第4話
じゃあ後で適当に来てねって言われて、店の2階にあるそれぞれの部屋に戻った。
手にキスしても、樹さんは優しく笑っただけで、特に何も言わなかった。
嫌とも、ダメとも。
暖房を付けて、座り込む。
全然まったく相手にされてないのが、どうにもイラつく。
どうしたら一人前として見てくれる?
どうしたら俺を意識してくれる?
俺、不器用なのは手先だけじゃ、なくて。
こんなとこも、か。
情けなくなってきて、デカイため息をついた。
とりあえず今日の課題をやろう。
鞄をがさごそあさって、俺は無理矢理頭を切り替えて、学校の課題に取り組んだ。
課題に没頭し過ぎて、もう一時間以上経っていた。
樹さんの朝は早い。
あんまり夜遅いと、大変なのに。
俺は急いで隣に向かった。
一応インターホンを押してから、玄関のドアを開ける。
ご飯を作ってもらう時、樹さんちの玄関の鍵は開いてて、適当な時間に適当に入って来てって、言われてる。
けど、いきなりは入れなくて。
「しょーちゃんは律儀だね」
毎回必ずインターホンを押してから入る俺に、樹さんは優しく笑う。
やっぱ俺、この人好きだわ。
その笑顔を見るたびに、俺はそう、思うんだ。
「もうできてるよー」
花屋の冬は寒ぃ。
外と変わらないぐらいに寒ぃ。
暖房と言えば本当に申し訳なさ程度の小さな電気ストーブがついてるだけで、それはほとんど役にたってねぇ。
花が、傷むから。
だから寒い。とにかく寒い。
そんな寒いところに樹さんは一日中、しかも水を触りながら居る。
だから何だって?
暖房が普通に効いてる、しかもどうやら風呂上がりらしい樹さんが。
………上半身裸で、困る。
目のやり場に困る。
本気で困る。
いや、樹さんは男だ。分かってる。分かってるけど困るんだよ。
だって、俺は、樹さんが好きなんだから。
「しょーちゃん?」
これ運んでって渡されたお皿を、顔を背けながら受け取る。
「お願い、何か着て」
「汗がひいたらね」
「今すぐ着て」
「暑いんだもん」
「暑いんだもんじゃなくて!!」
「しょーちゃん?」
ほら、いつも。
好きだって言ってんのに。樹さんが好きだって、何度も言ってんのに。
樹さんは本気にしてくんなくて。俺は全然まったく相手にされてなくて、意識もされてなくて。
「目のやり場に、困る」
「あ、ごめんね?こんなおじさんの裸なんか見たくないよね」
くふふふって笑いながら、置いてある服に手を伸ばす、から。
俺は、持ってたお皿を置いて。
上半身裸のままの樹さんを。
抱き、締めた。
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