第5話

 いくら何でもそれはねぇだろ?



 まだ30才。



 そんだけキレイで、無駄な肉なんかどこにもついてなくて、逆にびっくりするぐらいキレイに筋肉がついてる。






 俺、超ドキドキして、まともに見たら鼻血出そうとか、まともに見たら襲っちまいそうとか、そんなことばっか考えてるのに。






 言うに事欠いて、おじさんの裸なんかって。






「しょーちゃん?」

「好き。樹さんが好き。何で信じてくんねぇの?」






 後ろから抱き締めて、その首筋に鼻を擦り付ける。



 身体から香る匂いに、くらくらする。






「30才はおじさんじゃねぇ。樹さんはおじさんじゃねぇ。樹さんはキレイ。超色っぽい。なぁ、樹さんが好き。本当に好きなんだって」

「………しょーちゃん」






 樹さんはじっとして、動かなかった。



 動かねぇのをいいことに、俺は首筋にキスをした。






 その瞬間に跳ねるみたいに反応した樹さんに、ゾクゾクした。



 そして、左肩。






 茶色にも赤黒くも見える、樹さんの、樹さんっていう証。生まれつきなんだよって、夏に袖から見えてて初めて知った痣。



 その知ってるはずの痣さえも、俺を更にゾクゾクさせる要因でしかなくて。






 何度もそれを、俺はてのひらで辿った。






「しょーちゃん」

「好きだよ、好き。信じて」

「………ほら、ご飯にしよ?」






 少し身体を捩って。



 それでも樹さんは。






「…………んで?」

「ん?」

「何で」






 信じてくんねぇ。相手にしてくんねぇ。



 まるで、戯れてくる子犬を宥めるみてぇな。



 そんな、態度。






「帰る」

「しょーちゃん?」

「…………おじゃましました」






 悔しくて。



 一人前じゃない自分が情けなくて。






 俺は、せっかく作ってくれたカレーも食わねぇまま、自分の部屋に、戻った。

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