第173話 大型燻製器 1
大森林内に踏み入ってから、十日。
シェラのレベル上げも順調な上、魔獣肉の在庫もたっぷり【アイテムボックス】に溜まっている。
いつものように二階建てコテージを設置して、シェラからリクエストされたトンカツをハイオーク肉でひたすら揚げさせられ、舌鼓を打った、その夜。
俺は久々に【アイテムボックス】の整理に励んでいた。
何せ、大森林を縦断する旅なのだ。
倒した魔獣や魔物の死骸はどれも無造作に【アイテムボックス】に放り込みながら、戦闘をこなしつつ進んでいる。
余裕がある際に整理しておかなければ、いちいち収納リストを確認しながら、目的の品を引っ張り出さなければならなくなるのだ。
シェラが倒した魔獣の死骸はまとめて彼女用のフォルダに選り分けていった。
従魔契約の恩恵で、コテツが倒した魔獣や魔物は【
収納容量はまだかなりの余裕があるが、なるべく片付けておいた方が、取り出す際にも便利なので、こまめに整理するようにしていた。
「ドロップアイテムだけでも、かなりの量を収納しているからな……」
治癒魔法も使えるが、なんとなくポーション類は手放せなくて、気が付いたらかなりの量を確保していた。
魔道具は便利だし、あって困る物でもないので、ドロップ率の高い魔道ランタンや魔道テント以外は売らずに【アイテムボックス】に仕舞ってある。
魔道ランタンや魔道テントは冒険者ギルドが買い取ってくれるので、性能の良い数点を除いて、ダンジョンでドロップするごとに売り払っていた。
「魔法武器は浪漫だから、全種類集めたくなるのは仕方ないよな。うん」
特に四属性魔法の魔剣はテンションが上がる。
自分で放った魔法の方がよほど威力はあるが、それはそれ。魔剣は使う際に派手なエフェクトを放つ。これが結構楽しかったりするのだ。
「魔法のローブや杖、その他の頑丈そうな武器も何かと便利だから、売らずに持っておこう。結界の魔道具や隠蔽系の魔道具も使えるからな。マジックバッグは積極的に集めたいし……」
マジックバッグはレアアイテムだ。
収納容量が少ないマジックバッグでも、買取額はかなり高い。収納スキル持ちは希少なため、能力を知られたら面倒くさい。
なので、マジックバッグや収納機能付きのアクセサリーなどを身に付けて、スキルを誤魔化すつもりで、せっせと集めているのだ。
同行者の中で唯一、収納スキルのないシェラには必須のアイテムでもある。
「収納リスト内の大物は【
食品フォルダに無造作に突っ込んである、大量の肉の塊に少し遠い目をしてしまった。
これでも厳選はしているのだ。
すっかり口の肥えた同行者たちが「この肉は臭みが強い」だの「こっちの肉はくそ不味い」だのと文句を付けるので、彼らのお眼鏡に適った美味な肉だけを選り分けて確保している。
ちなみに微妙だと評価されてしまった魔獣肉はギルドに売った。数が多いので、そこそこ稼げてしまったのはラッキーだったが。
その厳選された美味しいお肉が、ざっと数えただけでも四桁近く【アイテムボックス】内に在庫がある。いくら大食いばかりとはいえ、一年は余裕でもつ量だ。
鶏肉、うさぎ肉、蛇肉に鹿肉、猪肉。
魔物だと、
収納リストを睨んでいると、ピロンと通知音が響き、【アイテムボックス】に収納物が増えた。
こんなことが可能なのは、従弟たちくらいだ。
「また何か、送ってきたなアイツら」
最近は肉以外にも、魚介類の在庫が充実している。
帝国を目指す船旅中の従弟たちから【アイテムボックス】経由で送られてくるのだ。
新鮮な魚は大森林では獲れないので、ありがたく頂戴しているが。
以前、少しの間だけ滞在していた海辺の街で多めに魚を仕入れてはいたが、従弟たちが送ってくるのは魔素の影響でモンスター化した巨大魚が多い。
魔力を多く含んだ肉はべらぼうに旨いので、大喜びで受け取って調理している。
船が航行するのは沖合。巨大魚はそれこそ大型船がなければ、滅多に手に入らない。
たまにダンジョンで遭遇するサハギンの宝箱に入っていることはあるが、ここまで立派なモンスター魚はなかなかお目にかかれない。
