第146話 指ぱっちん


 ハイオークの集落には中央にひときわ大きな木造の建物があり、そこにキングが棲んでいる。

 キングの棲む家の側には側近であるジェネラルクラスの家があり、王を守るように同心円状に小屋が広がっていた。

 一番外側の家は、もはや小屋とも言いがたい。

 竪穴式住居の方がよほど立派なレベルの建物だった。穴を掘り、木の柱を何本か組み合わせ、草を敷いただけの場所に五、六頭の集団で暮らしているようだ。


 五十ほどの小屋に囲まれた、中央の木造の家──つまりは、ハイオークキングを真っ先に潰すのが最適だろう。


 シェラの風魔法で起こす竜巻を、コテツの精霊魔法と組み合わせて強化。

 猫の妖精ケットシーの氷雪魔法は一見地味に思われがちだが、竜巻と組み合わせたブリザードともなれば、かなり厄介だ。

 体毛が薄いオーク種は寒さに弱いため、動きも制限される。


「オークやゴブリンの集落は、本体を倒した後で徹底的に破壊する必要がある」

『リポップした魔物がまた元の集落に集まり、増えていくからだな』

「そう。ギルドからも推奨されているから、ついでに建物も全て粉砕しておこう」


 一度に片付けることができれば、一石二鳥だ。

 説明を聞いていたチビドラゴン姿のレイがふと首を傾げる。


『だが、それだけでは弱いのではないか?』

「ん、だから、そこに俺のとっておきの魔法をプラスする」


 まぁ、そこまでもったいぶる魔法でもないのだが。


「いくぞ、ふたりとも。あの、真ん中のデカい建物を狙って魔法をぶつけるぞ」


 指差した先を確認して、シマエナガが「チピッ!」と鳴いた。

 コテツの尻尾がはたり、と左右に揺れる。獲物認定しているな。ふりふりと動く尻が可愛らしい。

 勢いが余って飛びかからないように、さりげなくコテツを小脇に抱える。

 シェラは俺の頭の上に座って、合図を待っているようだ。


 ちなみに、俺がいるのはハイオークの集落を見下ろせる大木の上。

 サルのようだとレイに感心された身のこなしで、するすると木を登ったのだ。そこはサルではなく、さすがハイエルフでお願いしたいところ。


 すっかり油断しきっているハイオークの集落。

 見張りらしき雑魚オークも木の槍を手に、大欠伸をしている。

 【気配察知】スキルで確認するまでもなく、キングが建物にこもっている気配は伝わってきた。

 おそらくは【威圧】系のスキルがあるのだろう。プレッシャーを掛けながら、集落を纏めているのかもしれない。


「じゃあ、攻撃に入るぞ? 3、2、1……」


 カウントダウンは短めに。

 ゼロ、の呟きと同時に耳をつんざくような音と衝撃に襲われる。

 たっぷりと魔力を込めた中級魔法は、もはや上級の広域魔法と変わらなかった。

 目論見通り、ハリケーンはブリザードを伴って集落内を大暴れしている。

 小屋は全て吹き飛んだ。木造の立派な建物も半壊していた。

 ハイオークキングが怒り狂っているのか。

 聞き苦しい雄叫びが轟音に混じって響いてきた。


「やっぱり、生き残ったか。じゃあ、トドメだ」


 気恥ずかしいが、豪語したからには実践しなくては。

 右手を前に差し出して、狙いをつけて指をパチンと鳴らす。チリ…ッと指先に一瞬痛みが走る。静電気。


(よし、成功)


