第158話 速やかな排除が必要です
コンテナハウスでしっかりと休めたので、気力体力共に回復している。
もちろん、魔力も完全復活。今なら、広範囲の上級魔法を余裕で三発はぶっ放せそう。
昨夜は少し食べ過ぎてしまったので、朝食は軽く済ませた。
コンビニショップで購入しておいたレトルトの中華粥だ。出汁がきいていて、しみじみ美味い。
肉食女子なシェラも、さすがに昨夜ははっちゃけ過ぎたのか。今朝はおとなしく中華粥を啜っていた。
腹一杯での戦闘は厳しいので、腹八分目が望ましい。たっぷりの睡眠と質の良い食事のおかげで魔力も回復しているので、このくらいの食事量がベストだろう。
アンハイムダンジョンの最下層は八十階。
あと三フロアを踏破すれば、ラスボスの間に到達できる。
「次は七十七階層か」
早朝。まだ朝靄に包まれたダンジョンに立ち、セーフティエリアに設置していたコンテナハウスを【アイテムボックス】に収納する。
黄金竜のレイは、本日も人型の冒険者スタイルでいるようだ。端正な眉を顰めて、何やら思案顔。
「どうした?」
「……うむ。少しのんびりし過ぎたやもしれん。下層が何やら騒がしそうだ」
「マジか」
「うむ、マジだ」
大真面目な表情で軽く顎を引くレイ。
シェラとコテツは空気を読んだようで、黙ってこちらを見詰めてくる。
「……かなり、やばそう?」
「そうだな。昨日までのペースだと、魔物どもの氾濫を抑えるのが難しくなりそうだ」
「…………」
最強の黄金竜ともなると、その【気配察知】スキルでダンジョン内を把握できるらしい。
七十階層以下の、常より増え過ぎた魔物や魔獣は俺たちが倒したが、それより上階層が不穏な様子とのこと。
「ラスボスに成り変わった、暫定魔族の仕業?」
まだ魔族だと確定したわけではないので、暫定魔族として、レイに聞いてみる。
「おそらくは。私たちの気配を感じて、警戒しているのだろう。先にアンハイムの街を荒らすつもりだと思う」
「あー……」
さすがにラスボスもどきにはバレてしまっていたか。結構派手に倒していったので、それも納得するしかない。
ならば、自分たちにできることはひとつだけだ。
「さっさと最下層まで行かないとな」
「ようやく本気を出すのか」
ふ、とレイが口角を上げて笑う。
人の悪そうな笑みを浮かべて、面白そうにこちらを覗き込んでくる。
「……トーマさん、本気じゃなかったんですか?」
ぱちり、と瞳を瞬かせるシェラ。
これは誤魔化せない。
知らぬ振りで欠伸をするコテツと、ニヤニヤと笑うレイを恨めしそうに見やる。
「此奴は最難関ダンジョンと言われる、大森林内の魔の山ダンジョンをクリアした男だぞ?」
「……そういえば、そんなことを聞いたような」
「中級ダンジョンなど、鼻歌まじりにソロで踏破できる男だ」
「鼻歌は歌わないけど、まぁ……」
とはいえ、今回のアンハイムダンジョンは
一匹ずつはそう強くもない魔獣でも、数百の数に囲まれると面倒だった。
(それに、今回はシェラもいるし)
一人だけレベルが低く、未だ弱い少女を守りつつ、先へ進むために無理強いはできなかったのだ。
それを見通したレイの指摘なのだろう。
「もしかして、私が足を引っ張っていましたか?」
「そういうわけではないけど……」
きゅ、と唇を引き結んだシェラが悄然と肩を落とす。
「なら、これから下層までは私は邪魔をしないように空に避難しておきます」
「シェラ」
「空の魔獣は私が駆除をしてやろう。今回はコテツも待機だ。トーマの邪魔をしてはいけない」
「ミュ……」
片手で子猫をすくい上げると、レイは己の肩の上に乗せてやる。
シェラの肩を宥めるように軽く叩くと、こくりと頷いた少女が白銀の鳥へと姿を変えた。
服の中から顔を出すと、
「七十七階層はグリフォンの群れが待ち構えているぞ? 速やかな排除が必要だ」
『ドロップアイテム拾いは任せてください!』
「ニャッ!」
静観する気満々のレイはともかく、フォローの言葉を掛けてくれるシェラとコテツは頼もしい。
