第3話過去(side 伊織)

 僕の両親は恋愛結婚だった。アルファの父とベータの母だ。

 もちろん、お互い愛し合っていたと思う。僕もオメガとして生まれたにも関わらず、愛情を注がれて育ててもらったことは覚えている。

 しかし、僕が小学校6年生のになる頃、父と母の関係がなんとなくぎくしゃくし始め、僕に対する父の態度がだんだんと素っ気ないものになっていることに、ひそかに気づいてしまった。

 そしてある日、めったいに鳴ることがない家の固定電話が鳴り、その電話に出た母は、だんだん顔色が悪くなり、電話を切らないままその場で泣き崩れた。相手は父からだったそうだ。

 後から話を聞くと、父と母の関係がぎくしゃくし始めた頃に、アルファの父が自分の運命の番であるオメガと出会い、お互い自然と惹かれてしまい、その運命に逆らうことができなかった。そのためにベータの母より運命の番であるオメガを選んで、僕らを置いて行ってしまったそうだ。

 僕はその時、ショックを受けたというよりよくわからなかった。

 なぜ、あんなにも愛し合っていた両親が、運命の番によって狂わされなければならないのか。

 たかが運命だからって、そんな簡単に長い時間を過ごした相手を捨ててしまうほどの強烈なものなのか。

 その出来事があってから、僕は自分がオメガに生まれてしまったことを悔やんだ。

 だから僕は決めたのだ。もしかしたらこの世のどこかにいるかもしれない僕の運命の番には、絶対に会わないと。

 たとえ、それほど強烈に惹かれてしまうものだとしても、僕は抗ってやると……。

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