第156話 ワイバーン肉の竜田焼き
無骨な外観のコンテナハウスだが、俺もレイも気に入っている。
コンテナハウスは秘密基地感があるので、嫌いな男子はあまりいないと思う。
中は過ごしやすいよう家具類を揃えてあるので快適だ。
見たことのない材質の家に驚いていたシェラも、今ではすっかり室内で寛いでいる。
コンテナを横に二軒、上にも二軒と合計四ルームになった拠点はかなり広々としていた。
ショップスキルで連結しているため、部屋を遮るドアはない。
なので、一階はキッチンとリビングダイニングの部屋に樽風呂付きのトイレルームを設置して、もう一部屋をシェラの自室とした。
二階を男子部屋にして棲み分けてみたのだ。
女子部屋なので、リビングから見えないように、シェルフなどで目隠しレイアウトを工夫する。
ベッドは従妹のナツが拘っていた、天蓋カーテン付きの物を急遽購入して設置した。
プライベート空間もこれで確保できるはずだ。
完成した自室を目にした途端、シェラの機嫌は復活した。
部屋代に、と四等分した本日の分け前を全て差し出そうとするのには困ってしまったが。
「こんなには要らないぞ。一応仲間なんだし、そんなに気にしなくても……」
「ダメですよ、トーマさん! こういうことは仲間だからこそ、ちゃんとするべきです! それに、きちんと支払っておいた方が気兼ねなくケーキを注文できるので!」
曇りのない瞳で訴えられて、あっハイと受け取ってしまった。どれだけ頼むつもりなんだろうか。
とはいえ、やはり貰いすぎになるとは思うので、それぞれの実費だけを使わせてもらうつもりだ。
こちらの世界の通貨ではなく、ドロップアイテム支払いなのはありがたい。
そのままポイントに変換しておいた。
「さて、飯にするか」
楽な部屋着に着替えてキッチンに向かう。
レイとシェラの二人も既に着替えを終えており、ダイニングテーブルで出迎えてくれた。
期待に満ちた眼差しから、何が言いたいのかはすぐに分かった。
「トーマ。忘れてはいないだろうな?」
無駄に美麗な顔面で凄んでこないでほしい。笑顔がこわいので。
「忘れてないよ。シェラがケーキ食べ放題で、レイはコンビニ弁当の制覇だろ?」
「うむ。コンビニ弁当の全種類制覇だ。楽しみにしておるぞ」
「うふふ。お腹いっぱいケーキを食べちゃいます!」
二人からは既に食事代としてドロップアイテムを預かっている。
「はいはい。今から注文するから、ちょっと待ってろ」
コンビニショップは大手三社のコンビニの全ての商品を扱っているので、思ったよりもケーキの種類が多い。
(五種類くらいかと思ったけど、意外とあるんだな。…ん、これ美味そう。俺のも買おう)
定番のいちごショートにモンブラン。
チーズケーキだけでもベイクドチーズケーキにレアチーズケーキ、スフレチーズケーキ、バスクチーズケーキと四種類はある。
「チョコケーキも生チョコにザッハトルテ、ブラウニーにオペラと五種類もあるんだな……」
ロールケーキも定番のものから、フルーツやカスタードクリーム入り、チョコがけ等多彩なメニューが展開されていた。
あまりに多すぎて、何だか面倒になり、もう目に付くスイーツ類をひたすらカートに突っ込んでいくことにする。
エクレアやシュークリーム、アップルパイにパフェ、プリンもケーキっぽいなと思えばポチっておく。
(まぁ、口に合わなかったら、俺のデザートにすればいいか)
シェラの目付きがヤバそうなので、レイの注文は後回しにして、ケーキ類を先に購入することにした。
「購入、っと」
買い物品は【アイテムボックス】に収納されているので、取り出してシェラの前に並べていく。
あっという間に四人用テーブルがいっぱいになってしまった。
「わぁぁぁ……! 素晴らしいです。これが全部ケーキだなんて!」
「一気には食えないだろうから、冷蔵庫で冷やしておくぞ」
魔道冷蔵庫にしまっておく。大半を片付けたのだが、それでもまだシェラの前には十個以上のケーキがある。
「……ちなみに、本当に夕食はそれでいいのか? ケーキだけ……」
