第122話 マジックバッグは便利だよね?
海辺でのスローライフを満喫し、そろそろオリヴェートを後にして、次の街へ移動することにした。
通信の魔道具である手鏡で黄金竜のレイと連絡を取ったところ、神獣としての仕事もようやく終わりそうとのこと。
広大な大陸を飛び回り、魔素が滞って魔獣や魔物が大量に発生していないか、土地が汚染されていないかの見廻りに大忙しな黄金竜さまだ。
今はちょうど、
(そのスタンピードを起こそうと小細工を施していた魔族ごと、レイが「ぷちっ」としてくれるのか。めちゃくちゃ助かる……)
邪竜の手下だと知らぬ振りで、レイが潰してくれるらしい。
本来なら、どちらかに手を貸すことは出来ない中立の神獣であるレイが『スタンピードを起こさないためにダンジョン内の魔物を間引く仕事』をしている振りをして、魔族の力を大幅に削いでくれたのだ。
召喚勇者である従弟たちもレベルを上げて強くなってはいるが、遠い国のダンジョンまでは手が回らない。
そこをレイがこっそり手助けしてくれたのだ。
「合流したら、レイにはたっぷりお礼をしてやらないと」
地球産の調味料や料理をかなり気に入ってくれていたので、たくさんご馳走を用意しておこう。
ここ、オリヴェートの市場では魚介類をたくさん仕入れたことだし、シェラも絶賛してくれた海鮮丼や刺身に寿司を食わせてやりたい。
「オリヴェートの街自慢のオリーブオイルにオレンジも大量に買えたしな」
ほくほくと笑う俺の隣でシェラも嬉しそうだ。
「そうですね! オリーブとオレンジをたっぷり食べた魔獣肉もいっぱい買えたから楽しみです!」
「それな。特にオリーブを貪り食ったボア肉が絶品らしいし、楽しみすぎる」
ただでさえ美味しい魔獣肉なのだ。
ドングリを食わせて肥えさせた最高品質のイベリコ豚のような、芳醇な味がするのだろうか。
「今すぐ食べたいけど、我慢ですね」
「ああ。頑張ってくれたレイのご馳走用だからな。我慢だ」
「ニャッ」
二人と一匹で頷き合う。
コツコツと働き、商業ギルドに貢献したおかげで、果樹園で狩られた希少な魔獣肉を手に入れることが出来たのだ。
上質なオリーブオイルとオリーブの実もかなりの量を融通してもらっている。
沖でしか獲れない大型の魚も商業ギルドにお願いして優先的に買い付けさせてもらった。
しばらくは新鮮な海産物が手に入らないかもしれないので、それはもう大量に。
(おかげで商業ギルド相手に召喚した物品を買ってもらうことにはなったけど……)
大量の金貨を支払いに充てたので、少々懐の中身が寂しくなったのだ。
仕方なく、蜂蜜やジャム、紅茶の葉っぱなどをショップから仕入れてギルドに買い取ってもらった。
高品質な嗜好品は商業ギルドでは大歓迎され、納得の金額で交渉を終えることが出来たのは上々だ。
(買い物に使った金貨分、丸々戻ってきたな。何なら少し儲けたくらい)
やはり、贅沢な嗜好品は強い。
ずっしりとした財布の中身にもホクホクしながら、二週間ほど滞在した海辺の撤去作業に向かった。
「コテツ、プールの囲いを元に戻してくれるか?」
「にゃあ」
地形ごと変えてしまった浅瀬を元に戻してもらっている間に、タイニーハウスを【アイテムボックス】に収納していく。
タープやハンモック、パラソルも撤去!
