第124話 ダンジョンの街、アンハイム
大陸の南西、端っこの都市アンハイム。
大森林の側にあるため、元々は小さな集落に過ぎなかったのだが、ダンジョンが発生し、その資源を求めて人々が集まり、大きな都市へと成長したらしい。
都市人口は千人規模。その半分以上が冒険者とその関係者だ。
アンハイムダンジョンは中級と認定されており、見習いやルーキー冒険者はソロでの入場を禁止されている。
アンハイムの冒険者ギルドでダンジョンに挑戦するための条件を確認して、しみじみ思った。
「オリヴェートで真面目に依頼をこなしておいて、本当に良かったな」
「本当に良かったです。海での採取依頼を、薬草採取扱いにして貰えていたんですね」
見習いや新人に回される薬草採取の仕事はもちろん、ギルドのある街での貢献度によって判断されるらしい。
俺と出会うまではレベルが低く、食うにも困っていたシェラは薬草採取が得意だったため、かろうじて
(俺は街中依頼は受けていなかったからなー。金には困っていなかったし……)
街中依頼とは皆が嫌がる水路の掃除やゴミ拾い、草むしりに農家の手伝いなどを少額で受ける仕事だ。
成人とみなされる15歳以下の子供たちが街中依頼を受けると、その貢献度を勘案されて特例で冒険者になれると聞いた。
新人冒険者も手早くランクアップするためには、この街中での、ほぼボランティアな任務は必須らしい。
身分証を手に入れるために冒険者ギルドに加入したため、そこまで気にしていなかったのだが。
「オリヴェートで魚介類の採取と水の魔石の納品、氷作りにサハギン討伐をコツコツ頑張っていたのが、貢献度が高いと判断してもらえたんだな……」
オリーブとオレンジが有名な海辺の街で真面目に働いていたおかげで、いつの間にか、シェラは
「もうルーキーじゃないので、これで堂々とダンジョンに挑戦できますね!」
ふんす、と張り切るシェラ。
レベル50越えの幻獣な少女とレベル200越えのハイエルフ、おまけにレベル150越えの
むしろ中級ダンジョンでは物足りないだろうが、シェラは初ダンジョンなので、微笑ましく頷いておいた。
冒険者ギルド内の依頼掲示板も確認済みなため、今日はもう宿で休むことにする。
街に着くや否や、張り切ったシェラに冒険者ギルドまで引きずってこられたのだ。
「じゃあ、宿を探すぞ。飯が旨くて清潔で、できれば風呂がある宿がいいな」
「一軒、良いのを知っていますよ。タイニーハウスって言うんですけど」
「ニャッ」
にこりと笑うシェラと、うんうん頷くコテツ。ふたりで連携してくるとは。
「さすがに街中では目立つからダメだろ。わざわざ街の外に隠れて住むつもりか?」
「街の外からだと、ダンジョンに通うのが大変そうなので嫌です! オリヴェートの時みたいに、どこか良さそうな土地を借りることは出来ないんでしょうか」
「家じゃなくて、土地の賃貸か……」
悪くない考えかもしれない。
冒険者が多く集まるアンハイムの街では、宿は常に不足気味だとギルド内で愚痴をこぼしているのを小耳に挟んでいる。
長期契約で宿を借りることが出来れば良い方で、その日暮らしの低ランク冒険者たちは安い宿を見つけるのに相当苦労しているようだった。
「安宿は大部屋の床に直で寝転ぶんだろ? 絶対に無理。今から探すとなったら、高級宿しか残ってなさそうだけど……」
「多分、その高級宿もトーマさんが満足するレベルのお部屋やサービスは無理だと思います……」
「だよなぁ……」
お隣の国に召喚された従弟たち曰く、神殿や王宮でさえ微妙なレベルの
「仕方ないか。商業ギルドに相談して、土地を探そう。レイと合流するまで、あと十日は掛かりそうだし。それまで快適に過ごしたいもんな」
「やったー! てっちゃん、快適なお家暮らしができるよー」
「ふみゃあぁん」
シェラはコテツを抱き上げて、キャッキャと嬉しそうにくるくる回っている。
