第172話 後片付けは大事です


「っし! 取りこぼしはなさそうだ」


 念入りに【気配察知】スキルで確認したが、他にハイオークの気配は感じない。


『お肉、たくさんゲットできましたね!』


 ご機嫌な様子で集落の上を飛び回る白銀色のカラス。

 シェラにとっては、地面に横たわるハイオークは既にお肉扱いのようだ。

 

「後始末をしていくから、シェラは周囲の見張りを頼む」

『任せてください!』


 張り切って、空を旋回するシェラを見送り、足元を眺めてため息を吐く。

 大森林を進む中で、ハイオークの集落を見つけて、さくっと殲滅した。

 五十頭ほどの群れだったので、さして苦労することなく倒すことができたが、魔物の集落は後始末が面倒なのだ。

 とりあえず、周辺にバラけて倒れているハイオークの死骸の回収をしなければ。


「ニャッ」

「手伝ってくれるのか? 助かる」


 愛猫のコテツは収納スキル持ちなため、ありがたく手伝いの申し出を受けた。

 黙々とシェラ曰くの『お肉』を回収すると、次は集落を潰さなければならない。

 跡地に他の魔物が巣食わないように、丁寧に破壊していく。火を放てば簡単だが、ここは大森林。森林火災は恐ろしい。

 なので、ダンジョンでドロップした戦鎚ウォーハンマーで徹底的に叩き潰していく。

 念入りに土魔法でならした土地にはせっかくなので、野菜のタネや果樹の苗を植えてみた。

 他にもショップ内のホームセンターで色んな種類の種芋を見つけたので、ジャガイモやサツマイモなど適当に土に突っ込んでいく。

 異世界のイモも悪くはないが、地球産のイモの方が食べやすいので、ここから増えていくと嬉しい。


「よし、後片付けも終わり! 先に進むぞ」

『トーマさん、トーマさんっ。ここから真っ直ぐ行った先に良さげな広場がありました!』


 周辺を見回ってくれていたシェラの報告を頼りに、北に進んだ。

 距離にして1キロほど離れた場所に案内されたので、本日の拠点はここにすることに。

 古い大木が朽ちて倒れており、たしかに良さげな広場ではあった。

 邪魔な倒木は【アイテムボックス】に収納し、ポイントに換えておく。古木は意外と買取ポイントが高いので、地味にありがたい。

 二階建てのコテージを設置して、本日は家で休むことにした。



◆◇◆



 カラスの姿のまま二階の自室に飛び立ったシェラは三十分後にリビングへ降りてきた。

 人の姿に戻るついでにシャワーを浴びてきたようだ。コンビニショップで販売していたレディースのルームウェア──もこもこのTシャツとハーフパンツ姿。無防備にも程がある格好だが、もう慣れた。

