第165話 ホームセンター 2
真っ先にカートに突っ込んだ商品は、マウンテンバイクだ。ポイントはあるし、ショップ内で一番高額な物を選んでみた。
「おお。これは知っているぞ。自転車というやつだろう」
嬉しそうに背後から覗き込んでくるのは、好奇心旺盛なドラゴン、レイ。肩に顎を乗せてくるのが鬱陶しい。というか、重い。
「これで旅をするのか? 私も欲しい」
「いや、お前は飛べるだろ」
自転車に乗るレイの姿を想像すると、ちょっと面白そ歌いだが、却下した。
「森の中の走行は無理そうだけど、街道や平原はマウンテンバイクを走らせると気持ち良さそうだよなー」
コテツはリュックに入ってもらい、シェラは鳥の姿に変化してもらえば、マウンテンバイクでの移動はかなりの時短になりそうだと思う。
人目が気になるが、この世界にはゴーレム馬車がある。ダンジョンでドロップした新種のゴーレムだと言い張れば、どうにかなるのでは?
「電動アシストな自転車にも惹かれるけど、充電ができないからなー……」
舗装されていない道を進むなら、マウンテンバイクが適しているように思う。
その他はシェラが期待していた食品類をタップしていく。コンビニショップよりも安い、ドリンク類や菓子、カップ麺は買いだ。
「米も買っておこう。お、ブランド米が安い」
「トーマ、トーマ! このご当地カップ麺とやらを食ってみたいぞ」
「はいはい、落ち着け。たしかに美味そうだな。有名店とのコラボ麺もある。買うか」
せっかくなので、野外飯にちょうど良さそうなレトルト食品や缶詰類も大量に購入してみる。
一個ずつ全種類押さえてみた。
「試してみて気に入ったら、リピしよう」
レトルトパウチコーナーのスープやカレーはかなりの品揃えだ。どれも旨そうで、食べるのが今から楽しみになってくる。
「あとは、何を買おうかなー?」
ホームセンターは魔窟だ。
その気になれば、半日は楽しめる自信がある。
キャンプ用品やアウトドアグッズを眺めるだけでも楽しいが、DIYにハマった時期は三日に一度は通っていたものだった。
(そういえば、この世界に召喚された時に向かっていた山小屋にも手を入れていたんだよなー……)
コテージとは名ばかりの山小屋は、ソロキャンプにはもってこいの場所だった。
ほど良い田舎で、少し車を走らせれば道の駅がある。その先には温泉もあったので、小屋のシャワーに飽きたら、スーパー銭湯に赴くこともできる立地だ。
小屋周辺の草刈りと邪魔な枝の伐採を宿代代わりに頑張れば、あとは自分好みに手を加えても良いとの言質を取っていたので、好き勝手に弄って遊んでいたものだ。
(今なら、ポイントが大量にあるから、工具類や高価な設置機械も買い放題なのに!)
ホームセンターショップの商品一覧にある、卓上糸鋸盤やジョイントカッターなどを未練たっぷりに眺めた。
「レーザー加工機? 彫刻もできるのがすげぇよな……」
何なら、3Dプリンターまで販売していた。さすがホームセンター。
その他にも鎌やナタ、ツルハシやチェーンソーなどを見つけては転生したばかりの頃に欲しかったと、しみじみ思う。
「武器、なかったもんなぁ……」
百均ショップが利用できたのは、とてもありがたかったが、やはり武器として使うには頼りない品質の物ばかりだったのだ。
「無いよりはマシだったけど」
その点、ホームセンターの道具類は頑丈そう。
まぁ、今後はもう使うこともないだろうが。
工具類、DIYコーナーを流し見て、次に覗いたのはガーデニング商品の一覧だ。
「ガーデニングか。必要ないかな」
花は綺麗だと思うが、今は定住の予定はないので、植えるつもりはない。
「いや、野菜は育てていたか。百円ショップにはないタネや苗があるなら、コテツに買ってやろうかな」
軽い気持ちで野菜の苗、果樹の苗木をタップすると、工具類の比ではないほどの数の商品が表示されてしまった。
「うわ……。こんなにあるのか?」
トマトだけでも、十種類以上の苗があった。
それぞれ違う品種のブランドのようだ。大きさの違うトマトもある。色も様々で、興味深い。
「……高いものでもないし、買ってやろうかな」
トマトは美味しいし、栄養がある。
せっかくなので、色々な種類のトマトの苗を購入してみた。食べ比べをするのも楽しそうだと思う。