「レイ、ふたりを頼んだぞ」
「任せろ」
転移扉に触れて、七十七階層に降りていく。
グリフォンが待つのは、緑深い森に半ば埋没した廃墟があるフィールド。
遺跡を模した地は見応えがありそうだったが、速やかにグリフォンの群れを討伐しなければ、あっという間にアンハイムの街は魔獣の群れに占拠されてしまうだろう。
「せっかくポイントを貯めて
結界の魔道具付きの自慢の家だが、大量に押し寄せてくる魔獣や魔物から守りきれるかは不明なのだ。
(セーフティエリアだって突破されそうだったしな)
こんなところで魔力を温存しても仕方ない。
シェラとコテツはドラゴン化したレイの背で守られている。存分に攻撃魔法を使うことにした。
◆◇◆
次から次へと襲ってくるグリフォンを容赦なく切り裂いていく。
使う魔法は、風魔法。中級の攻撃魔法でも魔力を込めれば殺傷力は高い。この程度の魔法なら使う魔力も少ないので、数を撃てる。
エアカッターをブーメランのように四方に飛ばして、グリフォンの首や胴体を落としていく。
豊かな森はハイエルフにとっては己の庭に等しい。廃墟や木々はパルクールを嗜んでいた身にとっては、楽しい遊び場。
風を操り、身を撥ねさせて、宙を舞うグリフォンに飛び乗ってやる。
騎乗獣扱いに怒り狂うグリフォンを力付くで従えさせて、チビドラゴンと白銀のカラスを狙う不埒者を風の刃で細切れにしていった。
「ん、これで全部か?」
騎乗していたグリフォンの首を折り、華麗に地面に降り立った。
周囲を見渡して【気配察知】スキルを使ってみるが、敵対する魔獣の気配はこのフィールドにはもういない。
『見事だ。ドロップアイテムは任せろ』
ちびドラゴンと、
検品は後でいい。大量の魔石はざっと四百個はあったように思う。魔道具らしきドロップアイテムも見つけたので、期待はできそうだ。
軽く水分補給を済ませると、すぐに七十八階層へ転移する。
それまでの自然に囲まれたフィールドと違い、七十八階層はがらりと様相を変えた。
青白い月明かりにのみ照らし出された闇のフィールド。丘の上にぽつりと建つ教会とそれを囲う墓地が目に付く。
「アンデッドか。面倒だな」
墓地から這い出してくる屍人と、教会周辺を守るように立つのはスケルトンの護衛兵士か。
空を舞う黒い影は
『任せてください!』
シェラの念話が響く。
闇夜の空を鋭く切り裂く光に、レイスが消滅した。
白銀のカラスが嘴に咥えているのは、ハイオークキングからドロップした浄化の杖だ。
『私にも
さすが、幻獣のひよこ。魔道具越しにはなるが、聖魔法を使いこなすとは。
文字通りに浄化されたアンデッドは魔石や宝石をドロップする。
初めて目にしたので、鑑定してみると、下級のアンデッド避けになる魔道具のようだ。
(良い値で売れそう)
悪霊避けのアクセサリーは上流階級の連中が大喜びで買い取ってくれるだろう。
ともあれ、今は面倒な屍人とスケルトン軍団をどうにかしなくては。
【アイテムボックス】の中に放置していた、魔の山ダンジョンでの戦利品の中に、使えそうな魔法武器があったことを思い出す。
「あった。これだな。聖なる短槍」
神に祝福された聖なる武器らしく、これを使えばアンデッドは滅することが可能。
スケルトンは粉々に砕けば倒せるが、屍人は光魔法か火魔法で灰になるまで焼く必要がある。
強くない雑魚ばかりだが、倒すのがとにかく面倒なのだ。
「でも、この短槍なら……!」
肌をかすっただけで、呪われた屍人やスケルトン、レイスは消滅していく。
「……結構面白いな、コレ」
通用しなければ、ひたすら火魔法と光魔法を放ち続ける必要があったが、実体のないはずのレイスさえ、余裕で倒せる。
さくさく倒していき、フロアボスを求めて教会のドアを蹴破った。
祭壇らしき大きな台の前に立っているのは──
「
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