第4話 誘惑

 兄嫁は毎日俺の家にやって来た。倫の着替えなんかを持って来たんだ。

そして、娘には声を掛けずに、俺に「これは着替えです」と言って、まるで保育園に預ける親のように、当たり前のように帰って行った。


 倫は洗濯なんかも全然やらなくて、俺が家事を全部一人でやらなくてはいけなくなった。きちんとご飯を食べないで、お菓子やインスタント食品ばっかり食べていた。生活は、昼夜、逆転してしまっていた。


 うちに来た翌日から、俺が風呂に入っていると裸で入って来たり、トイレを開けたりするようになった。俺が「やめろ」と言うと、2階のソファーに裸で座ったりしていた。昼にアダルトサイトを見てるので、ネットのフィルタリングをしたが、携帯では何を見ているかわからなかった。しかも、俺が会社に行った時は、一人で黙って遊びに行っているみたいだった。


 そして、夜と土日は俺をしきりに誘惑するのだが、全国ネットのニュースに出るのはごめんだったから、彼女を避けるようになっていた。


 俺も倫に愛想を尽かし始めていたが、構って欲しいのか彼女はやめなかった。

 やっぱりメンヘラなんだろうなと思った。

 精神科に行った方がいいのだが、本人が行きたがらなかった。


 そのうち、両親はまったく連絡して来なくなった。


 俺は倫の転入届を出して、本当にうちの近所の公立に通うことになった。

 俺は、倫が私立中の勉強について行けなくなったことを教頭に伝えた。


 担任は転校の初日に、倫が御三家から転校してきたことをみんなに言ってしまった。

 だから、倫はクラスでちょっと浮いてしまった。私立から転校して来るといじめられる。・・・というのはお約束みたいなものだった。

 

 倫はしばらくして、学校で友達ができたと言っていたが、水商売のシングルマザーの家の子だった。その子は、それまで友達がいなくて、いつも1人だったそうだ。その子も夜遅くまで起きていて、2人でよくLineをしていた。そのうち、倫は俺のベッドにも入って来なくなった。しかも、その子は、放課後、俺が帰って来るまで、うちに遊びに来ているみたいだった。


 俺は水商売の人の子供だから、きっとヤンキー系の女の子だろうと思っていた。

 でも、俺は誤解していた。


 俺はてっきり女の子だと思っていた。

 そしたら、そいつは男だったんだ。


 ある日、学校から倫が登校していないという連絡が来た。

 俺が昼に家に帰ったら、玄関にちょっと大きめの汚いスニーカーがあった。


 静かに上に上がって行ったが、2階には誰もいなかった。

 そして、3階に上がると寝室から声が聞こえて来た。

 

 俺がドアを開けると、やっぱり子供が2人でセックスをしてた。


「学校は?」

 俺は淡々と言った。倫は布団をかぶって顔を隠した。

 そこにいたのは、ジャニーズ系のもてそうな感じの男の子だった。

 あと何年かしたらホストにでもなりそうな雰囲気の。

「午後から行く」

 倫は布団の中から言った。

「絶対行けよ。じゃあ、取り敢えずシャワー浴びて来いよ・・・」

「おじさん、会社は?」

「忘れ物してさ・・・。それより、お前たち避妊してる?」

 2人は黙った。

 俺は倫を先に風呂に行かせて、その子にコンドームの使い方を説明した。

 その子は素直に聞いていた。

 変な育て方をしなかったら、多分、普通の子だっただろうと思う。

 俺は倫に家出でもされたら困るから、2人の関係を黙認した。

 その子はいつも俺んちにいて、3人で一緒に飯を食ったり、割といい関係だったと思う・・・。


 倫は中学を卒業してから、男と住むからと言って出て行った。

 今はどこにいるかわからない。

 連絡がないってことはきっと元気なんだろう。

 時々、あの大変だった日々を思い出す。

 もう戻りたくないから、連絡はしないようにしている。

 

 兄の一家は、まるで元々一人っ子だったみたいに、息子と3人で暮らしている。

 息子は中学受験で御三家に合格したそうだ。 

 だから、傍から見るとまるで理想の一家のようだ。

 これからも・・・ずっと自分たちを理想の家族だと思い込んで生きて行くんだろう・・・。

 あの人たちは。

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理想の家族 連喜 @toushikibu

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