「はい! 楽しみですっ!」
聞いているだけで胸焼けしそうだ。
とりあえず、飲み物はミルクティーを用意してやる。
「次は私だな。弁当だ」
「はいはい。……ちなみにレイの言う弁当って、麺料理は入るのか?」
「! ラーメンか! もちろん入るぞ。食べてみたい」
「じゃあ、パスタや焼きそば、冷麺や蕎麦にうどんも弁当か。レトルトやカップ麺は外して、そのまま食えるタイプを弁当と定義するぞ?」
「それで頼む」
なら、おにぎり弁当や稲荷寿司のパックも弁当になりそうだな。
「お、有名焼肉店のコラボ弁当美味そう。俺の分もポチっておこうっと」
牛タン弁当は美味いのだ。焼肉弁当は冷えると不味いのだが、牛タンは不思議と冷えていても柔らかくて美味しかったりする。
まぁ、今の俺には【生活魔法】があるので、【
「グラタンにドリア弁当まであるのかよ……。丼系も結構多いな。中華弁当にカレー。あれ? お好み焼きとたこ焼きも弁当か……?」
「うむ。弁当だな。買ってくれ」
「本当に食えるんだろうな?」
「もちろん。責任を持って完食しよう」
「あ、もしレイさまが食べきれなかったら、私のケーキと物々交換にしましょう!」
「おお、素晴らしい提案だな」
勝手に話がまとまったところで、カートの中身を清算する。
これはさすがに量が多すぎるので、少しずつテーブルに置き、収納してもらうことにした。
ウキウキとすぐに食べたい弁当を並べて悦に入る男の正体が最強のドラゴンだとは誰も信じてくれなさそうだ。
「にゃあ」
ごつん、と膝に何かがぶつかる感触。焦れたコテツだ。ごめんごめん、と撫でてやる。
「お高い猫缶と猫オヤツだよな? 分かっているって。夕食はどうする?」
「ニャッ!」
「そうか。ちゃんと食うんだな。えらいぞー」
ケーキやコンビニ弁当で済ませるダメな大人と違って、いい子だ。
出してやった猫缶とオヤツを、コテツは自身の【アイテムボックス】にしっかりと仕舞っている。
「俺はちょっと良いワインを飲もう。ワインに合う肉……よし、今夜はワイバーン肉を食おう」
ステーキは食べたばかりだし、今からカツにするのは面倒。ならば、竜田焼きにしよう。揚げじゃなくて、焼きの方。
笑顔でケーキを頬張るシェラと、黙々と弁当を平らげていくレイを横目にキッチンに立つ。
取り出したるはワイバーンの塊肉。二センチほどの厚さに切って、肉叩きで軽く叩いておく。
市販の焼き肉のタレに肉をしっかりと漬け込んで、下味を付ける。
後は汁気を切って、片栗粉をまぶして油を引いたフライパンで焼くだけ。
簡単なのに美味しくて白飯がすすむ男飯だ。
「んっま! ワイバーン肉、上質な牛肉に近い味だと思ったけど、竜田焼きにすると、懐かしい味になるなー」
クジラの竜田揚げを思い出す。
あれ、結構好きだったんだよな。居酒屋で食ってから、ハマった味だ。親世代では給食のメニューにあったらしくて、羨ましい。
揚げ物にすると後片付けが面倒だが、フライパンと少量の油で揚げ焼きすると簡単に作れるのがありがたい。
サクサクとした食感と肉に染み込んだタレの味がしみじみと美味い。
とっておきの赤ワインと良く合う。
コテツと一緒にちびちび食いながら飲んでいると、何やら視線を感じる。
「ん? なに?」
「……そのぉ、トーマさん。物は相談なんですが、レアチーズケーキとワイバーン肉料理を物々交換しませんか?」
「私はこのとっておきのハンバーグカレードリアを譲ろう」
ワイバーン肉の誘惑には勝てなかったようだ。
こんなこともあろうかと、念の為多めに調理しておいたので、快く物々交換に応じた。
「うむ! コンビニ弁当も美味いが、やはりトーマが作る肉料理は絶品だ」
「はいっ! とっても美味しいです! ケーキも美味しいけど、お肉は別腹ですから」
肉食女子のシェラの発言はさすがの一言だ。
そこはケーキが別腹じゃないんだ……。
ともあれ、束の間の慰労会を三人と一匹はめいっぱい楽しんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。