第118話 リゾート気分で 1


 ポイントを貯めて召喚購入した家は、どういう原理かは謎だが、ライフラインがしっかり整っている。


「蛇口を捻ると綺麗な水が出てくるし、ガスやIHはないけど魔道コンロが付いているから調理も可能。照明は魔道ランタンを使えば問題ないし、めちゃくちゃ便利だよな……」


 家電は無いし、大型家具店でも買えるが、コンセントが使えるわけでもないので最初から諦めていたのだが。

 何と、このタイニーハウスは追加オプションでエアコン(のような魔道具)が使えるようになったのだ。

 大陸の南の地である、この海辺の街は湿気とは無縁だが、陽射しがキツい。

 気温は三十度前後くらいか。じめじめした気候ではないから我慢できないこともないけれど、日陰以外での活動は結構しんどい。

 が、それも家でエアコンが使えれば別だ。


「ふぁー……お家が涼しいです。不思議……」


 熱中症対策として、日中の冒険者活動おしごとの合間になるべく休憩時間を取るようにしたため、快適に過ごせていた。

 電気代ならぬ魔石は必要となるが、道中に倒した魔獣の魔石なら山ほど確保してあったので、エアコン用に使っている。

 最初はシェラも魔石を消費するよりギルドで売った方が良いのにと難色を示していたが、一度エアコンの快適さを味わってからは一切の文句を口にしなくなった。


「えあこん、素晴らしい魔道具です。この涼しい部屋で食べるアイスもまた最高すぎます……」


 麦茶で喉を潤した後、おやつタイムにはコンビニのアイスを食べることにしている。

 シェラのお気に入りはカップのバニラアイスだ。

 コテツは搾りたてのミルクを使ったソフトクリームが大好きで、可愛らしい声音でおねだりしてくる。

 丸々一個だと多すぎるので、小皿に取り分けて食べさせてやるのだ。


「今日の夕食は何にするかな……」


 アイス最中を齧りながら考えるのは夕食のメニュー。

 外食をするよりも自炊した方が得だし、何より美味しいので、ここしばらくはずっとコテージ内で三食を済ませている。


「夕食はオークカツと牡蠣フライが良いと思います!」


 すかさず挙手して訴えてきたのは食いしん坊なシェラだ。

 なーん! と同じくらいの大きさの鳴き声で追従するのは猫の妖精ケットシーのコテツ。

 ちなみに彼のリクエストは海老フライと唐揚げである。


「えー? 揚げ物は昨日も食っただろ……」

「毎日三食でも平気ですが何か」

「くるるにゃっ」

「マジかよ……」


 真顔のシェラとこくこくと頷くコテツにドン引きだ。



 街の宿から海辺へ引っ越した、その日。

 海の幸に飽き飽きしていたシェラのために作ったのは、オークカツ。

 【アイテムボックス】にしこたま眠っていたオーク肉を分厚く切って、筋切りして叩いて、さっくりと揚げた自慢の一品だ。

 土鍋で炊いた白飯とキャベツを添えたオークカツは我ながら素晴らしい出来栄えで、シェラは感動に打ち震えながら、ぺろりと平らげた。

 その細い肢体のどこに、と驚くほどの健啖家ぶりを見せつけてくれたものだった。


(厚さが三センチはあったオークカツを三枚おかわりしたんだもんなぁ……)


 まぁ、確かに久しぶりの肉料理は文句なしに美味しかったから仕方ないのかもしれないが。


 せっかく油を使ったので、オークカツの他にも海老フライやアジフライ、牡蠣フライも一緒に作ってみた。

 コテツはオークカツも好物だったが、海老フライがいたく気に入ったようで、毎食ねだられるようになった。

 岩場で獲れる海老はあまり大きくはないが、新鮮でぷりぷりに肥えているため、海老フライにしても絶品だ。

 タルタルソースをたっぷりとまぶして食べるコテツは何とも幸せそう。

 釣られて食べてみたシェラも頬を緩ませていたが、それよりも牡蠣フライがお気に召したらしい。


(牡蠣フライの良さが分かるとは、シェラもなかなかやるな)


