第166話 ホームセンター 3


「高級缶詰セット旨かった……」


 うっとりと余韻に浸る。

 あんまりにも美味しすぎて、ポイントに余裕があるのを良いことに十セットほど追加購入してしまった。

 おかげで白ワインも一人で一本飲み干してしまったが、気にしない。


「うむ。あれは良い物であったな……」


 レイも上機嫌で頷いている。

 コイツの周囲にはワインの空き瓶だけでなく、ビールの空き缶も転がっていた。


「どんだけ飲んだんだよ、レイ」

「む、すまない。肴が絶品すぎて、つい飲みすぎてしまった」


 高級缶詰にご当地カップ麺、レトルトカレーだけでは飽き足らず、ねだられるままに乾き物系のおつまみを与えてしまったのが悪かったのか。


(こいつ、幸せそうに食べるから、つい……)


 悪い癖だとは自覚している。

 旨そうに飯を食べている相手を目にすると、つい食わせてしまいたくなるのだ。


(だから、オカン属性とか言われるのか……? でも、飯を美味そうに食う奴は見ていてこっちも幸せな気分になるし!)


 大食いを眺めて楽しむのとは少し違う。苦しそうに無理やり食べているのは論外。

 この金ピカドラゴンのように、うまいうまいと相好を崩しながら食べる姿に心が満たされるのだと思う。


 幸せそうに食べるといえば、シェラもそうだ。

 プラチナブランドの髪とアクアマリンの瞳を持つ、とびきりの美少女はその清楚な外見とは裏腹に、とにかく良く食べる。

 朝露や花の蜜だけを口にする妖精のような見た目な彼女の好物は、肉だ。

 それも血の滴るようなレアなお肉なら尚のこと良い。とにかく肉をこよなく愛しているのだ。


(甘い菓子が好きなところは女の子って感じなんだけどな)


 チョコレートにクッキー、キャンディ。アイスクリームにプリン、ケーキ。洋菓子だけでなく、最近は和菓子にも興味を持っていた。

 幸せそうに、うっとりと顔を綻ばせながら、塊肉に齧り付く様は圧巻だ。

 俺と出会うまで、集落では肉を食わせてもらえていなかったと聞くので、肉に執着してしまうのも仕方ないとは思う。

 

 そんなシェラは、ホームセンターで購入した『ゴロゴロ黒毛和牛肉入りレトルトカレー』が大層お気に召したようで、凄い勢いで食べていた。


「美味しかったですね、お肉たっぷりのカレー」


 余韻に浸りつつも、大袋のポテチに伸びる手は止まらない。

 2リットルサイズのコーラを飲みながら、こちらも実に幸せそうに堪能している。


「気に入ってくれたようで良かったよ。コテツはどうだった?」

「ンミャッ!」


 こちらも高級な猫缶が口に合ったようで、お褒めの言葉をいただいた。

 口元をぺろぺろと舐めている様子から満足しているのが伝わってくる。

 百円ショップとコンビニで購入できるキャットフードは種類が限られていたので、コテツ的にはホームセンターは『当たり』だったのだと思われる。


「お前の好物のおやつも全種類選べるようになったからな。良かったなー?」


 ネコまっしぐらの、例のおやつだ。

 今までは五種類くらいしか購入できなかったのだが、ホームセンターがショップに追加されたことにより、全八十種類から選べるようになりました……!


(八十種類もあったことにビックリだよ)


 だが、可愛い愛猫が喜んでいるので、飼い主げぼく的には満足なのだ。


 少し遅めの昼食の後片付けをしたところで、欠伸が出た。眠い。


「腹いっぱいになったら、眠くなったな……」

「ですねぇ。わたし、部屋に戻ります」


 シェラもまだ疲れが残っていたようで、ポテチの袋とコーラをしっかり確保して部屋に戻っていった。


「トーマもまだ疲労が残っているのだろう。少し休め。私が起きていてやるから」


 ワインとビールを大量に飲み干したくせに、やたらと元気なレイの言葉に甘えて、リビングのソファに寝転がる。

 部屋に戻ると、本格的に眠りにつきそうだったので、仮眠のつもりで横になった。

 腹の上がもふっと温かい。コテツが飛び乗ってきたようだ。くあっと欠伸をすると、そのまま丸まって寝息を立て始める。


「……レイ、は?」

「私はトーマから貰った本とゲームがある」


 コンビニショップから購入していたファンタジー小説を制覇したようで、今は古典と名高いミステリー小説を読み込んでいるようだ。

 全集を購入しておいたので、14冊はある。これなら暇を潰すには充分か。

 

