第24話 ベストショット大会
翌朝。
『変態裁判』が開廷されることを覚悟し、被告人の面持ちでリビングに向かった。
「おはよう、鈴木くん。昨日はすぐ寝ちゃってたね」
「へ? あ、あぁ」
「いまコーヒー淹れるね」
優理花はニッコリと微笑んでキッチンに向かっていった。
他のメンバーも同じように何事もなかったかのようにスマホを弄ったり、談笑したりしていた。
アーヤと目が合うと恥ずかしそうに顔を赤らめ、プイッとそっぽを向かれてしまった。
怒ってはいるようだが、どうやら僕が全裸でジャグジーに入っていたことは内緒にしてくれたようだった。
(あとでちゃんと謝らないとな)
優理花と心晴さんが作ってくれた朝ごはんを食べ終わると優理花が今日の予定を説明し始めた。
「今日の午前はベストショット大会をします」
「ベストショット大会?」
「そう。この島を探索しながら写真を撮ってくるの。名前を公表せずみんなで写真を見て自分以外で一番いい写真だと思ったものに投票。優勝者には豪華景品が当たるかも?」
いかにも優理花が思い付きそうな企画だ。
せっかく海がきれいだから泳ぎたい気持ちもあるが、一度自分達のいる島を確認するのも悪くないだろう。
別荘を出て優理花の「よーイドン!」の掛け声でみんな一斉にスタートした。
まずはアーヤに謝ろうと思っていたが、その気配に気付かれたようでアーヤはスタートダッシュで駆けていってしまった。
まあそれほど広い島じゃないし、うろついていたらどこかで会えるだろう。
まず最初に向かったのは昨日クルーザーを降りた入り江だ。
やはり島の写真なのだから海が一番きれいだろうという安直な考えだ。
同じことを考えていたのか、そこには既に賢斗がいた。
「お、勇太もここに来たのか。一緒に撮ろうぜ!」
「ばーか。競争なのに同じところで撮ってどうするんだよ」
「あ、それもそっか」
笑いながら賢斗は僕の写真を撮る。
「僕の写真なんて撮っても優勝出来ないぞ」
「これは個人の思い出用だ」
「なるほどな」
僕も賢斗を写真におさめる。
「優理花と仲よさそうにしてるけど、進展あった?」
「べ、べべべつにそういうのじゃねーし!」
「嘘つけ。他の女子と接してるときと全然違うくせに」
「バレてた? さすがは勇太だな」
賢斗は照れくさそうに頭を掻く。
いや、『さすがは勇太』じゃねーし。
いつもみんなにバレてるんだよ
思えば今回はあまり賢斗と絡んでいない。
心晴さんたちは賢斗に興味がないようだけど、生徒会長やら他の『負けヒロイン』たちのこともあるので一応確認しておかなければいけないだろう。
「で、どうなんだよ」
「なんていうか、優理花って変わってるだろ? なかなかキャラが掴めなくて。いまのところはあんまり男として意識されてない感じかなー」
「へぇ……そうなんだ」
それはちょっと意外だった。
過去六回は夏頃になると既に賢斗と優理花はお互いを意識しあう仲に発展していた。
今回はそれがちょっと遅れているようだ。
「賢斗って意外と鈍感だから気付いてないだけなんじゃないの?」
「俺が鈍感? まさかぁ。意外と人の心には敏感な方だぞ?」
「はいはい」
お前が鈍感だから俺は既に六回も殺されてるんだよ。
喉元まで出かけた言葉を飲み込む。
賢斗と別れてから海岸線沿いを歩いていくと岩場のゴツゴツとした浜辺になる。
足元に気を付けながら進んでいくと陰山の姿があった。
スマホを片手にしゃがんでなにかを撮影していた。
「よう、陰山。なんかいいものあったのか?」
「鈴木くん」
どうやら陰山は潮溜まりの小魚やいそぎんちゃくを撮影していたようだ。
なるほど確かにきれいだし、可愛らしい。
僕も一枚撮ってみようとスマホを向ける。
「ここは私の発見したテリトリー。撮影禁止」
「セコいやつだな」
「勝負だから」
意外と競争には熱くなるタイプらしい。
「あれ? いまそこ潮溜まりにタコがいたような」
「え? うそ!?」
「ほら」
「本当だ! きゃあっ!?」
慌てて近づこうとした陰山が足を滑らせて転ぶ。
しかも間の悪いことにそのタイミングで波が押し寄せてきた。
「大丈夫か?」
「冷たいし痛いし最悪」
陰山は膝を擦りむいて血を滲ませていた。
「立てるか?」
「平気」
無理に立ち上がろうとするとよたよたっとまた転びかけていた。
「無理すんなって」
ワンピースが濡れ、肌にピタッと引っ付いて下着がちょっと透けてしまっている。
慌てて目を逸らしたが、網膜には水色の残像が残ってしまっていた。
「ほ、ほらおんぶして別荘まで連れていってやるから。怪我の手当てしよう」
「でも」
「気にすんなって。ほら」
「う、うん」
陰山を背負い、来た道を戻っていく。
いくら小柄で軽いとはいえ女子高生をおんぶして歩くのは楽ではない。
「ごめん。船酔いとかコケて怪我とか、鈴木くんに迷惑ばっかりかけて」
「なんだよ、陰山らしくないな。お前はもっと突拍子もないこと言ってろよ。異世界からやって来た魔法使いなんだろ」
「真面目な話してるの」
陰山はぐいっと腕で首を軽く絞めてくる。
背中から伝わってくる熱で陰山が照れているのが伝わってきた。
「なんか恥ずかしいとこや情けないとこばっかり見せて、鈴木くんに嫌われても仕方ないかなって……」
あまりに深刻な声なので思わず笑ってしまった。
「そんなことで嫌うかよ。むしろ素の陰山が見られて、好感を持ったよ。異世界からやって来た魔法使いでも船酔いするし、コケるんだなって」
「わ、笑わないで。絶対バカにしてる」
「してないよ」
異世界の魔法使いはさておき、浮世離れした陰山も普通の女の子なんだと知れて親近感が湧いたのは事実だ。
夏の日差しに焼かれながら素直にそんなこと思っていた。
「あれ? どうしたの?」
背後からそんな声が聞こえてビクッと震えた。
陰山をおんぶしてるところを他の女子に見られたら少しややこしい。
「いや、これは」
焦りながら振り返ると、そこに立っていたのは優理花だった。
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死を回避できた鈴木くん!
よかったね!
でも合宿はまだまだこれから!
気を抜くな!
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