第39話 読みやすい物語

 今回は読みやすい物語について書きたいと思う。

 以前、読まれやすい作品について書いたが、同じようなものだ。

 単に書き忘れていたり、新たに思いついただけである。


1、主語が短い。

 主語が長くなるほど、読解力を要する。


 選挙に大敗したとき株式会社コーナルの代表と名乗る人物に声をかけられ、うさんくさそうに感じていた太郎は、道を歩いていた。



 長!

 主語 なが!!


 それに何を訴えたいのか、よ~わからん。

 道を歩くのに前半の情報は必要か?

 たぶん、コーナルの代表とやらに、その後出会うんだろうけど。


「太郎」から始めよう。

 そして、情報を整理しつつ話を進めていくんだ。

 

修正案

 太郎が道を歩いていると、ふと声をかけられた。

 見れば、三十そこそこの男がいる。


 たしか、株式会社コーナルの代表だと言ったか。

 太郎には見覚えがあった。

 選挙で大敗したときに声をかけてきた男だ。

 声をかけてきたタイミング、とってつけたような笑顔。

 なんとも、うさんくさいと太郎は感じていた。



 まあ、文章の好みは置いておいて、主語をなるべく短くした方が読みやすくなる。

 ただ、短く分解すればするほど幼稚にはなる。


 文芸なら

「太郎が道を歩いていると、株式会社コーナルの代表と名乗る人物に声をかけられた」

 ぐらいの長さが読みやすいだろうか。

 そこは作風を考えて調整していこう。


 例文では「選挙に大敗した」「声をかけられた」「うさんくさそうに感じていた」と、三つの要素を主語にぶっこんでいる。

 さすがに多い。一個ぐらいにしよう。


※これは主語だけに限らない。

 一般的に一文には、「、」がひとつぐらいが読みやすいとされている。

 「、」をたくさん打つ必要があるときは情報過多といえる。

 いくつかに分解して、かわりに容姿などの情報をつけ足してやればいい。


「見れば、三十そこそこの男がいる。」

      ↓

「見れば、長髪で丸メガネの三十そこそこの男がいる。」


 分解したからこそ付け足せる。


 ただし、「、」の数には単語や条件の羅列は含まない。

「今回の遠征では、食糧、水、防寒着、水筒を持参すること」


 「、」が四つあるが、情報過多とはまた違う。



 こんな感じだろうか。

 あ、そうそう。

 以前、主語の抜けについて説明したと思う。

 主語が多いとうっとおしいけど、わからないよりマシ的なことを書いた。

 いちおう緩和させるテクニックとして


「太郎は、なんともうさんくさいと感じていた。」

         ↓

「なんとも、うさんくさいと太郎は感じていた。」

 

 このように主語を後半にもってくるとマシになる。

 目線も散るし、リズムも変化するからだ。

 うまく混ぜて使っていこう。


 あとは修正案の「太郎には見覚えがあった」を消すこともできる。

 なくても十分意味は通る。

 さようなら「太郎」地獄。



2、ストーリーは単純に。

 WEBでは単純なストーリーラインの方が好まれる。

 というのも、ヘビーユーザーほど、いくつもの作品を並行して読んでいるからだ。

 あまりややこしいと覚えられないのだ。これまでの展開を思い出さなくてもいいぐらいの方がいい。

 矛盾があっても問題ない。なぜなら、そんなもんいちいち覚えていないから。

 ただ、一気に読む層からは、とうぜんツッコミが入る。

 そこをいかにスルーするかが、腕の見せどころである。



3、主人公の目的を明確にする。

 主人公がなにをしようとしているのかが分かれば、読みやすい。

 共感性が圧倒的に増すからだ。

 なにがしたいかよく分からない主人公にアツくなられても、読者はポカーンだ。

 読者が置いてけぼりにならないよう目的を示してやろう。


 あらすじでよく見る「主人公君は何を見、何を成すのだろうか」も同様だ。

 知らんがな。

 先の展開が決まってないだけやろ。


 実際になにをするかまでは決める必要はない。

 あくまで、主人公がどの方向へ進もうとしているかを示してやればいい。


 たとえば、スローライフなのにスローライフしていない。

 目立ちたくないと言いつつハデな立ち回りをする。


「え? 俺なんかやっちゃいました?」

「これぐらい普通だろ」

「いや~、目立ちたくないのになあ」


 目標と行動が一致していなくても問題ないのだ。

 ヘビーユーザーほど、主人公の目的などすぐに忘れる。


 納得したいのではない。

 目的があったほうが離脱しにくい。ただ、それだけだ。


 『着いた先がアメリカでもいいじゃない。byコロンブス』


 小説とは、暗い海を進む航海みたいなものだ。

 読者を迷子にしてはいけない。たとえ航路こうろをそれようとも、目指すべき星さえ見えていれば安心できる。


 つーか、先の展開が約束されているテンプレですら目的を示しとる。

 どこに向かうか分からないようなイカダに乗った弱小作者が、情報を出し惜しみしてどうする。

 エンジンもない。目的地も定かではない。そんなボロ船に誰が乗るというのだろうか。



 つづく。

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