第34話 意外な対決
まずは服を買いたいという奈津の希望で訪れたのはラルフローレンだった。
しかし──
「なんでメンズの店なんだよ」
「別にいいでしょ! あたしはメンズのものをダボって着るのが好きなの」
奈津はオレンジのポロシャツと白と濃紺のストライプのポロシャツを手に取り、「どっちが似合う?」と賢斗に訊ねる。
「別にどっちでもいいし」
「ちょっとぉ。真面目に選んでよ」
「じゃあストライプ」
「ちゃんと見てないし!」
奈津の苛立ちは募っていく。
「オレンジの方が似合うんじゃないかな?」
「だよねー。鈴木、分かってるじゃん」
「はぁ? そう思ってるならいちいち訊くなよ」
女の子というのは答えが決まっていても訊きたくなるものだ。
賢斗という男は女心をまるで分かっていない。
買い物のあとは話題のスイーツ店に入る。
奈津は青いソーダにゼリーを入れ、チョコミントのアイスを浮かべたクリームソーダを注文した。
「うわー! きれい!」
喜びながら写真を撮る奈津は可愛らしい。
しかしそんなことお構いなしに賢斗はスマホを弄りながらアイスコーヒーを飲んでいる。
「ねぇ見てよ賢斗」
「あ? うん……」
「なにその態度」
素っ気ない態度に奈津がキレかけていた。
「うわ! すごいきれいだね! まるでグラスの中に南の島の孤島があるみたいだ」
「でしょー? やっぱ鈴木、分かってるねー」
「グラス持ってるところ写真撮って上げようか?」
「えー? いいよ。恥ずいし」
「いいから、ほら」
スマホを向けると奈津はグラスを手に持ち、やや照れながらニヒーッと笑みを浮かべてピースする。
「はやく食べないと溶けるぞ」
「分かってるよ」
不粋な賢斗の忠告にムスッとする。
その表情も可愛いので一枚撮っておいた。
店を出てから街をブラブラと歩く。
なんでもないものでも奈津ははしゃぎ、喜び、記念撮影をする。
全身で都会を満喫しているようだった。
「さーて。次はどこ行くかなー」
「まだどっか行くの? もう今日は帰ろうぜ」
「帰りたいなら賢斗が一人で帰れば? あたしは鈴木と遊んでるし」
奈津はムッとした顔で賢斗を睨む。
頼むからもう少し上手に対応してくれよ、賢斗。
ヒヤヒヤしながら二人の半歩後ろを歩いていた。そのとき──
「あっ!」
「げっ!?」
前から生徒会長の雪村さんがやって来た。
ハイウエストにベルトをした、淡いブルーのワンピースを着て日傘をさすというイメージ通りのコーディネートだ。
賢斗を見た雪村さんは目を丸くし、隣にいる僕たち二人を見て咎めるような顔に変わった。
「五城くん。夏休みだからといって遊んでばかりなんじゃないですか?」
「うぜー。学校の外で生活指導とかやめろって」
「まあ男子三人で遊んでいるなら不純異性交際ではなさそうですが、ナンパとかいけませんよ」
「はぁあああ!?」
奈津が声を張り上げてズイッと雪村さんに迫る。
「あたしは女なんですけど!」
「えっ……ご、ごめんなさい」
「失礼しちゃう! こんな可愛い女の子捕まえて!」
「で、でもっ! だったら不純異性交際の可能性が……」
「あたしは賢斗のいとこなの。い、と、こ!」
「し、失礼しました」
二度もミスを犯し、雪村さんは珍しくペコペコ頭を下げて謝る。
考えてみればこの二人が遭遇するのは過去にもなかった。
始めての組み合わせである。
普段雪村さんにやられっぱなしの賢斗はちょっと嬉しそうに成り行きを見ていた。
「てゆーかさ、男女で歩いているだけでそんなこと言うなんて、妄想しすぎなんじゃない?」
「そんなことは」
「普段からえっちな妄想ばっかしてるからそーいうこと思うんだよ」
「私がそんなっ……あり得ません! 絶対あり得ませんから!」
「どうだか? あなたみたいな清楚ぶった女がえげつないくらいエロい変態とか、よくあるもんね」
「へ、偏見です!」
雪村さんは顔を真っ赤にし、手をブンブン振って怒る。
いいぞ。もっと言ってやれ!
僕も心の中で奈津に声援を送る。
「だいたい不純異性交際ってなに? 昭和?」
「高校生にあるまじき行為をする交際です。それに古いも新しいもありません」
「例えばなに? キスするとか?」
「キ、キキキスくらいは……」
「じゃあなに? 教えてよ」
「それはそのっ……そんなこと言えません!」
雪村さんは顔を真っ赤にして逃げていく。
「あ、逃げた。待て!」
「もう許してやれって」
さすがに気の毒になって奈津を止める。
奈津と雪村先輩、なかなか好敵手になりそうな気配だ。
その夜、奈津からメッセージが届いた。
『今日は買い物付き合ってくれてありがとー!』
はしゃぐ犬のスタンプの次に写真が届く。
それは今日買ったオレンジ色のポロシャツを着た奈津の写真だった。
『おー!いいねー!よく似合ってるよ』
『ありがと。賢斗の奴、全然褒めてくれないんだよ』
『まぁいとこだからじゃない?子どもの頃から一緒だと、そんなもんなんだって』
『そっか。それもそうかもね』
恋心に気付きそうになる奈津にヒヤヒヤする。
優理花と会う前に早く実家に帰ってもらわなくっちゃいけない。
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ひとまず危機を脱した鈴木くん。
なんだかずいぶんと仲良くなったようですけど、まあよしとしましょう!
次はアーヤが待ってます!
次こそ素っ気ない態度で接して相手の興味をなくさせることに成功するのでしょうか?
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