第28話 お試し彼氏

 にわかに和みはじめた空気に微かな期待を抱く。

 もしかするとこのままみんなで仲良くやっていけるかもしれない。

 いける!

 このまま鈍感難聴クソ主人公キャラで押しきるんだ!



「ったく、お前ら。人の部屋に来てなに騒いでるんだよ。もう寝るから部屋に帰れって」


 いかにもラブコメの主人公が言いそうなことをヘラヘラと笑いながら伝えると、三人の顔から笑みが消えた。


「ここまで来て逃げんな。うちらの中から誰を選ぶんだよ」

「い、いやぁ、それは……」

「それとも私たち三人じゃなくて意中の相手がいる?」

「そういう訳じゃないけど」

「じゃあ答えて」


 やっぱりダメでした……


 ここで誰かひとりを選べば惨劇は避けられない。

 今すぐ殺されなかったとしても、鬱屈した思いが溜まり、やがて凶行に及ぶのは必至だ。


「み、みんなで仲良く、とかダメなのかな……」

「そんなのいいわけないでしょ!」

「ハーレムってこと?」


 陰山とアーヤほ食い気味でツッこんできた。

 しかし──


「なるほど。それもひとつの案かもしれないね」


 心晴さんは妙に納得した顔で頷く。



「は? 心晴、なに言ってんの? 」

「みんなで仲良くというのはさすがにアレだけど、今すぐ無理やり一人を選べっていうのも気が早いのかなって」


 来た!?

 まさかのハーレムエンド!

 冷静でいてくれる心晴さんが救いの女神に見えた。


「じゃあ三対一でデートしたりするってこと?」


 陰山は不安そうに訊ねる。


「んー? それはちょっとないかな。三人一緒だと鈴木くんも一人ひとりのことをちゃんと理解できないでしょ?」

「じゃあどうすれば」

「日替わりで彼女になればいいんだよ。今日はアーヤ、明日は私、明後日は陰山さんって感じで。それなら不公平がないし、自分をちゃんと知ってもらえるでしょ」

「な、なんだよ、それ」


 なんか、知ってるハーレムエンドと違う……

 公認の浮気みたいなものだろうか?

 そんなことをしたらあっという間にみんなの鬱が蓄積されて、闇落ちまっしぐらだろう。


「心晴さん、それはさすがにモラル的にどうかな?」

「そう? 私たち三人がいいなら問題ないんじゃない?」

「いや、僕は問題ありまくりなんだけど」

「じゃあ今ここで誰かに決める? それとも全員振る?」

「うっ……」


 今すぐここで決めるというのは難しい。

 生まれつき問題先送り精神で出来ている僕はそれ以上反論の言葉が継げなかった。


「アーヤと陰山さんは? そんなまどろっこしいことせずに今すぐここで決断してもらいたい人は、鈴木くんにそう言ってくれていいよ」


 二人とも顔を見合わせて言葉に詰まる。

 決めきれない僕を見てその選択はないと思ったのだろう。

 誰も発言が出来ない状況を見て、心晴さんがにっこり微笑む。


「じゃあ決まりね。日替わりで彼女になるということで」

「ま、毎日とかは無理だぞ。僕だって用事はあるんだし」

「えー? しょうがないなぁ。じゃあ一週間に二日づつということで」

「それじゃ一日しか自由な日がないだろ」

「仕方ない。じゃあ一週間に一日づつね」

「それなら、まぁ……」


 少しましな条件になって同意したが、そもそもこの取り決め自体了解した覚えはない。

 騙された気分だ。


「それで夏休みが終わるまでに決めてもらうってことで」

「いや。それ駄目だ。期限は決めない」

「何でだよ! ずっとハーレムを味わいたいのかよ!」


 アーヤがキレ気味で口を挟む。


「そうじゃない。でもタイムリミットがあってそれまでに誰と付き合うか決めるなんて不自然だろ。そんなの普通の恋愛じゃない」


 その場しのぎの苦し紛れな言い訳だったが、意外にも彼女たちには響いたようで「それもそうか」と納得してくれた。

 ひとまずこれで先延ばし出来る。

 誰も選ばずにのらりくらりとかわせば、来年の3月末まで遣り過ごせるかもしれない。


 話が纏まったところで三人は順番を決めるくじ引きをした。


「えー、うちがビリとかあり得ない! インチキだ。やり直し」

「駄目だよ、アーヤ。決まったことは守る。信頼の上に成り立っている決めごとなんだから」

「そうだ、猪原絢香。それにビリっていってもすぐに順番が来る」


 一応緊急の用事が入らない限り、夏休み中は月曜日心晴さん、水曜日陰山、金曜日アーヤという順番にきまった。


 旅行から帰った翌日の月曜日はさっそく心晴さんの彼女デーということになる。


「志摩心晴。忠告しておくけどエッチなことは禁止だから」

「えー? それは分からないよー。成り行きとかでそうなるかもしれないし」

「ないない! それは絶対ない。僕が保証する」


 手なんて出そうものなら取り返しのつかないことになる。

 清らかに接し、なんとか彼女たちの意識を恋愛以外のことに向けるしかない。

 それが残された唯一の生き残る戦術だ。


 こうして僕は三人のお試し彼氏となってしまった。

 命の危険は着実に近付いて来てしまっている。

 そんな気がしてならなかった。





 ────────────────────



 一時しのぎかもしれないけど、ひとまず恐怖の夜をしのいだ鈴木くん!


 これから三等分の彼氏編に突入です!

 物理的に三等分されないよう、気を付けてほしいですね!


 三人はさらにぐいぐいやってきて、際どい展開必至です。

 乞うご期待!|

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