 年末年始、お盆の時期に親戚が一堂に集まる際に披露される従妹たちのルームウェア姿も似たようなものだった。

 おかげで、すっかり見慣れてしまったため、シェラの風呂上がりの姿もスルーすることができた。

 当のシェラも特に気にした様子もなく、得意の風魔法で濡れた髪を器用に乾かしている。

 何となくだが、身軽なことを良しとする『鳥の人』は薄着姿が普通なのかもしれない、などと考えた。

 他所よそで肌も露わな服装になるなら全力で止めるつもりだが、我が家でなら放置することにしている。


「ほら、アイス。食うだろ?」


 湯上がりで暑そうだったので、コンビニで購入したアイスをシェラに手渡してやった。


「ありがとうございます! ソーダ味のコレ、大好きなんですっ」


 さっそく袋を開けて、ソーダ味の氷菓に齧り付いている。シャクシャク。幸せそうに食べている。

 シェラがアイスに夢中になっている間に、夕食の準備に取り掛かることにした。


「ハイオーク肉が大量に手に入ったから、今夜は焼き肉にするか」

「焼き肉……!」


 シェラの笑みが深くなる。

 やきにく、やきにっく、と何やら自作の鼻歌まで聞こえてきた。

 心の中でそっと『肉食女子の歌』と名付けておく。


 大森林内は魔素が濃いが、ダンジョンではないため、倒した魔物の素材はまるっと一匹分そのまま手に入る。

 なので、大量のハイオークの死骸は【素材解体】で枝肉に解体した。可食部と魔石だけ残して、それ以外はポイントに換えておく。 

 塊肉は食べやすいよう、焼き肉用にカットした。箸で摘めるサイズがベスト。

 部屋の中だと脂や匂いが気になるので、外で食べることにした。

 バーベキューコンロの網を外して、焼き肉用の鉄板に交換する。

 用意した肉は、ロース、バラ、肩肉にモモ、ヒレにタン。忘れずにレバー、ハツ、ハラミやホルモンも皿に並べておく。


「っと。野菜も食わないとな」

「お野菜はあんまり要らないと思います」

「好き嫌いはダメって言ったろ? ほら、ニンニクは好きだろ、シェラ。玉ねぎにキャベツ、カボチャ、アスパラに椎茸も焼こう。あとはピーマン、トウモロコシ!」

「ううぅ…多いですぅ……」


 火が通りやすいように、薄くスライスしてあるので食べやすいはずだ。

 コテージの結界が届く範囲内でテーブルやイスをセッティングして、炭火で肉と野菜を焼き始めたところで、チビドラゴンが帰還した。

 バサバサと羽音を立てながら、器用にイスの背もたれを止まり木代わりに着地する。


『帰ったぞ』

「はいはい、おかえり。お前、ほんっとタイミングぴったりだよな。どっかで見張っているのか?」

『まさか。家路に誘う馨しい香りには釣られているかもしれんが』


 食べ物の匂いに釣られて戻って来たらしい。

 いいのか、それで。黄金竜。


「旨そうだな」


 チビドラゴンから、瞬時に人の姿に戻ったレイが笑顔で箸と小皿を手にする。

 シェラが羨ましそうにレイを見上げていた。

 彼女の【獣化】スキルによる変化だと、服はその都度、脱ぎ着が必要なので、瞬時に姿を変えることのできる彼が心底羨ましいのだろう。


(でも、レイの服は魔法でそれらしく見せているだけだしな。さすがにシェラにその真似はできないだろ)


 普通に嫌だと思う。人には見えなくても、素っ裸なのだ。無防備すぎて不安になるし、そういう特殊な性癖でもなければ、耐えられるとは思えない。


(ドラゴンはまぁ、普段から服なんて着ていないもんなー)


 魔法で思い描いた服に着替えられるのはめちゃくちゃ便利そうだが。


 ともあれ、今夜は焼き肉だ。

 白飯の他にも焼きそばもちゃんと用意してあるので、締めの麺も楽しめる。

 バーベキューも嫌いではないが、鉄板で焼く肉はまたそれとは違った魅力があるのだ。


「さぁ、食うぞ!」

「いただきまーす!」

「ニャーン」

「うむ、いただきます」


 さっそく、それぞれで好みの肉を育てていく。コテツの分は俺が焼いた。

 牛肉ならぬハイオーク肉オンリーの焼き肉だったが、どれも美味しく平らげることができた。

 普通のオーク肉よりも身が引き締まっており、脂身が少ない。そのくせ、赤身肉は柔らかく、肉の味が濃かった。


「美味いな」

「うむ。この焼き肉のタレで食うと、特に旨いぞ」


 わしわしと白米を肉と共に掻き込むようにして食べるレイ。焼き肉の食い方を理解しているな。

 コテツは流石で、肉をサンチュで挟んで味わいながら食べている。うちの子、天才では?

 ちなみにシェラは肉を肉で挟んで食べていた。この子、腕白わんぱくすぎでは?


 色々な部位の肉を食べ比べ、舌鼓を打ちながら、レイにねだられたビールを飲む。

 肉や野菜、焼きそばも食べ尽くしたところで、ようやくお開きとなった。

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