第2話 いきなり姪と同居

 俺と兄一家は、距離にしては近くに住んでいたけど、全然行き来がなかった。

 

 俺が仕事から帰った時。夜7時半くらいだった。

 家の駐車場の暗がりに女が一人立っていた。

 うつむき加減で『リング』の貞子みたいだった。

 また、変なのが来たと俺は思った。

 

 黙って駐車場の電気をつけた。

 女が顔を向けたけど、誰かわからない。服装からしてすごく若そうだった。

 「誰?」

 俺は冷たく言った。


「おじさん」

 声で姪だと気が付いた。会うのは3年ぶりくらいだった。

「えぇ?りんちゃん(仮名)?何してるの?」

「会いたくて・・・」

 一瞬泣きそうになって顔がクシャクシャになった。

「あ、そう。前もって連絡くれたらよかったのに」

「連絡先知らなくて・・・」

 そうだ。倫ちゃんが小学生になってからは、俺は意識的に遠ざけられていた。

 おじさんは独身だし、ロリコンかもしれないから・・・という配慮だったと思う。

「そうだね・・・飯食った?」

「まだ」

「ファミレス行く?」

「うん」


 俺はカバンをそのまま玄関に置いて、また駅前に戻った。何かあったんだろう。倫ちゃんはちょっと後ろからついて来た。おじさんとは言っても、異性だし、しばらく会ってないから警戒している感じがした。

「大丈夫?親に連絡してる?」

「してない」

「心配するから早く連絡しなよ。警察に捜索願出してるかもよ」

「いいんだ」

「よくないって」

 俺は倫に気が付かれないように、姉嫁に「りんちゃんが来てるよ」とLineを送った。


「何かあったの?」

「うん。もう家にいるのが嫌で」

「でも、明日学校だろ?」

「行かない」

「それはまずいって?」

「もう行ってないからいい」

「え~!まじで?行ってないの?」

「うん」

「何で?」

「いろいろ」

 久しぶりに会った姪はすっかり不貞腐ふてくされたようになっていた。

「学校合わなかった?」

 御三家なのにもったいないなと思った。

「うん。学校嫌い」

「いい学校ほど嫌なやつが多いよね」

「だよね~」

 倫ちゃんは俺がそういうと嬉しそうだった。次から次へと喋り始めた。

 俺は聞き役に徹した。学校行けとかは言わない。俺の子じゃないし。むしろ、あんな完璧な家庭にこんな問題があったと知って、気分がよかった。


 倫ちゃんはファミレスで値段を気にせず好きな物を頼んでいた。倫ちゃんの分だけで6,000円くらいになってしまった。そして、機嫌良さそうに、ずっと学校と親の愚痴を言っていた。話を聞いてくれる人がいて嬉しいらしかった。


 かいつまんで言うと、まず、親が厳しすぎた。朝から晩までスケジュールが決められていた。学校だけでも大変なのに、さらに英会話を週3と、ピアノも習わされていた。ちゃんと行かないと、スマホを没収され、小遣いをもらえないそうだ。


 学校自体の勉強も大変だった。宿題をやり終えると夜11時くらい。

 しかも、学校に友達が1人もいないそうだ。小学校の時の友達はガラが悪いからと、連絡を取るのを禁じられていた。

 

 俺は、こっそりLineで「今、駅前の〇〇〇○○にいる」打って送った。


「それは行きたくなくなるよね」

 俺は話を合わせた。親がそんな風だと、いくら訴えてもむしろ怒られるだけだ。

「学校やめたい」

「親と話した?」

「行け、行けって言われるし。パパは殴るし」

「え?ひどいね」

 女の子を殴るなんて、ちょっとびっくりした。

「うん」

「俺も兄貴にはよく殴られてた」

「子供の頃からああだった?」

「うん。あの人、かっとなりやすいから。奥さん殴ってない?」

「何回かある」

「よく離婚しないね。・・・ごめん。言わないでね」

「あの人、世間体気にするからしないと思う」

「あの人って?」

「ママ」

 ああ、仲悪いんだ。兄嫁が気の毒になった。

 あ、さっき呼んじゃった・・・まずい。


 それからしばらくして、兄嫁が弟を連れてファミレスにやって来た。

 いつの間にか、テーブルの傍らに2人が立っていた。  


 倫はそれに気が付くと、怒って出て行こうとしたが、兄嫁が手を引っ張った。

「いいから座って!」

 ちょっとした修羅場だった。俺はあっけに取られていた。

 久しぶりに会った兄嫁は、すっぴんで、服もシワシワだった。弟もうつむき加減で、すっかり暗い感じになっていた。


 俺は何か食べるか2人に聞いた。

「すいません。じゃあ・・・」

 もう、9時近かったけど、食事をしてないみたいだった。兄嫁はドリアを1個頼んだだけだったが、息子には「遅くなってごめんね。ちゃんと食べようね」と言って、サラダをつけたりしていた。


 俺は気が付いた。兄嫁は化粧してたからきれいだったんだ。色白だと思ってたけど、顔は土色で、そんなに美人でもなかった。兄はまた浮気してる気がした。


 兄嫁は俺と目を合せずに「最近、何回も家出してて・・・」と打ち明けた。

「そうだったんだ」

「帰ろう。ここにいてもしょうがないでしょ」

 兄嫁はうんざりしたような顔で娘に言った。

「嫌!帰るんなら死ぬ」

 倫は大声で言った。他の客にも聞こえているだろう・・・。俺は冷や冷やした。

「これから、おじさんのところに住む」 

「でも・・・」

 兄嫁はおじさんは一人暮らしだし、何かされるかもしれないから、危ないと思ったようだった。しばらく黙っていた。

「でも、ご迷惑でしょ」

 そうだ。迷惑だ。俺は早く帰って欲しかった。

「家に連れて帰ったら家出するから!」

 兄嫁はため息をついた。

「もう遅いから、けんも寝ないといけないし・・・。すみません。お願いしてもいいですか?」

 俺はびっくりした。

「え、でも俺、一人暮らしだよ」

「ほんとすみません。ソファーとかに寝かせていただければいいんで・・・明日の朝、剣が学校行ったら迎えに来ますから」

 

 兄嫁は面倒くさかったみたいだ。それに、また家出したり、自殺するくらいなら、叔父に何かされてもいいと思っているみたいだった。すべてを放り出したい感じだった。もう、娘はいなくてもいいという感じがした。


 俺が姪に手を出したら、すぐに警察に通報される。兄に社会的に抹殺されるだろう。

 しかも、死んだり、家出したりしたら、きっと俺のせいにされる・・・。

 俺は自分のことでも大変なのに・・・。

 弟は眠そうだった。


 俺たちは2人を駅まで送った。

 それで、コンビニで倫のために下着を買った。

 服は1晩くらい何とかなってもパンツはない。

「生理とか来てない?」

「ない。コンドーム買わないの?」

 倫はからかうように言った。

「買わないよ」

 俺は家にあるしと思ったが言わなかった。

 


 


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