ざっと見渡して、忘れ物がないかを確認する。うん、完璧。
「じゃあ、移動するか」
「はい! 次は何処へ行くんですか?」
「そうだな。地味にポイントが減ってきたし、出来ればダンジョンで稼ぎたいかも」
大きな買い物はしていないつもりだったが、食料品に消耗品、あとは暇つぶし用の本やゲームをかなり買ってしまったので、せっかく貯めたポイントが心許ないのだ。
(特にアイツらに頼まれて、家具類をかなり揃えさせられたからなー……)
『携帯用ミニハウス』を手に入れた彼らが、自分たちの家を快適に整えたい気持ちはよく分かるので協力したのだが。
(三人分の自室家具に、キッチンダイニング、リビングの大型家具類を揃えたら、かなりの
だが、おかげで良い物が手に入った。
ショルダータイプのマジックバッグだ。キャラメル色の柔らかな革製で、収納容量はかなり大きい。
収納物の劣化を防ぐ時間停止機能も付与されているので、普通に買おうとしたら、かなりの高額になる魔道具だ。
上級ダンジョンでドロップした、このお宝を従弟たちは惜しげなく寄越してくれた。
(俺は【アイテムボックス】スキル持ちだし、コテツも空間魔法が使える妖精。俺たちには必要ないけど……)
傍らを歩くシェラに視線を向ける。
ほっそりとした肩に喰い込むのは
大型の野営道具などは預かってやっているが、もしも何らかの理由で
携帯食料に水、調味料。野営用の毛布に火打石、調理用ナイフ、小鍋、下着や着替えにタオルなど。
女性ならではの荷物も勿論あるため、最低限に絞っても大きな
元々、シェラは細身で小柄だ。
最近はようやく少しだけふっくらしてきたが、それでも痩せすぎに見える。
空を飛ぶ『鳥』は身体が軽いため仕方ないのかもしれないが、そんな華奢な肢体に大荷物は見ていて落ち着かない。
なので、従弟たちから大型家具類の代価として貰ったマジックバッグは渡りに船だったのだ。
「シェラ、このバッグを貸すから、荷物はこっちに移そう」
「え? わっ、素敵なショルダーバッグですね。嬉しいですけど、ちょっと小さすぎるかと……」
「大丈夫」
そっと彼女に顔を寄せて、小声で教えてやる。
「これ、マジックバッグだから。オリヴェートの商業ギルドの建物分くらいは余裕で収納できるやつ」
「ふぇ……っ⁉︎」
ぎょっ、と目を見開いて固まるシェラ。
解凍されるまで時間が掛かりそうなのを見て取って、勝手に荷造りすることにした。
便利な魔道具であるマジックバッグは大きな物でも「収納」と念じながら触れると物理法則を無視して中に仕舞うことが出来る。
とりあえずは今背負っている
時間停止機能付きなため、食料もたくさん入れることが出来る。
「街で買いだめしておいた焼き立てのパン十個、美味かった屋台で大量に買い占めた串焼き肉を三十本……で、足りるか? こっそり摘み食いしそうだけど」
あとは作り置きのスープ鍋ごと、大森林で採取した果物やシェラお気に入りのクッキーにチョコレート、キャンディなどを収納していく。
「預かっていたシェラの荷物は全部入れておくか」
着替えや武器の予備なども黙々と取り出してマジックバッグに移していると、ようやく我にかえったシェラがあわあわと慌てている。
「ト、トーマさんっ! 無理です無理ッ! マジックバッグだなんて、そんな高級品こわくて持ち歩けません!」
「でも、便利だぞ? ダンジョンドロップ品だから、魔力登録すればシェラしか使えないようになるし」
「いや、貸すって言ってませんでしたか⁉︎」
「あ、そうだった。貸す貸す。これ使った方が移動も早くなるし、助かるんだけど?」
首を傾げながら「お願い」してみると、シェラは小さく呻いた。
どうやら、大荷物のせいで移動速度が遅くなることを本人も気にしていたようだ。
「うう……ちょっとの間だけ、借りるだけですからね? ちゃんと返しますからね?」
「ん、ちゃんと返してもらうぞ」
「……ううう…マジックバッグ、ダンジョンで頑張って手に入れよう……」
シェラは涙目でショルダーバッグを受け取ってくれた。
◆◆◆
更新、お待たせしました!
お仕事がひと段落ついたので、更新再開できそうです。
ギフトいつもありがとうございます、コメントも感謝です!
お知らせですが、連載中の『ダンジョン付き古民家シェアハウス』の書籍化が決まりました。
合わせてよろしくお願い致します!
◆◆◆
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