 それを呼び水に、空が暗く翳った。

 破壊され、ボロボロになった集落に大きな落雷が襲いくる。直撃雷だ。


 ハイエルフの濃厚な魔力をたっぷりと込めた雷属性の魔法を放ったのだ。

 ハイオークどころか、ガラクタも全てが消し飛んでいた。


『雷属性魔法を使いこなすとは……』


 レイが珍しく、狼狽えている。


「そんなに驚くようなことか? まぁ、他の属性魔法と違って、覚えるのは大変だったけど……」


『雷は神の鉄槌として知られている。この属性を使えるのは、神の眷属や勇者、聖女などの聖属性の持ち主だけのはずなのだが……』


「は? いや、俺は巻き込まれた一般人だし。光魔法は使えるけど、聖属性の魔法とは無縁だぞ?」


 雷の魔法は、使ってみたくて頑張って覚えたのだ。

 なぜか、創造神からもらった書物でも調べられなかったので、自力で習得した。


「ダンジョンでドロップした魔道具に雷の矢を放てる弓があっただろ? あれを使って雷魔法を解析したり……」


 結局、一番分かりやすい方法──指ぱっちんで静電気を起こして、雷を呼び起こすことにしたのだ。

 雷の発生する原理として考えられている氷の粒がぶつかり、分裂して摩擦帯電が起きる仕組みを利用するため、シェラの竜巻とコテツのブリザードを同時に発動してもらった。


(どうにかなって良かったよなー)


 自分でも、まさかあれほどの大きな落雷になるとは思いもしなかったが、結果オーライである。

 

(まぁ、失敗したとしても、シェラとコテツのおかげで半数は壊滅していたし)


 それこそ魔法武器を駆使して、残りを殲滅するだけだったので、気にしないことにした。


「時短、大事だよな」


 うんうん、と満足そうに頷いていると、ぽつりとレイが呟いた。


『だが、ドロップしたアイテムを拾うのは大変そうだぞ?』


「あ……」


 そういえば、そうだった。

 おそるおそる元集落があった場所を見下ろすと、魔石や肉、武器などのドロップアイテムが散らばっているのが見える。


「あああ……」


『時短とやら、できそうか?』



◆◇◆



 残念ながら、ドロップアイテム拾いは時短ができなかった。

 ハイオークの集落をぶっ潰した時間のおよそ十倍以上の手間暇を掛けて、ようやく三百頭分のドロップアイテムを拾い集める。

 魔石は人数分あるため、ちまちま拾うのが本当に大変だった。

 が、ハイオークの土属性魔石は含有魔力が多いため、買取額は期待できる。

 チリつも精神で、せっせと拾い集めた。


「お肉がいっぱいです!」

「にゃー!」


 小鳥姿ではアイテムを拾い集められないので、元の姿に戻ったシェラはご機嫌でハイオーク肉を掲げている。

 うん、肉だな。オークより上質なハイオーク肉。しかも、上位種が何頭もいた。今夜の夕食は豚肉料理で決まりだ。

 下っ端ハイオーク肉は半分ほど売り払っても良いだろう。

 

「ドロップした武器は大したことがないな……。鉄製の頑丈な剣と槍くらいか。これも売ろう」

「キングのドロップアイテムがあるだろう。あれほどの集落の主なら、宝箱があるやもしれんぞ?」

「宝箱……!」


 こちらも人型に戻ってアイテム拾いを手伝ってくれていたレイの言葉に、一瞬喜び勇んだが。


「……この燃えカスの中に、宝箱が残ってると思う?」

「む……。宝箱は頑丈だと聞くし、もしかして、焼け残っている可能性も……?」

「期待しないで探すことにする」

「……うむ。手伝おう」


 ドロップアイテムは魔石と肉、鉄製の武器類の他にも、金貨銀貨に宝石がドロップしていた。

 魔道具もいくつか発見してある。


「結界の魔道具に、収納の魔道具か。こっちはパワーの指輪? 鑑定によると、腕力が上がるのか」


 これは非力なシェラにピッタリだ。

 収納の魔道具も指輪型で、容量は荷馬車ほど。悪くはない。


「おお。宝箱があったぞ!」


 魔道具を鑑定していると、嬉しい報告が。

 レイが指差す方向に向かうと、半分土に埋まった状態の宝箱があった。

 

「表面は黒コゲだな……」

「うむ。凄まじい落雷であったからな」


 ブリザードのおかげで巨大化した気がする。今後はもう少し気を付けよう。

 それはそれとして、宝箱だ。


「何が入っているんでしょうね!」

「ニャニャッ!」

「ワクワクするな」


 皆で期待に胸を膨らませながら、ボロボロの宝箱をそっと開けてみた。

 中から現れたのは、ハイオークキングの王冠と錫杖。そして、優美な装飾が施された魔法の杖だった。



◆◆◆


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