第4話 出会いとはじまり
運命―Fate―、あるいはDistiny。
それは至ってシンプルかつ複雑怪奇な単語だ。
逃れられない定めとも、いつか変えられる可変事象とも言い換えられるモノ。
でも、女の子に向かって君が運命なんだ!って言うのはどうかと思うな。
運命の人、なんて言われてしまえば夢見がちな女の子は何を想像するだろう。まるで告白みたいじゃん。勘違いしちゃったらどうするの。
ま、多分そういうつもりで言ったんじゃないことは分かるけどさ?
とはいえそれでは少し悲しいので、意趣返しみたくしてからかってやろうか。
「あ、大丈夫です。そういうの間に合ってます」
「何が!?」
真顔で返す私に男の子は顔をひきつらせた。私はわざとらしくため息をついて、首を左右に振って見せる。
「あまりにも風情がないところでそういう事してもらってもですねぇ……」
「は、えっ、どういう……。ああっ、違う!そういう事じゃなくって……っ、ああああああ!!」
やっちまったあああと頭を抱えて絶叫する男の子に生ぬるい視線を送る私。
何だろう。そんなに年が離れてるわけじゃなさそうだけど、すごく年下な感じというか、例えるなら弟って感じがする。弟はいないけど。
「まあまあ、冗談はこのくらいにしておいて。何か話があるんですよね。話くらいならそんな大層なこと言わなくても聞いてあげますよ」
「違っ……いや違わないけどっ。あああもう何で俺ってええええっ」
ぬおおおおおと意味不明に悶絶しながら辺りをのたうち回る少年。
やばいな、ちょっと面白い。ずっと見ていたいかもしれない。
まあでもあんまりからかうのもかわいそうだし、真面目に話を聞くことにしよう。
「さっき夢が何たらって言ってましたよね。その関係ですか、運命とかって」
ぴた、と地面を転がっていた男の子の動きが止まる。
顔を覆っていた手をそおっと外し、少しばかり恨めしそうに私を見上げる。
「やっぱり、何か知ってるのか?俺のこと」
「全然。私とあなたは初対面ですけど」
「うー……」
「言いたいことか知りたいことがあるならさっさと行ってしまえばいいと思いますよ。私に答えられることなんてたかが知れてますけど」
「ぐっ、そう言われると……っ、自信無くなってくる……っ」
顔をくしゃくしゃにしてまた頭を抱えるその人に、私は少し呆れて肩を落とす。
しょうがないなあ、もう。
レオンさんにはちょっと申し訳ないけど、自分が蒔いた種だ。解決するまでは付き合うのが道理ってものだろう。
ごめんね、レオンさん。
私は心の中で謝ると、その場にゆっくり腰を下ろす。
男の子は大きく目を見開いて私を見つめた。
「あの……聞いて、くれるのか?自分で言うのもなんだけど、かなり突拍子もない話なんだ」
おずおずと上目遣いになる男の子はけっこう可愛い。
「大丈夫。どれだけ突拍子がない話でも、今の私と比べたら全然へでもないから。ほら、言ってみなよ」
口調を崩して男の子に先を促す。
彼はそれでも迷っていたみたいだったけど、起き上がって隣に座った。
ぽつぽつと話し始めた内容は、確かにとんでもない内容だった。
「俺、名前ユーリィって言うんだ。ユーリィ・カナン。それが俺の名前。これは俺を拾ってくれたじっちゃんが伝説の勇者になぞらえてつけてくれた名前なんだ。だからってわけじゃないけど、俺、勇者に憧れてて。それこそ夢に見るくらい大好きなんだ」
「へえ。そうなんだ」
適当な相槌を打つ私。
残念ながら私はこっちの世界の事情なんて知る由も無いのだし。申し訳ないけど。
「反応が薄ぅい……。俺、この間16歳の誕生日だったんだ。その日の夜、不思議な夢を見てさ。俺が不思議な剣を持ってる夢。そして――」
彼は、ううん、ユーリィと名乗った少年は真っすぐに私を見つめた。
「あんたが居たんだ。そこに、顔はよく分かんなかったけど、あんただって。初めて会ったときに確信した」
それで運命。かぁ。
でも流石に少し理由が弱いんじゃないかな。
「夢に私みたいな人が出てきただけで運命って言いきるのはちょっと早計じゃない?プラシーボ効果とかじゃないかなあ」
片手をひらひらと振って見せれば、ユーリィというらしい男の子は顔を赤くして身を乗り出してきた。
「そんなことないって!絶対にあんただったってば。その変な服も、黒髪も、夢に出てきたのと同じなんだって」
「それ、何となく夢の中にあった記憶が実際にそれっぽい人に会って書き換えられたりしてないの。人間、そういうとこ雑なんだよ」
「いーや、絶対にあんただった。神様に誓ったっていい」
「ごめん。神様に誓われても良くわかんない。仕方ないって諦めてくれないかな」
「えー?なんで俺、フラれたみたいになってんの……。俺なんかし……してたわ」
「いたいけな女の子を追い掛け回してたよね」
「ぐっ……、で、でもさ、あれはあんたが逃げるのが悪いって。そうでもなきゃ追いかけたりとかしないってば」
「えーホント―?」
「ホントだって」
「しょうがないでしょ。見ず知らずの人に会ったら普通怖いって」
「怖い……怖いかな、俺……」
「なんでそこで落ち込んじゃうの」
「う、うるさい。もういいから、村の方に行こうぜ。お祭りの準備してるんだ。あんたも多分気に入ると思う」
「えー、ホントー?」
「これは嘘じゃないからっ」
「あはははは」
「わ、笑うなー!」
やいのやいのと盛り上がり、時々はちょっとからかったり、拗ねたりしながら私たちは笑いあった。
たわいもない話だったと思う。多分、くだらないことだったと思う。
重大な話をしていたはずなのにだんだんとりとめのない話になっていって、結局は最初の話を忘れてしまうような、そんなお喋り。穏やかな時間。
それでも、私はこの時間を忘れることはないだろう。
これが、彼との出会い。
私の冒険の一ページに、彼の名前が刻まれた日。
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