第38話 完結してないのに新しい物語を書きたくなる病
執筆者には定期的にかかる病がある。
新しい物語を書きたくなる病だ。
この病、もちろん悪いことではない。イマジネーションを文章に変えることこそ執筆者の本懐であろう。
ただ問題は、今書いている物語がまだ終わっていないことだ。
よくエタってばかりの作者を見るだろう。
書いては書いては投げ捨てて、またちがう物語を書く。
それが書籍化作家だったら最悪だ。完結する見込みのない本が乱造されるわけだから。
とはいえ、これは作家本人だけの問題ではない。応援する読者と、出版社にも原因がある。
完結させず次から次へと書こうが、読者はおかまいなしにポイントを入れる。
出版社もそれを見て書籍化を打診する。
当たり前だ。出版社にとって一番大事なのは利益をあげることだ。
売り上げが見込めれば、完結するとは思えない作品でも書籍化するのは当然のことだろう。
書籍化作家にとっては、そんな状況で完結させる意義は少ない。序盤だけ書いて本になればそれでいい。
そもそも、一巻打ち切りなど当たり前なのだ。頑張って完結させたとて、労力が増すばかりでメリットは少ない。
結局はインスタントに儲けようとした出版社と、インスタントに面白さを求めた読者がおこした構造的な問題ではなかろうか。
おっと、話がずれてきた。
修正する。
この、物語が終わっていないけど、新しい物語を書きたくなる病。多くの方が体験したと思う。
発病理由は多岐にわたる。
書いても書いても読まれないとき。
読まれてはいるが、だんだん勢いが落ちてきたとき。
どちらも損切りのタイミングを考える心理状態になりやすい。
あとは単純に飽きてきた時だろうか。
ゲームと似ているかもしれない。飽きたゲームをやり続けるのは結構苦痛なのだ。
この病。読み手は、さっさと終わらせてから次書けばいいじゃんと思うかもしれないが、そう単純なものではない。
物語というのは、書けば書くほどハードルは上がっていくものなのだ。
まずは整合性の問題。
多く書くほど、整合性をとらなければいけない部分が増えてくる。
また、書きたくない部分も後半にいけばいくほど増えていく。
執筆者にとって、書きたいものばかりじゃない。
物語にとって必要だから仕方がなく書いている部分もあるのだ。
これは進むにつれて、なぜか増えてくるものなのだ。
あとはこれまで書いたものを無駄にしたくないという気持ちもある。
こんな尻すぼみの終わらせ方では作品が台無しになってしまうと、妥協できなくなるのだ。
そのまま放置。結局メンドクサクなってしまう。
こういう心理状態の時は外圧に非常に弱い。
たとえば映画を見た。
お、この世界観面白そうだな。俺ならここにこんな設定を加えて、登場人物もこうして……。
ゲームもそうだ。
映画以上に世界観は魅力的なものが多い。
そこからインスピレーションを得て、物語を書きたくなってきちゃうのだ。
これらの雑念から身を守るにはモチベーションを保つしかない。
肯定的な感想をもらったり、評価をいただいたり。
そうやって、続きを書く気力をいただくわけだ。
ただ、これらは自分ではどうすることもできない。
読者の気分にゆだねるしかないのが実情だ。
では、執筆者側でなんとかできる方法はないであろうか?
私が思うに、エンディングを決めとけば少しはマシではなかろうか。
物語の終着地点をあらかじめ決めておく。そうすれば多少強引でも終わりへと導いていける。
あとは疑似体験だろうか。
なにか別のことを書く(できれば理屈っぽい話)。とうぜんそこにはまた違った必要だけど書きたくないことが出てくる。
これを書くぐらいだったら続きを書くか……ってなるかもしれない。
私にとっては、この創作論が当てはまる。
特に人称の話なんかがそうだ。語りたい反面、ちゃんと説明するのも、例文を考えるのも実にメンドクサイ。
そうして、途中で書くのをやめ、連載の続きに戻るわけだ。
で、またイヤになって創作論の続きを……(以下ループ)。
そう!
なにを隠そう私自身が「完結してないのに新しい物語を書きたくなる病」にかかっているのだ。
誰か早くワクチンを!
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