第125話 二階建てコテージ


 召喚購入した品物はまずは【アイテムボックス】に保管される。

 リストを確認すると、しっかり『二階建てコテージ』が収納されていた。


「あとは設置するだけ、っと」


 猫の妖精ケット・シーであるコテツが精霊魔法を使って綺麗に整えてくれた場所に、二階建てのコテージを設置する。


「わぁ……! 大きなお家です!」

「タイニーハウスと比べたら、別荘だな」

「ふにゃあぁ……」


 二人と一匹で、しばし見入ってしまう。

 それほどに立派な建物だった。


「うん。木造のコテージだし、作りがかなりしっかりしていること以外は普通……だよな?」


 外観は有料キャンプ場で良く見かけるタイプの貸しコテージに近い。

 綺麗に組まれた丸太が整いすぎて、少し不自然かもしれないが、この世界で見掛けてもおかしくはないはずだ。


「少なくとも、コンテナハウスほど見た目が異質には思われないよな。うん」


 コテージに歩み寄り、じっくりと観察する。

 玄関前にはデッキ設備が付いているので、屋根の下でバーベキューが楽しめそうだ。

 四人掛けのテーブルセットを置いて、バーベキュー用のグリルや調理テーブルを並べても、まだ余裕のありそうな広さに嬉しくなる。


「家の中も見てみよう」

「はいっ!」


 シェラの真似をしたコテツも片手を上げて「にゃっ」と良いお返事。かわいい。

 玄関から入ってすぐにリビングの開放的な間取りだ。

 壁際には薪ストーブが置かれている。

 二階建てコテージの説明文には暖炉とあったが、薪ストーブだったようだ。


「家と一体型なのが暖炉で、建物とは切り離されて設置できるのが薪ストーブだっけ?」


 詳しい定義は分からないが、困ることはないので特に気にしないことにした。

 昔ながらの暖炉より、調理にも使える薪ストーブの方が断然ありがたい。

 日本で良く見かける、キャンプにも使えるような手軽な薪ストーブではなく、本格的でかなり大きかった。

 薪の投入口の下には引き出し式の灰受けボックスがあり、ここに冷めた食材を入れておくと保温が出来るようになっている。


「硬くなったパンや干し肉を柔らかくするのにちょうど良いな。低温調理ができるなら、ローストビーフや鶏ハムも作れそうだ」


 下拵えだけしておいて、後は放置で良いのが素晴らしい。

 ストーブの上部の鉄板では湯を沸かしたり、鍋料理も作れる。


「うん、いいね。今はまだ暖かい季節だからストーブは使わないけど、秋冬が楽しみだな」


 煮込み料理は長時間トロトロに煮込めば煮込むほど美味しくなるイメージがある。

 圧力鍋は手軽に短時間で煮込めるが、やはり時間を掛けて丁寧に煮込んだ方が不思議と美味しく感じるのだ。

 カレーはもちろん、シチューにポトフ、おでんもメニューからは外せない。

 

