第145話 ドラゴンは便利な乗り物です
二匹と一羽のかわいいトリオが倒したレイクサーペントは見事に肉をドロップした。
が、大きさは10キロサイズ。前回狩った特殊個体の三分の一ほどの大きさのブロック肉だった。
「魔石も小さめだな。まぁ、貴重な水属性の魔石だし、良い値段で買い取ってもらえそうだけど」
ガッカリしている二匹と一羽をスルーして、他のドロップアイテムも確認する。
魔石と肉の他にも、ショートソードがドロップしていた。鑑定すると、これも魔道武器。
水属性のマジックアイテムだ。
「どうする、これ? シェラが使うか?」
「ピッ⁉︎ ピチチチチ!」
「うん。さっぱり分からん」
【全言語理解】スキルはあるが、あいにく小鳥語は分からない。
ショートソードを手に困惑していると、代わりに小型ドラゴンが通訳してくれた。
『必要ないそうだ。肉以外は売り払って、食費に充てたいらしい。良い考えだな』
「いいのか? 結構良さそうな短剣だけど」
『水属性だと、相性が悪いのだろう』
「ああ、そうか。シェラは風属性の幻獣だったな」
ならば、悪い提案でもないか。
ドラゴンやケットシーはショートソードを使わないし、ここは稼ぎに回した方が正解だろう。
(実際、食費も掛かりそうだからな……)
確保した肉はあるが、それ以外の出費も多いのだ。
なにせ、レイの元の姿は巨大なドラゴン。食べる量が半端ない。
一見、華奢で可憐なシェラも外見からは想像もできないくらいの健啖家だ。
子猫サイズの
レイはともかく、他のふたりはその身体のどこに消えているのか、と不思議に思うほどの量をぺろりと平らげるのだ。
メインは肉料理だが、主食もかなり食う。
パンに米、麺料理とどれも美味いとおかわりを繰り返すのだ。
食パンの柔らかさに感動し、惣菜パンに度肝を抜かれ、菓子パンに至っては神に感謝の祈りを捧げ始めるほど気に入っている。
「カップ麺も全種類を制覇するって宣言するレイに張り合っているし……」
百円ショップとコンビニショップ。両方を合わせたら、カップ麺も相当な数になる。
ラーメンに焼きそば、うどんにそば、パスタと種類もかなり多いのだ。
それを各三個ずつ消費することになる。
「有名店とのコラボカップ麺とか、結構良い値段だったよな……」
際限がなくなりそうで、とても怖い。
カップ麺なんて、たまに食べるから美味しいものなのだと考えている俺には理解ができそうにない。ほんと、こわい。
もちろん、菓子も大好きな彼らのこと。
主食を完食した後で、スナック菓子にチョコレート、キャンディ、グミ、ラムネにポッキーと次々と平らげていった。
シェラなど、笑顔で追撃してきた。デザートのスイーツが食べたいです、と。
(あれだけ食って、さらにデザート⁉︎)
だが、突っ込んではいけない。
どうせ「デザートは別腹」理論が返ってくるだけだということを、俺は知っている。
伊達に従妹の面倒を見ていない。
(一を言えば、十くらいで返ってくるもんな……)
面倒になってしまい、シェラやコテツが求めるまま粛々と
あとでポイント残高を確認して、肩を落としてしまったのは言うまでもない。
今回のドロップアイテムで食事代を払おうとしてくれているだけでも喜ぼう。
「どうせなら、こっちの通貨じゃなくてポイントで貰えたら嬉しいんだが……」
嘆息しつつ、ふと気付いた。
レイやシェラが討伐した魔獣のアイテムはポイント化することはできないが、主従契約を結んでいるコテツが得たアイテムならポイントに換えることができる。
「今回、三人同時に攻撃したから、もしかして……?」
皆に断ってから、レイクサーペントの魔石を【アイテムボックス】に収納する。
ステータス画面で確認してみると──
「ポイント化、できたぞ! コテツが攻撃に加われば、ドロップアイテムをポイントに換えることができる……」
『それは良いことを聞いたな。では、私たちの食費はアイテム払いで頼む』
望むところだ。目減りしたポイントも、しばらくダンジョンで稼げば取り戻せる。
なにせ、こちらには最強のドラゴンがいるのだから!
