第7話

 ガキの頃から花が好きだった。






 大人になって、自分が結婚するときに奥さんになる人のブーケを俺が作りたかった。



 昔、小学生の頃見たウエディングブーケにすっげぇすっげぇ感動して。






 作る予定だった。



 作れるはずだった。






 卒業製作の話が出てきて、俺は何の迷いもなくウェディングブーケをって思ったけど。






 恋する相手が樹さんじゃ作れねぇのか。男だし。






 相手にしてもらえねぇことも辛いけど。



 そもそも作れねぇってのもそれも辛い。






 俺が作ったブーケだっつって、結婚式ん時にサプライズでかっこよく言って渡したかった。






 脈ゼロなら諦めて、樹さんのことは諦めて、そのいつかのための相手を探した方がいいのか?






 なんて、思うこともあるけど。






 やっぱり。



 やっぱり、俺。樹さんが、好きだ。











 俺、大丈夫かな。






 もうすぐ卒業なのに就職先も決まってなかった。



 結婚どころの話じゃない。



 いくつか候補はあったけど、決め手に欠けた。



 先生にはどこでもいいから決めろと言われた、怒られた。



 でも。






『甲斐生花店』以上に働きたいところなんて、なくて。






 今『甲斐生花店』は樹さん一人でやってる。



 朝、仕入れに行って、仕入れた花をすべて一人で車から下ろして水あげをする。



 そして水かえや水やり、一段落したところで契約している近くのレストランの店内の花を直しに行って、足腰弱って買いに来られなくなったじーさんばーさんのために仏壇の花を届けに行って、店を開けてそうじに接客、俺が行くまで全部一人。



 忙しい時期は先代の、つまり樹さんのお母さんが手伝いに来てくれるけど。






 雇ってよ。俺、ここで働きたい。






 そう言った俺に、樹さんは優しく笑った。






 ダメだよって。



 しょーちゃんはもっとちゃんとしたところで働けるって。






 ちゃんとって、何だよ。『甲斐生花店』だって、ちゃんとしてんだろ。






 俺、樹さんとずっと、一緒にやっていきてぇのに。






 フラれにフラれまくってる俺は卒業製作のデザインもちっとも思い浮かばなくて。






 イライラ、しっぱなし、だった。










 その日『甲斐生花店』に行ってまず目に飛び込んで来たのはでっけぇ、花束。






 うわ。






 言葉も出なくて。






「あ、しょーちゃん、これも配達お願いね」






 樹さんが何か言ってるけど。






 目を奪われて、心を奪われて聞こえねぇ。






 そっと花束を持つ。






 優しい。



 優しいのに、華やかで。






 もう、言葉にもできねぇ。何だこれ。この花束。






 才能。



 それは紛れもない才能。



 天才って、この人のためにある言葉。






 花束を見るだけで、分かる。花が。



 花が、喜んでる。ふるふる震えて、歓喜に満ちている。






「しょーちゃん?」

「これ貰う人、幸せだな」






 樹さんは、花が好き。



 樹さんのコイビトは、きっと、花。






 勝てる気が、しねぇよ。






 ずっしりでけぇ花束を、俺は、撫でた。

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