第74話 レベル100
「レベル100……! ダンジョンも八十階層まで到達したし、順調だな」
樽風呂と寝具を手に入れて快適に過ごせるようになってから、およそ三ヶ月。
途中停滞していたレベル上げだが、ダンジョンの七十階層から一気に魔獣や魔物が強くなり、レベルもどんどん上がるようになった。
セーフティエリアと創造神に祝福された結界付きテントを上手に利用しながら、無理なくダンジョンを踏破していき、気が付いたらレベルは100を越えていた。
「コテツも頑張ったな。お前もレベル100か。成長早いなー」
「にょおん」
くるる、と喉を鳴らすキジトラ猫を抱き上げて頬擦りする。
得意なのは風魔法で、可愛らしい猫パンチから繰り出される
「ブラッドブル肉が手に入ったから、今夜はステーキだな」
「ごあーん!」
「分かった分かった。ちょっと早いけど、今日はもう撤収するか」
ちょうど八十階層のフロアボスを一人と一匹で倒したばかり。
ドロップアイテムを拾い集めて【アイテムボックス】に放り込む。
下層に行くほどフロアボスは強敵になったが、落とすお宝も比例して価値が上がっている。
ひとかかえもする宝箱にはレアドロップアイテムが詰まっているので、確認は帰ってからにするつもりだった。
「じゃあ、外に出るぞ。離れるなよ?」
コテツを抱いたまま、転移扉に触れて、ダンジョンの外に出た。
最近はダンジョンの入り口付近を拠点にして、ダンジョン内のセーフティエリアでの野営はしていない。
無理せず楽しくレベル上げとポイント稼ぎをモットーに、こつこつとダンジョンの攻略を進めているのだ。
レベル上げが膠着状態になって、ダラけた際に、
スキルレベル5になると、ようやく念願の『家』が買える。
明確な目標が見つかれば、やる気は増した。
もともと、努力するのは嫌いではない。
それまではテント泊を楽しもうと決めて、週に一度の休み以外は毎日ダンジョンに通うことにした。
テントはすっかり拠点に馴染んでいる。
結界内の果樹園や畑も順調に育ち、野菜や果物はもうコンビニでは買っていない。
種を植えて10日で実った野菜は、予想通りに良い出来で美味しく育ってくれた。
コテツが植え替えてくれた果樹もすくすくと育ち、甘い実を結んでいる。
結界があるため、魔獣や虫は排除できるので、食い荒らされることなく収穫できた。
魔力をたっぷりと与えたのと、
虫の代わりにコテツの妖精仲間が受粉を手伝ってくれているので、お礼はたっぷりと弾んでいる。
蜂蜜入りのホットミルクとバターたっぷりの焼き菓子が好物だったが、最近は俺たちが食べているアイスや駄菓子にも興味津々なので、たまにお裾分けしていた。
「テントに入る前に汚れを落とすぞ」
「ニャッ」
「ただいまー。疲れたなー?」
コテツが腕の中から飛び降りて、気に入りのソファで丸くなる。ふかふかのクッションと柔らかな手触りのブランケットが最近のお気に入りだ。ひとしきり踏み締めて、くるりと回ると落ち着いた。
俺も【アイテムボックス】から取り出した炭酸水のボトルを傾けながら、ソファに腰掛ける。
「さて、レベル100の恩恵を確認するか」
ステータスを表示させ、慣れた手付きでタップする。
今朝まではグレーアウトしていたショップ名が、今はタップすると利用できるようになっていた。
ショップ名は『異世界不動産』。わりとひどい。
「それにしても感慨深いな……。召喚魔法はレベル1で100円ショップ、レベル2で300円ショップが開放。レベル3のコンビニショップの開放はめちゃくちゃ嬉しかったよなー」
コンビニの飲食品は大抵どれも美味しい。
扱う品目は少ないが生鮮食品も購入できるし、酒類が手に入るのは特に嬉しかった。
書籍だけでなく、コンビニネット商品や季節の商品──クリスマスケーキにお節、土用のうなぎ商品、節分用の太巻きまで購入できるのには驚いたものだが。
「レベル4で大型家具店が加わったのもありがたかった。ベッド最高。羽毛布団は神」
そして、ようやくの
・物置用倉庫…50,000pt
・コンクリート製納屋…700,000pt
・タイニーハウス …1,500,000pt
・コンテナハウス…4,000,000pt
・二階建てコテージ…30,000,000pt
「倉庫と納屋は当然却下。タイニーハウス も気になるけど、シャワールームしかないしな、これも却下。やっぱりちゃんとバスタブに浸かりたい」
気になるのは、コンテナハウスとコテージだが。二階建てコテージは5LDK。設備も整ってはいるが、今のところは一人と一匹暮らしで、そんなに広い家は不用だろう。
「やっぱりコンテナハウスかな。風呂トイレ、キッチンに暖炉付き。広さは9坪か。ちょっと狭いが、400万ポイントなら買いだよなー……」
タップして詳細を確認していく。
9坪の建物だと、だいたい18畳くらい。
トイレが一畳、キッチン二畳、暖炉が一畳として、洗面所と風呂スペースあわせて四畳くらいか。
「……ちょっと狭いな。せっかく買ったクイーンサイズのベッドが置けるか……?」
ちらりと確認した現在のポイント残高は1,000万弱。コンテナハウスは買えるが、コテージには全然足りない。マジか。
悩みながら、コンテナハウスの詳細欄を斜め読みしていくと、ふと気になる箇所を見つけた。
「オプション可……? オプションってなんだ? んん、複数個を積み重ねての増築OKだと……!」
横に並べて平家にするのも良いが、傍らですやすやと気持ち良さそうに眠るコテツを見下ろして即決した。
猫には上下運動が必要。アキに教えてもらった。
キャットタワーはあいにく、大型家具店にも扱っていなかったので、これまではボックス型の棚で代用していたが。
「コンテナハウスを二つ買って、二階建てにすれば、コテツは運動が出来るし、俺も広い寝室を楽しめるし、最高じゃないか?」
ウキウキとタップしてショッピングカートにコンテナハウスを二軒突っ込んだ。
合計800万ポイントのデカい買い物だが、後悔はない。さっそく購入しようと思ったところで、スマホの着信音が響く。
「なんだ?
このタイミングで送ってきたのが気になるので、先に確認することにした。
勇者メッセを開いてタップすると。
『今なら100万ポイント追加で、購入した建物の半径20メートル四方に結界機能付与のオプション有り! お買い得だよ!』
結界のオプションを付けると残高がかなり寂しいことになるが、ここは迷わず──
「付けるに決まってるだろ!」
かくして、コンテナハウス二軒、上下に連結(階段はサービス)結界機能付与オプション付き、合計900万ポイントの支払いで、俺は21才にして家持ちになった。
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