(……今はチビドラゴンだけど)
小さくとも、黄金竜は強いのだ。
何なら、移動の際に乗せてもらえば時短でダンジョン攻略も可能。
「レイ、期待しているぞ!」
肩に止まるチビドラゴンに笑顔で話しかけると、自信満々に頷かれた。
『任せておけ。美味い食事を頼むぞ、トーマ』
◆◇◆
そんなわけで、湖畔フィールドをあっという間に制圧した後は、稼げる階層を目指してダンジョンを突っ切った。
洞窟フィールドはひたすら早足で駆け抜けたが、森林や平原フィールドは元の大きさに戻ったレイの背に乗せてもらって移動した。
ドラゴンの姿を他の冒険者に見られるわけにはいかなかったので、【隠蔽】と【隠密】スキルで姿を消してもらっての空中散歩だ。
シマエナガ姿で攻撃する楽しさに目覚めたシェラは、ドラゴン飛行の最中は俺の胸ポケットに収まっている。ちんまりして、とてもかわいい。
ちなみにコテツはいつもの定位置。俺の肩の上で器用に香箱を組んで座っている。こちらも文句なしにかわいい。
『む。この階層は、たしか大物がいたぞ』
以前にアンハイムダンジョンを踏破したことのあるレイが教えてくれる。
彼の言う『大物』とは、『売ると高そう』な魔獣や魔物のことだ。
マジックアイテムを落とすことの多い、特殊個体やフロアボスの居場所も教えてくれるので、とても助かっている。
同じ【気配察知】スキルでも、黄金竜のそれは段違いの性能なのだ。
稼げそうな魔獣がいる場所に、レイは優雅に降下する。これほどの巨体なのに、音もなく地面に降り立つことができるのが不思議で仕方ない。
「ハイオークの集落か」
『数が増えすぎて、キングが生まれているようだぞ。このまま放置しておくと、氾濫が起きるやもしれん』
「分かった。一頭残らず殲滅するぞ」
「ニャッ」
「ピッ」
ハイオークキングは巧妙にダンジョンの奥に潜んでいたようだ。
冒険者たちには数十頭のグループをけしかけて、集落からは目を逸らさせていたのだろう。
ゴブリンやオークキングに比べて、知能が高そうだ。もしかして、スキルや魔法を使うのかもしれない。
「んー…【気配察知】スキルにヒットするだけでも、三百はいるな」
『三百二十六頭だ。集落にはそのくらいだな。残りは離れた場所に散っておる』
「キングに命じられた集団かな。近くに冒険者は?」
『いない』
「それは良かった」
端から削っていく戦法も考えたが、あまり時間を掛けすぎると、他の冒険者が加勢をしようとやって来る可能性もある。
ここは、広域魔法で一斉に倒した方が良いだろう。
「あー…。ちなみにだけど、レイは手加減ってできる? 中級クラスの広域魔法で集落ごと消し飛ばしたいんだけど」
『手加減。……言葉は知っているぞ?』
こくん、と頷くチビドラゴンの姿は悔しいが可愛らしい。だが、続く言葉は不穏当。
『どういう風にすれば可能かは、知らぬが』
「知らないかー。やっぱりなー……」
多分、レイが広域魔法を使えば、このフロアだけでなく、ダンジョン自体が吹っ飛ぶのではないか。
その威力がものすごーく気になるが、好奇心で命を危険に晒したくはなかったので、今回はレイには加わらないでもらうことにした。
「俺とシェラとコテツだけで、ハイオークキングを集落ごと潰すぞ」
昨日気付いたのだが、シェラは人の姿でいる時よりも、シマエナガ姿に変化している時の方が、強い魔法を操れる。魔力量も十倍近く跳ね上がっていた。
これが幻獣効果なのかは不明だが、レベルアップのためにも、集落の殲滅には協力してもらいたい。
火魔法だと、後片付けが大変だ。
ダンジョン内とはいえ、火事は怖い。
シェラの風魔法で竜巻を起こして、コテツには精霊魔法のひとつ、氷雪魔法を頼むことにした。
『トーマはどうするのだ?』
高みの見物とばかりに、空を舞う黄金竜に向けて、ニヤリと笑ってみせた。
「俺は、とっておきの魔法を使う」
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