彼女に目をつけられているの?<Ⅱ>

 宿に着き、手続きを済ませ、部屋に入る。荷物を部屋に置く必要はないので、少し休憩をしてからお店に行く事にした。ベッドに二人で座り、少し沈黙が続いた後、サラが口を開く。


「あのね……察しはついていると思うのだけど、さっき会った人が養成所で一番と言われているロゼさんなの。【ロゼ・C・クリスティア】さんは自分でも行ってたけどこの街の領主の娘さんで、それもあってちょっとね……」


 やはりそうだったのか、と納得をする。「魔法使いの街の領主の娘」というと一見七光りのようにも聞こえるが、実力が伴っているのであれば流石というべきか。ふと、気になった事をサラに聞く。


「ところで、あのロゼさんって人はあなたに目をつけているようにも見えたけど……」

「えっとね……改めていうのも恥ずかしい話だけど、私も養成所の先生に目をかけられていて……と言っても座学面だと思うんだけどね。それで成績で少しだけロゼさんを上回ったことがあって、田舎から来た私に抜かされるのが彼女にとって癪だったようで……」


 要するにサラに嫉妬しているのだろう。またサラは「試験本番に弱い」とのことなので、「座学だけできて実戦だと力がない」ように見える彼女のことが気に食わないのだろう。


「でも私の見た限りだと、リリアさんの方が実力があるから大丈夫だよ!」

「……今度はわたしが目をつけられる気がするのだけど」


 まあわたしは試験さえ受かってしまえばすぐに他の場所に旅に出かけるので関わることはないだろうが……。サラがこれからどうするのかはわからないが、もし受かってからもここに残り続けるのだとしたら大変だろう。話が終わり、サラが立ち上がる。


「さ、話はこれくらいにしましょ。やっぱり、服をしっかり見繕いましょうか」

「うーん……わたしはこのままでもいいのだけれど……」

「いーや、選びます!規定はないのかもしれないけど、試験官の人の評価が変わってしまうかもしれないからね」


 そこまでこの服装じゃダメなのだろうか……と気になってしまう。わたしも立ち上がり、サラにつられて店に向かう。



 薬品のお店と魔道書のお店を複数周り、最後に服のお店によってからサラと夕食を取る事にした。服のお店ではサラにいろんな服を着させられた。当初の目的の薬品のお店よりも長い時間滞在した気がする。


 動きやすさは重視しつつ、前よりも明るめの色を基調としたワンピース。フードがついているだけだった羽織物も、装飾があしらわれたローブとなった。ワンピースなのだが、動きやすさはさほど変わってないので良いのだが、いかんせん色合いが気になるところ。これでは潜伏するには向いていないため、流石にローブは黒基調の目立ち辛い物にしてもらった。


 また今までの服装と違いスカートがあるのでヒラヒラとする感覚が気になってしまう。サラが満足そうにしているのでこれで良いかと思うことにした。


「やっぱり地の顔が可愛いから明るい色が似合うわね!」

「あはは……ありがとう」


 お店に入り、夕食を待っている間にそういう話をする。給仕人が注いでくれた水を飲み、「そういえば」と質問をする。


「試験って明日だよね?登録って明日の何時からなの?」

「……あ」


 サラが固まる。なんとなく嫌な予感がした。おそるおそるサラに聞く。


「もしかして……登録って今日じゅ──」

「忘れてた!!今日の二十一の刻になるまでだった!」


 私の言葉を遮り、サラが慌てて立ち上がる。「何事か」と思ったお店の客がこちらに視線をやる。魔法を使い、時刻を確認する。二十の刻から半分……つまり、残り30分で登録が出来なくなってしまう。


「お店の人ごめんなさい!私達時間までにやらないといけないことがあるので注文は無しで……いや、すぐ戻って来ますので後でもよろしいでしょうか!?」


 サラが早口で説明し、給仕人の方は少し戸惑っていたが頷く。わたし達はお店を出て、試験会場に向かう。


「飛んで行ったらすぐ着くから飛びましょ!」

「……流石にこんな街中で飛ばないわよ。目立つし……でも、間に合うようにはするから案内よろしくね」


とわたしが答え、強化魔法を二人にかける。風魔法は強化魔法として使えば、移動速度や跳躍力を上げることができる。


「うわっととと……!任せて!」


 急な速度変化に一瞬慌てるもすぐに慣れ、サラが走り出す。


 なんとか登録は間に合ったものの、お店の時間も限られていたため慌ただしく夕食を食べる羽目になった。

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