いつの間にか、コテツのことを「てっちゃん」呼びしていた。
コテツも妹分のシェラを可愛がっているようで、かなりの仲良しさんだ。ちょっとさみしい。
「……行くか」
一攫千金を狙った冒険者の中にはガラの悪い連中も多い。
少女と見間違えられることの多い自分と、小柄で華奢なシェラ、愛らしい子猫の一行はそういった輩に狙われやすいので、安全な拠点は早めに見つけておきたい。
「暗くなる前に、決めてしまおう」
幸い、金はそれなりにある。
行商と冒険者活動で貯めた金で足りなければ、従弟たちに売り付けた
(国が違っても、金貨は使えるんだよな。銀貨以下のコインは両替が必要だけど、金貨は地金の価値が高いから)
土地をそのまま購入するつもりはないし、家なしの土地の賃貸なら、さすがにそこまで高額ではないだろう。
ある程度のあたりをつけて、二人と一匹はアンハイムの商業ギルドへ向かった。
◆◇◆
1週間で金貨1枚。日本円にしたら、10万円ほど。
土地を借りるだけにしては、かなりの高額になったが、二人と一匹は大いに満足していた。
商業ギルドに紹介された土地は、ダンジョンまで徒歩十五分と、なかなかに良い立地だったのだ。
不動産担当の青年に案内された場所を一目見て、皆が気に入ったので、すぐに金貨を支払って借り受けた。
2メートルほどの高さの木の塀に囲まれた、その土地は元々とある貴族の別荘地だったらしい。
没落した貴族が手放し、手入れが出来なくなった屋敷は朽ち果て、取り壊されている。中はすっかり更地になっていた。
そんな場所だから借り手もなく、ギルドでも持て余していた物件らしい。
(その割に、1週間で金貨1枚の賃料って、ぼったくりじゃないのか?)
そうは思うが、宿に泊まっても二人と一匹だと、そのくらいは掛かりそうだし。
何より、敷地内がかなり広いのが気に入った。
「庭に木がたくさん生えているな。家が隠れて、ちょうど良いかも」
「隅に井戸もありますよ! お水も綺麗ですっ」
長い間放置されていたからか、敷地内の雑草が凄いことになっているが、それはコテツが「任せろ」と胸を張って請け負ってくれた。
「じゃあ、頼んだぞ?」
「ニャッ!」
さすが、猫の妖精と言うべきか。
精霊たちに愛された可愛いニャンコが一声上げれば、緑の精霊たちがすぐに駆け付けてくれるのだ。
あっという間に邪魔な雑草は消えて、木々も綺麗に整列している。
「60坪……200平米はありそうだな。ここに出すとしたら、タイニーハウスだと小さすぎて、場所がもったいない」
せっかくの広さがあるのだ。
どうせなら、ゆったりとした家を出したいと思ってしまう。
「コンテナハウスを出すか……? いや、さすがに誰かに見られたら説明しづらいな」
二階建てのコンテナハウスに黄金竜レイ用のコンテナを連結するので、敷地の広さ的にはちょうど良いかもしれないが、この世界にない材質での建物が、誰かにバレると厄介だ。
「塀があっても、覗かれたら意味がないしなー……」
冒険者なら、2メートルの高さの塀など、軽くジャンプすれば覗き放題だ。
結界や隠蔽の魔道具を使うにしても、高レベルの冒険者が相手だと見抜かれる恐れがある。
「なら、やっぱり……買うしかないか」
その販売商品リストには、心惹かれる商品があった。以前は買うのを諦めた商品だ。
「二階建てコテージ、三千万ポイント……」
召喚ポイントの残高はギリギリある。
これを
「広めの5LDK、一階と二階にそれぞれバストイレ有り。暖炉付き、キッチンには魔道具完備。もちろん各室内にはエアコンの魔道具付き。……めちゃくちゃ快適そうだな」
これはもう買うしかないだろう。
今までで一番高額な買い物に、さすがに指先が少し震えてしまうが──
「二階建てコテージ、購入!」
◆◆◆
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