さすが、勇者一行と褒め称えたくなるラインナップだ。
「サーモンにマグロ、カツオまである! こないだのクラーケンも美味かったよなぁ……」
これら大物の魚たちは全てモンスター化しており、通常サイズの倍以上に成長していた。
従弟たちと半分に分けても、相当な量の身が手元に残るので、解体と調理を笑顔で請け負っている。
特にこの三点のお魚たちは刺身にして食いたいトップ3。それはもう良い笑顔で刺身包丁を振いましたとも。
「刺身にカルパッチョ、海鮮丼も外せない。握り寿司もいいよなー。鑑定スキルで生食も可能とあったから、安心して食える」
せっかくなので、明日のランチは魚を楽しもう。
以前もマグロを送ってくれたことがあるが、その時は寿司にして大いに楽しんだものだった。
赤身部分も旨かったが、何と言ってもトロが絶品だったように思う。
「中トロ、大トロの部位は凄まじかった……」
口の中に放り込むと、体温で蕩ける肉。あれはもう飲み物だと思う。
脳内に快楽物質がぶわっと溢れる。美味すぎて、腕には鳥肌が立つほどだ。
これは食べすぎると危険かもしれない。
そう、シェラとレイとも話し合い、週に一度、少しだけ楽しもうと決めた。
その素晴らしいマグロがまた送られてきたのだ。在庫が心許なかったので、とても嬉しい。今からどうやって食べるかと頭を悩ませるのが楽しすぎる。
「赤身部分で手作りしたツナも美味かったんだよな。あれに食い慣れたら、市販のツナ缶じゃ満足できなくなりそう」
オリーブオイル漬けにした手作りツナはガラス瓶に詰めて、おにぎりやサンドイッチの具材に使っている。
この美味しさを知ったレイは、在庫がなくなれば自分が海で獲ってきてやろう、とまで豪語していたほどだ。
「今度はガーリックオイルに漬けてみよう。絶対に旨い。サーモンは漬けにしてもいいな。カツオは断然タタキ! たっぷりのニンニクと岩塩で食うと旨いんだ」
うきうきとリストを確認していき──ラストの大物を目にして、息を呑む。
「ケートス。……クジラのモンスターか?」
ギリシア神話だか、聖書だったか。
うっすらと記憶に残っている名の化け物。魚介類を送り付けてきた
クジラの魔獣らしく、かなりの大物なので、解体は大変そうだが──
「クジラ肉か。楽しみだな」
小さなクジラなら、以前に従弟たちからも送られてきたことがあったが、あれはイルカサイズだった。
が、今回はドラゴンなみの巨体を誇るイルカの肉なのだ。
「色んな部位を味わえるのか」
想像するだけで、自然と喉が鳴る。
日本ではなかなか食べられないので、楽しみだ。刺身はもちろん竜田揚げにするのも良いだろう。
半分に分けたとしても、かなりの肉の量になりそうなので、いくらか加工しておくのもありか。
「肉の在庫もたんまりあるし、いっそ燻製にするか。たしか、ホームセンターで屋外型の大型燻製器を扱っていたような……」
ショップリストから検索すると、ありました。炭火を使った、大型の燻製器。
見た目はもはや小屋に近い。ドア型の蓋を開けると、上部に吊るせるようになっており、その下は五段ほど網棚で区切られていた。
一度に大量の燻製を加工できるようになっていたので、色々と試せそうだ。
ポイントは10万ほど消費するが、肉はもちろん卵や魚など、美味しい燻製を楽しめるのなら安い物だと思う。
「っし! 買うぞ、大型燻製器!」
これがあればアレが作れる。
酒のツマミに最高だと、祖父がよく語っていたクジラ肉ベーコン。
食べたことがないので、味の想像が全くつかない。
だからこそ、期待に高鳴る胸を宥めつつ、大型燻製器をショッピングカートに突っ込んだ。
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ギフトありがとうございます!
レビューも感謝です。わーい!
飯テロになっていたなら嬉しいです!笑
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