彼女に目をつけられているの?<Ⅰ>

「あ、あれかなディラの街って」

「……さりげなく遠くを見えるように私にも魔法をかけるのどうかしてるわよ……うん、あれがディラの街だよ」


 あれから1日、特に空中の獣に襲われることも無く無事に辿り着きそうだ。


「もう少ししたら降りるから、後は歩いて行きましょ」

「えっ?このまま街に行かないの?」

「飛行した状態で街に入るなんて普通じゃないわよ」

「リリアさんに普通を語られるとはね……」


 失敬な。そう思いながら着陸する為に少し高度を下げる。さすがに隠匿魔法を使っても急に街中に着陸するのは違和感がある。それにディラの街は証明書がなくても入れるのでわざわざ関所を素通りする理由がない。


 人がいないことを確認しつつ、念のため隠匿魔法で二人の存在を隠しながら着陸する。ここまで人がいる場所はあまり通らずにきたので隠匿魔法はしてこなかったのだが、まあ見られていたところで高度は少し高めに飛んでいたので黒い影にしか見えてないと思う。


 着陸し、魔力の確認をする。……よし、これだけあれば試験前には万全の状態になるだろう。


「ごめんなさい、行きましょ」

「改めて思うのだけれど、魔力量多いわね……休憩してるとはいえ、4日間も魔法を使い続けていた訳だし……私にできることがあればなんでも言ってね」

「そうね……サラさんの方がこの街に詳しいから、試験の間泊まる宿と、魔力回復用の薬を買うためのお店も教えてくれるとありがたいわ」

「っ!!わかったわ!じゃあ行きましょ!」


 嬉しそうに言いながら歩き始める。その姿を見て「ふふっ」と笑いながらついていく。こうして笑ったのはいつ以来だろう。


 しばらく歩き、関所が見える。関所に着き、試験のために来たことを告げる。サラも居たため特に何事もなく簡単な荷物検査だけで通ることができた。


 ディラの街は別名「魔法使いの街」と呼ばれている。魔法使い養成所は色んな場所にあるが、ここの養成所が一番規模が大きく、多くの優秀な魔法使いを輩出している。


 それゆえ魔法使いを目指す人は余程遠くない限りディラの養成所に入りたいらしく倍率も高いのだとか。そんな学校に入り、試験を受けても良いと言われたサラはそれなりの実力は持っていると思う。


 また、サラ曰くそんな養成所でも一目置かれている人がいるらしい。そうでなくとも同年代の魔法使いが試験を受けるのだ。この8年間、交流という交流を殆どしていなかったので少し楽しみな自分がいる。


「まずは宿だね。荷物置いてからお店を周りましょ。……と言っても、置くほどの荷物は無さそうだけど……」

「食料や飲料水は現地で調達すれば良いし、後は数日分の服と小物だけよ」

「年頃の女の子としてどうかと思うけど……よし!薬品のお店行ってから服も見ましょ!」

「そこまでのお金は無いのだけど……」

「いいの!それくらい私が出すから!」


 変にヒラヒラした服を着ても戦いに向いてないのにとわたしは思った。だが、確かにそう言う服を着たことが殆どない。こういう機会だし見るくらいなら……と宿に向かっていたサラの足が止まる。


 何事かと思い、前方を見る。三人の少女が前に立っている。一人はいかにもお嬢様っぽい服装で、肩まである金髪にウェーブをかけている。残りの二人は取り巻きかあるいは従者なのか、金髪の少女よりも半歩後ろに立っている。


「あらサラさん、御機嫌よう。2週間前にこの街を離れたから、てっきり試験が怖くなったのかと」

「……ロゼさん」


 「ロゼ」と呼ばれた少女は自分の髪の毛を指でクルクルと弄りながら話を続ける。


「わたくし心配してましたわよ。講師の方々に太鼓判を押されていた貴方がいなくなってしまったら、講師の方々の面目が潰れてしまいますからね」

「ええ……心配してくれてありがとう……」


 そういうサラの顔は少し強ばっていた。緊張しているのだろうか。とすると、彼女が一目置かれているという人なのかもしれない。


 ロゼはサラの後ろにいるわたしの方に視線を向ける。この街では見かけない風貌のわたしを見て、サラに問いかける。


「あら、この方は何方かしら?まさかこの方も試験を?」

「……ええ、そうよ」


 サラに変わってわたしが答える。ロゼはわたしの身なりを確認し、


「ふぅん……随分と古い服を着てらっしゃるけど、まさかそんな姿で試験に臨むつもりで?」


と言ってきた。服も定期的に新品にしたり洗っているとはいえ、目立たないように灰色の生地を選び、基本的に森の中で生活していたため、端から見れば少しみずぼらしく見えるだろう。


「試験を受けるための服装に規定はないはずだわ」

「ちょっと!ロゼ様が心配してくださってるでしょ!口答えするんじゃないわよ!」

「そうよ!そんな服装で参加して、この街の魔法使いの品格を下げるつもり!」


 取り巻きと思われる二人が声を荒らげた。しかし、


「おやめなさいカリムさん、アコさん。……そうね、確かに規定はありませんわ。それに、外部の魔法使いの格好がおかしくても、この街の品格が下がるわけではございませんわ」


とロゼが二人を諭す。カリムとアコと呼ばれた二人は静かになる。少しは話が通じる人なのかと思っていると、


「なぜなら、この街の領主は誇り高き我が「クリスティア家」の収める地ですもの!わたくし自身が気品溢れているだけで充分ですもの!」


と高らかに言った。そういうとロゼはくるりと振り向き、


「では御二方、御機嫌よう。精々明日は恥をかかないように頑張ってくださいまし」


と言い三人は帰っていった。しばらくして三人の影が見えなくなった後、


「あはは……ゴメンね。いいように言われて。あまり気にしないで。さ、行こっか」

「……ええ、そうね」


とサラが歩き出す。浮かない顔のサラのことが気になるが、なんと声をかけるべきか悩み、結局、わたし達は宿に着くまで無言のまま歩いていった。

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