「……ちょっと寝る。あと、よろしく」


 腹が減ったら、適当に食えとカップ麺やレトルト食品は手渡してある。

 一時間くらいの仮眠を、と考えながら、俺は心地良い眠りの淵にダイブした。



◆◇◆



 気が付いたら、五時間が経っていた。

 あれから一度も目覚めず、爆睡していたようだ。慌てて夕食の準備をする。

 朝昼とサボったので、夜はしっかり食べたい。

 

「ハイオーク肉の酢豚と串焼き。野菜はサーモンのカルパッチョで!」


 カリッとあげた豚肉、もといオーク肉を使った酢豚は疲れた身には染みるほど美味い。

 サッパリした甘酢ダレは好き嫌いが分かれるため、串焼きも用意する。

 こっちはシンプルに塩胡椒で焼いた。

 サーモンは従弟たちが【アイテムボックス】経由で送ってくれたものを使っている。


 帝国に向かう船旅で、海のモンスター退治の際に結構な割合で手に入るらしく、少し羨ましい。

 

(大型船だから、沖合の巨大魚も手に入るんだよな)


 先日は巨大なサーモンを捕えることができたようだが、誰も解体できないから、と送られてきたのだ。

 半身をくれると言うので、大喜びで三枚におろしました。

 サーモンの刺身、めちゃくちゃ美味かったです!

 二メートルサイズのサーモンだったので、在庫はまだある。カルパッチョにすれば、野菜があまり好きではないシェラも大喜びで食べてくれた。


 幸い、酢豚も好評で、綺麗に完食!

 後片付けはシェラとレイが受け持ってくれたので、俺はのんびりコーヒーを飲みながら【アイテムボックス】の整理をすることにした。

 ダンジョン内では面倒だったので、放り込むだけで先に進んでいた。ギルドに売る品など、不用品の選別もしておきたい。


 黙々と【アイテムボックス】内のリストを確認したり、仕分けしていたところ、見覚えのない収納物に気付いた。


「……ん? なんだ、これ。クラーケン?」


 アンハイムダンジョンで倒した覚えがない、巨大なイカ型モンスターだ。


「イカ……ってことは、もしかしてアイツらが送ってくれていたのか?」


 はっと気付いて、慌ててスマホを取り出した。

 そういえばスマホは紛失を恐れて、ずっと【アイテムボックス】に放置したままだった。


「あああ……やっぱり……」


 神さまアプリには、何件も未読のメッセージが届いていた。


「ヤバいな。心配させたかも」


 二日も返事を返さなかったことは、これまでにない。従弟二人はともかく、心配性な夏希の反応が恐ろしい。

 もう既に遅い時間帯だったが、大急ぎで返信した。


「とりあえず、謝罪。で、ダンジョンにこもっていたこととー、魔族を倒したことも伝えておくか」


 あとは、レベルが上がったこと。高ポイントをゲットしたことも報告しておく。

 何より、新しいショップで買い物ができるようになったことを自慢したかったのだが。


『……ホームセンター?』

『なんだー。それならスーパーの方が良かったよ』

『可愛い服は買えそうにないわね……』


 がっかりされてしまった。ひどい。

 とりあえず、クラーケンは明日にでも解体して送り返すことを約束する。

 連絡が遅くなったことは、少しだけ叱られてしまったが、無事を喜ばれた。

 うちの従弟たち、いい子すぎる。


「よし。お礼にクラーケン料理、頑張ろう」


 ダイオウイカの画像は見たことがある。食べてみた人の感想も、気になって調べたことがあった。

 普通のイカは美味いが、あのサイズの深海に棲む生き物は強烈なアンモニア臭がして、不味いらしい。まず、刺身で食える代物ではないようだ。


「だけど、クラーケンはこっちの世界の魔獣。いや獣じゃないな。海魔だったか?」


 魔力を孕んだ肉は美味い。

 ならば、このクラーケンも絶品に違いない。


「イカ焼きはテッパンだな。イカフライ、天ぷら、イカ飯は……無理か?」


 じっくり鑑定して、刺身で食えそうならイカソーメンもいい。


「明日が楽しみだな」



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