「お、ナスもブランドがあるんだな。買ってみよう。キュウリにレタス、ブロッコリーにキャベツ、ピーマン。カリフラワーもいいねぇ。スイカは色んな品種のを揃えよう」
根菜類、豆類の種や苗を手に入れて、にんまりと笑う。
日本ブランドの野菜をこの異世界で魔力をたっぷり与えながら育てたら、絶対に美味しい。
百均商品のタネから育てた野菜でさえ、震えるほど美味いのだ。
「そうだ。ついでに果樹も植えよう」
この世界の果実も美味しいのだが、森の中はベリー類が多く、他の種類が少ないのが難点。
「まずは、柑橘系かな。日本のみかんは美味いから絶対に外せない」
柑橘系だけでも、大量の苗木が扱っていた。とりあえず十種を厳選して購入。
オレンジ系も種類が多かった。ポンカンやデコポン、はっさく、甘夏。
なるべく、こっちの世界にはなさそうな品種をチョイスしてみた。グレープフルーツやレモン、ゆず、スダチなども忘れずに。
「あとは、りんごに柿、梨。ぶどうも食いたい。……そういや、ナツはイチゴとさくらんぼが好物だったな。何種類か買っておいてやろう」
コンビニショップで手に入るのは、缶詰のチェリーくらいなので、きっと喜んでくれるはず。
その他にも目についた果樹の苗木をせっせとカートに突っ込んでいくのを、レイが興味深そうに眺めている。
「トーマの国は植生が豊かなのだな」
「あー……そうかも? たぶん、品種改良のおかげだと思う」
日本は特に美味しい食べ物に目がない国民性があるので、農家の皆さんの努力のおかげで、多種多様な野菜や果実を味わえているのだ。
野菜の原種の画像を見たことがあるが、あれが食卓に並んでいたらと考えるとゾッとする。
食うところも少ないし、何より不味いのだと聞いた。野菜もエグみがすごいとか、アク抜きをしないと食えないとも。
(……異世界産の野菜や果物がそんなんでなくて良かった)
しみじみと思う。
そんな風に感謝しながら買い物を続けていると、カート内の品数が恐ろしいことになっていた。
「今日のところは、このくらいで良いか」
かなり買いすぎてしまったが、何でもないことのように言ってみた。うん、残高1億ポイント以上あるし、誤差だ、誤差。
レイも特に突っ込むことはなく、笑顔で頷いている。
「これほど買ってもらえたなら、
張り切って畑や果樹園を広げる姿が思い浮かぶ。うちの子かわいい。
「せっかくだから、昼飯はレトルトと缶詰を試してみるか」
「良いな。私はこのデリ缶とやらを食べてみたい」
嬉しそうにレイが指差すのは、高級缶詰セット。三個入りで5000ポイント近くのお値段がする。
「お目が高いね、お客さん。これ、二つ星レストランのシェフ監修でしっかり味付けされた高級なやつ」
「おお…! 期待が持てるな」
「これはオイル漬けのサーモンだな。マスタードとガーリック、オニオンで味付けされているみたいだ」
これだけで食べるてもいいが、せっかくなのでコンビニショップで購入したバゲットに載せて食べることにしよう。
「こっちは? こっちはどんな味なのだ?」
「急かすなって。んー? これは牡蠣のオイル煮だ! 高級昆布の出汁で下味を付けて、ガーリックオイルと鷹の爪で煮込んでいるみたいだな」
これもバゲットとの相性が良さそう。
最後の缶詰は何と、クジラ肉の大和煮だ。絶対美味しいやつ!
「……トーマよ」
「なんだ、レイ」
じっと見つめてくるドラゴンの言いたいことは分かる。このラインナップ。昼間から、と言われようとも飲みたくなるやつです。
ダメな大人の俺たちは、そっと視線を交わし合う。
「……ホームセンターで安売りされていた白ワインがある。それで、どうだ?」
「うむ、良かろう」
共犯者の笑みを交わして、俺はレイにチリ産の白ワインを渡した。常温放置の温い白ワインだったが、そこは最強の黄金竜。
絶妙の加減で冷やしてくれた。
「じゃあ、食いしん坊のふたりを呼んで、昼食にするか」
魔族討伐祝いは済ませたので、今回はホームセンターがショップに追加されたお祝いだ。
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更新遅くなりました…!
黄砂アレルギーっぽくて、目が痛いです💦
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