第8話
いつもの生け花の先生んちに配達に行ってから、でけぇ花束を届けに行った。
喜ぶだろうな。
誰が誰に渡すんだろう。こんなでけぇ花束。
学生のアルバイトの身分じゃとてもプレゼントできねぇ。
贈る方も、贈られる方も、きっとこれを見たら嬉しくなる。
きっと幸せな気持ちになる。感動する。
うわぁって。
早くそれが見てぇ。
その様子を樹さんに教えてぇ。
喜んでた、嬉しそうだった、そう言ったら樹さんは優しく笑う。
良かったって。きっと花よりキレイに、笑ってくれる。絶対ぇ。
住所と名前に間違いがねぇか確認して、インターホンを押す前に、もう一度俺は、その花束を撫でた。
花に乗せて、幸せを。
花に乗せて、笑顔を。
祈る。
電話での注文だったらしいから、お代を受け取って来てねって樹さんから言われて。
インターホンを押して出てきた奥さんらしき人に俺はそう説明をした。
でも。奥さんらしき人は困惑するばかりで。
俺は………焦った。
うそ、だろ?
こんなのは頼んでいない、最近この手のイタズラをよくされていて困る。帰ってくれって、玄関を閉められた。
花に乗せて、幸せを。
花に乗せて、笑顔を。
どうして。
俺はでけぇ花束を抱えたまま、『甲斐生花店』って書かれた白のダサダサのワンボックスに戻った。
どうしたら、いい?
届けることのできなかった花束を見て、途方にくれる。
何でこんな。
誰がこんな。
もちろん樹さんがこの花を廃棄になんて、する訳がない。
小分けにしてミニ花束やアレンジメントにして並べておけば、きっと売れる。
でもさ、違うだろ?そうじゃねぇだろ?
樹さんは一生懸命作ったんだ。
贈る人の想いを、贈られる人の想いを考えて。
どの花ならイメージに合うか、どの花なら喜んでもらえるかって。
俺が、買う?
いや、無理だ。
高すぎて………買えねぇ。手が出ねぇ。
このまま帰っても、樹さんは怒らねぇ。
このままイタズラでしたって帰っても、いつも通りしょーちゃん、お帰りって、笑ってくれる。
それが分かる。
分かる、から。
帰るに帰れなくて、俺は車に乗ってハンドルに突っ伏してた。どうすりゃいいだって。まさに途方にくれた。
その時、だった。
コンコンって、窓が叩かれて。
ヤバイ、ここ駐禁?って顔をあげたら。
無駄にヒラヒラして、無駄にキラキラしてる、フローリスト改め、ナルーシスト湊が、そこに、居た。
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