第141話 キングトード


 巨大な湖をゴムボートで渡りきり、五十四階層の難関をスムーズに突破した。

 ボートを使うという、反則気味なクリア方法だが、ラスボス以上に強いレイクサーペントを倒したのだから、狡い呼ばわりは許して欲しいところ。

 文句があるなら、長年湖の底に棲み着いていたレイクサーペントを倒してくると良い。


 ちなみにフロアボスは、キングトードだった。

 黄金の冠を被ったヒキガエルトードが転移扉前に居座っていたが、これは手に入れた魔法剣の切れ味を試してみるため、俺が戦ってみた。

 瞬殺だった。


 ジャイアントトードの三倍はある大きなヒキガエルのモンスターに向けて、魔法武器である魔剣を振るってみたのだ。


(確か、魔力を込めると、水の斬撃が飛ばせるって鑑定結果だったな)


 トード系は物理耐性があり、キングともなれば魔法耐性もある。しかも湿地帯に棲むモンスターなため、水魔法の特化耐性持ち。

 ──だったはずなのだが、水魔法を纏わせた魔法剣はヒキガエルのモンスターをあっさり斬り倒せた。

 しかも、豆腐を切るように、ストンと切ることができた。水の斬撃を飛ばすまでもなく。


「キング弱すぎないか⁉︎」

「いや、その魔法剣の性能が良かったのと、込めた魔力の質と量が半端なかったからだと思うぞ?」


 黄金竜レイには呆れた表情で指摘されてしまった。


「そんなに魔力を込めた覚えはなかったんだけどな……」

「お前は自分が高レベルのハイエルフだと、いい加減で自覚を持て」

「……そんなにか?」

「そんなに、だ。まぁ、私からすればそこまで気にならん程度だが、世間一般的には異常だと知っておけば良い」

「異常……」


 言い方よ。

 だが、さくっと両断されたキングトードはAランクモンスターだったようで。

 先にギルドの職員から情報を仕入れていたシェラにも呆れた眼差しを向けられてしまった。


「銀級の冒険者パーティが時間を掛けて弱らせて倒す、フロアボスなんですよ……?」

「そうなんだ……」


 特級クラスの魔の山ダンジョンを踏破した身には、Aランクのヒキガエルは物足りないレベルだった。

 それは、一緒にダンジョンをクリアした猫の妖精ケットシーのコテツも同様らしく、退屈そうに欠伸をしている。


(この様子だと、コテツはケットシー界でも最強レベルなんじゃないのか?)


 生後一年未満、まだまだ可愛らしい子猫姿だが、多分そんな彼でもキングトードは猫パンチ一発でノックアウトすると思う。


(まぁ、可愛くて強いとか最高だし、問題ないか!)


 ちなみに先程倒したキングトードのドロップアイテムは、エメラルドそっくりの大きな魔石と頭にちょこんとかぶさっていた黄金の冠。

 そして、サコッシュタイプのマジックバッグがドロップしていた。


「ヒキガエルもマジックバッグを落とすのか。ラッキーだったな」

「凄いです、トーマさん……! 自分で使うも良し、売り払うのも良しなマジックバッグをドロップするなんて!」

「俺は【アイテムボックス】スキル持ちだから、自分では使わないかなー。シェラ、欲しいか?」

「うっ……。私は、トーマさんからお借りしているコレがありますから!」

「大事にしてくれてるもんな、それ」


 ショルダータイプのマジックバッグをレンタル中なのだ。

 本当はそのまま譲りたいのだが、当人にかたくなに遠慮されているので、対外的に『貸して』いることにしている。


「なら、売るか。いくらになるかな」

「収納容量によってピンキリらしいぞ。鑑定結果はどうだ?」

「えーと……時間停止付与有り、収納容量は荷馬車三台分?」

「結構ありますね。しかも、時間停止のマジックバッグ。期待できそうです」


 シェラが我が事のように喜んでくれているが、これはギルドに売らずにポイントに交換する予定だ。

 今回のフロアボス討伐は俺一人で行ったため、ドロップアイテムの山分けの対象外だったりする。

 二人と一匹で協力して倒した、レア個体らしきレイクサーペントに関しては、山分けの対象だ。


「自分で持っておかないのか?」

「んー……。ドロップしたのが、キングトードだろ? 何となく、あのヒキガエルの皮で作られたバッグだと連想すると、生理的に微妙な気分になる……」

「……なるほど」


 色もそっくりな皮だったので、余計に使いたくなくなったのは内緒だ。

 

