
「ううむ……言われてみれば……でも、それとこれと何か関係が?」
と言う彼女の問に、
「それじゃあ、手から放出魔法を出しながら足だけに強化魔法をかけたことは?もしくは、足だけに強化魔法をかけて、移動中に足だけにかけていたものを手だけに変更した事は?」
「なんか、先生みたいな事を言うわね……リリアさんの先生譲りかしら」
意識はしていなかったのだが、そう言われれば
「えっと……多分だけど、実践的な事を話してるのかしら?」
「そうね、こういう一つ一つの魔法が必要な場なら別だけど、今後魔法使いとして行動するにあたって、どのように魔法を使い分けるか、どうすれば効率よく色んな魔法を使えるか、意識するべきことだわ」
「そういえば、クレスト先生もそんな事を言ってたような気がするわ……あの時は理解してなかったけど、今思うと今後の事を考えての発言だったのね……」
魔法使いになる人は、基本的にどこかの護衛となる事が多いため、基本的に危険な場所にわざわざ向かうことがない。
また冒険者として各地を旅するにしても、剣士や射手のように魔法を使う人以外と組むことが普通だろう。そうすれば、魔法を放つ時、味方に強化魔法をかける時など、一つ一つの行動に魔法を割くことになる。
この考え方は、言わば「魔法使いのみで危険な場所を行動する」という意味になる。つまり、あのクレストという男はそういう道を辿る人もいるだろうという上での発言だったのか、あるいはそういう経験でもあるのだろうか……。
もちろん、護衛になろうが他の武器を使う人と組もうが、魔法の使い分けが必要じゃない訳では無い。だが、実力の高い人ほどこの考え方に則ってしっかりと魔法を使用するらしい。
「まあ、今回やったのはそういった使い分けのための練習の一環に過ぎないわ。常に全身に巡らせるなんて魔力が勿体ないもの」
「なるほど……でも、ありがとう。ちょっと落ち着いてきた」
どうやら緊張は多少なりとも解けたようだ。その言葉に安心した。
「もしまた緊張してきたら同じようにやりなさい。……ただ、少し時間はかかるから、出来れば自分の番が来るまでにね」
「そうだね……ありがとう!」
「それでは、今から「強化魔法」の試験から始める!番号を呼ぶので呼ばれた人は各自担当の者に着いて行くように」
数分後、クレストとは別の女性試験官らしき人が全体に向けて声をかける。炎属性の人から順に呼ぶらしい。先にサラが、
「それじゃ、お互い最善を尽くしましょ」
「ええ、頑張りましょ」
と言い、担当者の方に歩いていく。「さて」と呟き、眠気を振り払うように軽く運動を始めた。
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