「あとは焼き芋だな。アルミホイルに包んでストーブで焼いただけのサツマイモが何であんなに美味いんだろ」


 特に最近のブランド芋の美味しさは格別だ。

 ほくほく系よりも、断然ねっとり系が好きなので、多少高くとも紅はるかや甘太くんを購入しよう。コンビニで売っていると良いのだが。


「天井がすごく高いんですね」 


 コテツを抱っこしたシェラが感心したように辺りを見渡している。


「ああ。暖炉のあるリビングだけ吹き抜けになっているみたいだな」


 コテージには最低限の設備だけで、家具などは置かれていない。

 がらん、としており少し寂しく思うが、好きにレイアウト出来ると思えば、ワクワクしてきた。


「他の部屋も探検したいです!」

「ん、行こう」


 シェラも同じ気持ちらしく、好奇心で顔を輝かせながら、きょろきょろと周囲を確認している。


「リビングを抜けた先には、トイレとバスルームか。一番奥にキッチンとダイニング、あとは倉庫があるんだな」


 ゆったりとした間取りだ。

 キッチンはかなり広く、ダイニングも十二畳くらいはありそうだ。

 食器棚や冷蔵庫などの家具はないが、キッチン台には大きめのシンク、水甕みずがめの魔道具や魔道コンロが設置されている。


「キッチン台の上の棚は作り付けなんだな。ありがたい」


 シンク下も収納スペースがあるので、鍋やフライパンの置き場には困らないで済む。

 調理台もそれなりの広さがあるので、ゆったりと料理を楽しめそうだった。


「うん、良いキッチンだ」


 キッチン横の倉庫は四畳半ほどのスペースだが、作り付けの棚が並び、こちらも便利そう。

 【アイテムボックス】があるので、あまり使わないかもしれないが、消費期限の長い食品や調味料などは、ここに並べておくのも良いかもしれない。

 寝かせれば、それだけ味がまろやかに深まる発酵食品やお酒などの置き場所にも最適だろう。


 キッチンを出て、トイレとバスルームを確認する。魔道トイレに手洗い用の水場も中に設置されており、感心した。

 あまり期待はしていなかったが、何とバスルームには魔道バスタブが置かれていた。

 水と火の魔石が組み込まれており、お湯が沸かせる最新タイプ。シャワーが無いのは残念だが、蛇口を捻るだけでお湯が出るのはありがたい。

 この魔道具があれば、シェラが一人で風呂を用意出来るようになるので。


(俺とコテツは生活魔法が使えるけど、シェラは使えないからなぁ……)


 地味に思われがちな【生活魔法】だが、実はかなり便利な代物なのだ。

 特に【浄化魔法クリーン】はもはや手放せない、便利魔法だったりする。

 風呂に入れない冒険者活動中でも身綺麗に出来るし、バスタブに張った水を【加熱ヒート】で適温にすることも可能。

 野営時には【着火ファイア】で火を熾せるし、コップ一杯分の水を作れるのは、地味に便利だ。

 冒険者でなくとも、【乾燥ドライ】が使えれば、伐採した木材をすぐに加工できるし、薪も簡単に作れる。

 なかなかに使える魔法なのだ。


(シェラが【生活魔法】を使えるようになるか、調べておこう)


 創造神ケサランパサランから貰った魔法の本で確認すれば、きっと方法も見つかるはずだ。


 ともあれ、今は新居の探検中。

 面倒ごとは後で考えることにして、二人と一匹は二階に続く階段を登った。


「寝室が五部屋に、あとはバスルームとトイレだな」


 トイレは一階と全く同じ。

 バスルームは二階の方がコンパクトだった。バスタブも小さく、洗い場も狭い。


「まぁ、一人で入るにはちょうど良いくらいか」


 シャワーだけの風呂場より、よほど良い。

 小さなバスタブな分、湯が溜まるのも早いので、手早く温まりたい時にはこちらの方が便利かもしれない。


「部屋に入ってみよう」


 手前の部屋のドアを開けてみる。

 一応、簡易な鍵付き。室内は六畳ほどの広さで、やはり家具は何も置かれていない。

 窓がひとつ。ベランダはない。

 のんびり過ごすのは広いリビングで楽しめば良いので、寝室として使うには充分だろう。

 自室が持てると、シェラは大喜びだ。


「どの部屋も同じでした。綺麗な部屋で、とっても素敵!」


 それぞれが一部屋ずつ使っても、三部屋は余る。合流できるかは不明だが、従弟たちの部屋にもちょうど良い数だ。


「ニャッ?」

「ああ、コテツは俺と一緒の部屋だ。リビングにも基地を作ってやろう」


 広いリビングは格好の遊び場になることだろう。

 キャットタワーを組み立てて、お気に入りのソファベッドにクッションも用意しよう。


「各部屋のドアに、ちゃんと猫用のペットドアが付いているとか。創造神ケサランパサランもたまには良い仕事をするな」


 おかげで、ドアを閉じていてもコテツは好きな場所に移動ができる。


「じゃあ、探検も済んだことだし、荷物を運び込むか」

「荷物……」

「ん、タイニーハウスとかコンテナハウスに設置している家具を移動するんだ」


 資金ポイントに余裕があれば、それぞれの家に家具を置くのだが、あいにく今はポイント貧乏だ。


「明日からのダンジョン探索でポイントを大量に稼がないとな」

「そうですね。家具の使い回しはともかく、美味しいご飯は大事ですから」

「そっちかよ」


 ともあれ、今しばらくは節約生活。

 大型家具類を移動させるため、いったん外に出て、庭にそれぞれの建物を出すことにした。




◆◆◆


ギフトいつもありがとうございます😊


お知らせです↓

『ダンジョン付き古民家シェアハウス』の書店予約が始まっております。よろしくお願い致します。


◆◆◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る