「とりあえず、肉をドロップしなくて良かった」


 いくら鑑定で『食用可、美味』とあっても、カエル肉はあまり食べたくない。

 まだ蛇の方がウナギっぽくて我慢できる。


「まぁ、他に美味い肉は山ほどあるからな。私もわざわざヒキガエルの毒肉を食いたくはない」

「毒持ちかよ……」


 ドロップしなくて良かったと、心底思った瞬間だった。



◆◇◆



 そんなわけで、本日は早めに撤収。

 レア個体とフロアボスを倒したので、結構な儲けになったようだ。

 美味しい肉はこちらで確保して、魔石やその他の素材は売り払った。

 俺はキングトードの王冠を買取りに出したのだが、何と金貨二十枚で売れてしまった。


(日本円にして二百万円……! あんな、オモチャみたいな王冠が?)


 後で聞いたところによると、装飾品の価値にプラスして、水魔法の耐性が付与されていたようで、その希少性が認められたようだ。

 特に魔法耐性も不要なため、心置きなく売り払っておいた。

 金貨二十枚の臨時収入は、地味に嬉しい。


 残りの自分の取り分は、肉以外は全て【召喚魔法ネット通販】のポイントに交換しておいた。


 ちなみに内訳は、


・レイクサーペントの魔石(水属性)50万PT

・キングトードの魔石(土属性)15万PT

・魔道武器(水魔法の剣)450万PT

・マジックバッグ(荷馬車三台分容量)300万PT


 合計815万PTポイントになった。


「一日の稼ぎにしては、結構良い方だな」

「そうか? 魔の山ダンジョンと比べると、得られるポイントとやらが少なすぎんか?」

「仕方ないよ。あっちは特級、こっちは中級ダンジョンなんだから」

「そうか……? トーマよ、宿代として、また私のウロコを剥がすか?」


 笑顔で問題発言をかますレイに、シェラがぎょっと目を剥いている。

 誤解されるからやめてください。


「黄金竜さまのウロコを、剥がした……?」

「不可抗力だ」


 ほんと、やめて。

 信じられない、って表情で妹分に睨まれてしまったではないか。


「宿代は、テキトーに美味い肉を獲ってきてくれたら良いから……」

「む。分かった。なら、明日から張り切って肉を狩ろうぞ」

「あんまり張り切らなくても良いからな……? 適度に手を抜いて、ゆるーくでお願い」


 ともあれ、本日のお仕事は終了。

 あとは、我が家で美味しいご飯を食べるだけ。

 頑張ってくれた黄金竜の慰労会だ。



◆◇◆



 主役であるレイには、のんびりと我が家自慢の風呂を堪能してもらうことにして。

 その間に、お楽しみのご馳走を作らなければ。

 助手はシェラ。癒しのマスコットとして、コテツが脇に控えてくれている。

 とはいえ、昨日のうちに仕込んでおいた料理があるので、それほどの種類を用意する必要はない。

 主食である、パンや麺に米料理はコンビニショップで既に仕入れてある。下手に手を加えるよりも、市販の弁当の方が美味いからな。

 肉料理だけは、頑張って調理した。

 なにせ、日本産のブランド肉よりも、異世界の魔獣肉、魔物肉の方が断然美味しいので。


「焼きオーク、ジャイアントボアの角煮、コカトリスの唐揚げにブラッドブルのローストビーフを用意してあるから、シェラ。盛り付けを頼む」

「任せてください!」

「にゃ?」

「うんうん。そうだな。コテツは野菜をちぎってサラダにしてくれるか?」

「ニャッ」


 やる気に満ちた小さい子の可愛らしさよ。

 真剣な表情でレタスをちぎる様が素晴らしくて、またしてもスマホの容量を圧迫する動画を撮影してしまった。

 あとで、アキに送ってやろう。


「さて、俺は本日の本命。プレシオサウルスもどき──レイクサーペントを調理するか」


 30キロは余裕である大きさの肉塊を【アイテムボックス】から引っ張り出す。

 まずは、どんな味の肉なのか。

 軽く茹でて、味を見ることにした。

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