 網焼きした牡蠣は匂いがダメだったらしいが、フライにすると平気だったようで、とんかつソースを垂らして黙々と平らげた。

 ちなみにアジフライには全く興味を示さなかった。ご飯と一緒に食うと美味いのに、もったいない。

 余ったオークカツとアジフライは翌昼のサンドイッチの具材となり、こちらも好評だったように思う。

 【アイテムボックス】のおかげで、いつでも揚げたてを味わえるので、異世界バンザイだ。


(レアな『家』をドロップした祝いに、従弟たちにもオークカツや海鮮のフライを送ってやったけど、めちゃくちゃ感激されたしな)


 彼らが滞在している周辺には海がなく、新鮮な魚介類は滅多に手に入らないらしい。

 刺身の差し入れにも大喜びしていたし、次は海鮮丼を送ってやろう。

 魚をそのまま送っても、アイツらが三枚におろせるとは思えない。

 調理済みの料理の方がきっと喜ぶ。


「さすがに揚げ物料理が続くと体に悪いから、今日はシーフードメニューにしよう」

「そんな……意地悪です、トーマさん……」

「ふにゃあ……」

「わざとらしい泣き真似は通じない」

「ぶー」


 頬を膨らませて拗ねるシェラ。

 最近はこうやって色々な表情を見せるようになり、それだけ親しんだのだと思えた。

 拗ねたり甘えたりと忙しないけれど、これまで味わえなかった『家族』としての関係を一から構築しようとしているのかもしれない。


(もしかして反抗期もあったりするのか?)


 それはちょっと怖い。

 可愛い従弟たちの反抗期もなかなか厄介だった記憶がある。従妹のナツは特に気分の浮き沈みが激しく、ものすごく手を焼いた。

 今は素直で可愛い妹分だが、やはり怒らせれば一番怖いのも彼女だった。


「今日は手伝いは良いから、これでも食べるといい」

「! ぽてち! ありがとうございますっ、コテツさん一緒に食べましょう!」


 甘いアイスの後に食べるポテトチップスって美味しいよね。甘いとしょっぱいの無限機関だ。

 肉料理を我慢させるので、ポテチはバーベキュー味の物を渡した。

 揚げ物料理の時はさすがに手伝ってもらったが、今日は一人の方が効率が良い。


「じゃあ、作るか。シーフード明太パスタ」


 久しぶりに食べたくなったので、パスタを茹でることにした。

 ソースは明太子クリーム。百円ショップで売っているレトルト商品を使う。

 具材は海老とイカ、アサリをバターで焼いて、クリームソースと茹でたパスタで和えるだけ。

 冷凍のシーフードミックスではなく、新鮮な魚介類を使うので、めちゃくちゃ旨い。


「で、サラダはカルパッチョだな。サーモンが恋しいが、ここはタイの刺身を使おう」


 野菜は大森林でコテツと作っていた畑の収穫物がまだまだあるので、それを使う。

 レタスやベビーリーフをたっぷりボウルに盛って、タイの刺身を綺麗に飾り付けた。

 ソースはカルパッチョ用のドレッシングを回し掛ける。うん、美味そう。


「スープは胃腸に優しいキャベツと鶏肉のスープだな」


 鶏ガラスープの素を使えば大体美味しくなる。鶏肉はコッコ鳥のモモ肉を使う。

 ニンニク、生姜と黒胡椒、ごま油で風味を出す。

 腹にガツンと響く、食欲を誘う香りだ。


「これだけだと、シェラもコテツも足りないって嘆くから、あとはデザートだな……」


 日中はひたすらサハギンを狩り、貝掘りを頑張ってくれたので、多少カロリーが高くても消費できるはず。


 街の市場で売っていたバナナを使い、クレープを作ることにした。

 クレープ生地は百円ショップのホットケーキミックスに牛乳を混ぜたものを使う。

 せっかくなので作りだめしておき、具材はチョコバナナにした。

 カスタードクリームを塗ったクレープ生地にカットしたバナナを並べ、チョコソースをたっぷりとまぶして、二つに折りたたむと完成だ。

 従弟たちのオヤツによく作っていたので、手際よくチョコバナナクレープを作っていく。


 いつの間にか、ポテチをかじっていたシェラが次々と皿に重ねられていくクレープをキラキラとした目で見つめていた。

 夕方の六時であることをスマホ画面で確認する。


「少し早いが、夕食にするか」

「お手伝いします!」


 張り切ったシェラがテーブルに皿とカトラリーを並べてくれる。

 コテツは既に自分の席につき、今か今かと待機中。

 賑やかな食卓に苦笑しつつ、皆の皿に山盛りのシーフード明太パスタを盛り付けてやった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る