第4話 おもしれぇー女
うちの高校は生徒会と運動部連合の仲が悪い。
部費の予算や練習場などの件でよくぶつかっていた。
まぁ普通の世界ではあまり聞かない話だが、ギャルゲーの世界ではよくある展開だ。
そして生徒会長は『氷の姫君』こと
規律や風紀に厳しい彼女を頂点に学園を取り仕切っている。
堅物で融通の効かない雪村先輩なのだが賢斗に恋をしちゃってて絶賛ツンデレ中という、こちらもギャルゲーの世界では実にありがちな展開だ。
一重の切れ長な目に欠陥が透けるほどの白い肌。腰の辺りまである長い髪。
細い腕や足に不釣り合いなほどの巨乳というテンプレ極まりない生徒会長である。
そんな彼女が校門の前で生活指導のために立っていた。
「五城賢斗くん。制服のなかにパーカーを着るのは校則違反だと説明したはずです」
「うわ、やべ。氷の姫君だ」
「面と向かって蔑称で呼ぶのはやめなさい」
雪村生徒会長はキッと賢斗を睨む。
ぶっちゃけ僕はこの人が苦手だ。
幼馴染みの心晴やギャルのアーヤなんて雪村先輩に比べれば可愛いものだと思えてしまう。
プライドが高く、かといっておだてても通用せず、僕のメンタルケアもほとんど通用しない。
「パーカーは没収です。今すぐ脱ぎなさい」
「えー? 厳しくね?」
「早くしなさい」
「あー、もう。ついてねぇなぁ」
渋々賢斗は鞄を置いてブレザーを脱ぐ。
僕は知っている。
雪村先輩は賢斗からパーカーを没収したあと、隠れてクンクンスーハースーハーと嗅いでいることを。
しかしそんなことを指摘したらガチで殺されるので口が裂けても言えない。
雪村先輩には3回目、5回目と二回も殺されているので要注意だ。
「別に良くない? なに着ててもさー」
空気を読まないあっけらかんとした声が聞こえてビクッと振り返る。
そこにはメインヒロインである美少女転校生、優理花が立っていた。
「あなたが仙川優理花さんね。噂は聞いてるわ」
雪村生徒会長は僅かに目を細めて冷たい視線を向ける。
「規則とか決まりとかそんなことばっかでガチガチに縛ってたら、高校生活がつまんなくなっちゃうよ」
「高校は楽しむために来るところじゃありません。勉学に励み、共同生活で社会を学ぶところです」
周りの生徒たちの間で緊張が走る。
雪村生徒会長に楯突くとろくな目に遭わないからだ。
教師相手だって例外ではなく、相手が間違っていると思えば謝罪に追い込むような人なのだ。
先生が生徒に謝罪とか前代未聞なことも平気で成し遂げるのだから恐ろしい。
しかしそんな伝説も優理花には通用しなかった。
「そんなのつまんない! もっと肩の力抜こうよ。そんなことじゃ恋愛もできないよ」
空気も読まずに優理花さんがずいっと雪村さんに近寄る。
あまりの近さに生徒会長がたじろぐ。
「れ、恋愛などと……そんなことを……私たちは学生ですよっ」
「生徒会長さんは恋したことないの?」
「そ、それは……そんなことあなたに関係ありません!」
「あー、好きな人いるんだ? ねぇ、誰? だれだれ?」
ぐいぐい来られて雪村さんは頬を赤くする。
まさかの事態に生徒たちの好奇の目が注がれていた。
その空気に耐えきれなくなり、雪村先輩はくるっと踵を返し校舎へと向かっていく。
声にこそ出さないが、みんな「おおーっ」という顔をしていた。
「ふっ……おもしれぇー女」
賢斗が禁断の一言をぽそっと呟く。
その瞬間、ゾクッと身震いした。
遂に賢斗が恋に芽生えそうな気配。
今回も穏健には過ごせなさそうだ……
「ん?」
ふとそのとき一人の女生徒が視界に入った。
校舎に戻る雪村生徒会長の背中をそっと見守っている。
パッチリとした目元でまだ少しあどけなさも残る女の子だ。
『生徒会』という腕章を着けている。
見慣れない顔だけど一年生だろうか?
意思が強そうだけど険しさはない。
凛としたという言葉がよく似合う子だ。
彼女は賢斗の方にペコッと一礼をしてから小走りで雪村さんのもとへと駆け寄っていった。
僕の知る『負けヒロイン』リストにはない子だ。
ぶっちゃけ毎日慌ただしいので『負けヒロイン』以外の女子はあまり詳しくない。
知らない生徒もたくさんいた。
でも何故だかあの利発そうな女の子からはただならぬものを、もっとはっきり言えば良からぬオーラを感じた。
教室に着くと心晴さんがにこにこして近付いてくる。
「おはよー、鈴木くん」
「おはよ」
「あの、これ」
差し出されたのは可愛らしくラッピングされた小包みだ。
「なにこれ?」
「ク、クッキー焼いたから鈴木くんにもって」
「僕に?」
「ほら、この前チーズスフレ持ってきてくれたでしょ。そのお礼。遅くなってごめん」
律儀な彼女らしい気遣いである。
闇落ちさえしなければ心晴さんはとてもいい子だ。
「ありがと。賢斗と食べるよ」
「なんで賢斗と?」
「いやだって心晴の手作りだろ?」
「鈴木くんにあげたんだから鈴木くんが一人で食べて」
「え? そう? わかった」
まさかまた賢斗と喧嘩したのかと不安になったが、特に心晴さんは落ち込んでる様子もなかった。
心晴さんは去り際、僕の首元に顔を近付けた。
なにか耳打ちしてくるのかと思ったけど、数秒そうしてからスッと顔を離した。
「ん? なに?」
「な、なんでもない。じゃあね」
なんだかちょっと顔を赤らめていた気がする。
また風邪でも引いてしまったのだろうか?
ちょっと心配だ。
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おや、幼馴染みの様子がおかしいようだ……
少しづつ傾き始めた世界。でも鈴木くんはそのことに気付いてません。
果たして彼は無事に元の世界に帰れるのでしょうか?
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