第70話 お値段以上?


 魔の山ダンジョン入り口前に拠点を置いて、三日。

 空間拡張の術式で広く快適になったテント部屋での寝起きは快適だ。

 久々に召喚魔法ネット通販のスキルが上がり、なんと某大型家具店がショップリストに追加されたのだ。

 ホームセンターでなかったのは少しだけ残念だっだが、おかげで生活の質は確実に上がった。


 百円ショップで召喚購入した、すのこやクッションなどを繋ぎ合わせて作った手作りベッドは撤去し、アンティーク調の木目のフレームベッドを選ぶ。

 クイーンサイズにしたため、10万ポイントが瞬時に消えたが、後悔はない。

 ボックスシーツと羽毛の掛け布団もカートに放り込む。

 枕はコンビニのオンラインショップのギフトコーナーで購入した高級枕があるので、買わなかった。

 羽毛布団は価格の一番高い物を選んだ。

 睡眠は大事なので、ここでケチりたくはない。

 これもクイーンサイズは8万ポイントもしたが、ダンジョンで稼げば良いと割り切った。


「うっわ……。めちゃくちゃ寝心地が良い……最高じゃないか……」


 試しに設置したベッドに寝転がってみたが、コットや手作りすのこベッドに比べても快適すぎた。

 特にマットレスと軽くて柔らかな羽毛布団が気持ち良すぎて、睡魔に抗えそうにない。

 興味津々の様子でベッドによじ登ってきた猫の妖精ケット・シーのコテツは羽毛布団を踏み締めた瞬間、その場で喉を鳴らしながら丸くなった。


「……秒で寝たな」


 まぁ、三百円ショップで手に入れたペットベッドと比べたら、天と地の差だろう。

 ベッドに潜り込まれることを想定してクイーンサイズを購入したので、むしろどんとこいだ。

 可愛い子猫と一緒に眠れるなんて最高すぎる。


「寝具だけで20万ポイントを消費したが、その価値はあるな」


 テントを空間拡張しておいて、本当に良かったと心底思う。元のままのサイズだったら、シングルサイズのベッドしか使えなかっただろう。

 ぐるりと広げたテント内を見渡して、決意する。


「どうせ、しばらくは家を買えそうにないし、先に家具を手に入れておこう。ポイントはまた稼げば良いから、なるべく良い物を」


 今のところ、異世界人に知り合いはいないが、今後どうなるか分からない。なるべく異世界でもありそうなデザインの家具が良いだろう。

 ベッドもそれを見越してアンティーク調の物を購入してある。

 幸い、ショップ登録された家具店には女子人気の高いアンティーク調家具のコーナーがあった。

 キャンプ人気に影響されたのか、暖炉型のヒーターまで売られていて驚いた。


「ベッドの他にはソファが欲しいな。布製だとコテツが爪研ぎしそうだし、革製にしよう。電動リクライニングは却下してシンプルなのを選んでも、20万ポイント超えか……」


 派手な赤は避けて、明るい茶色の本革ソファをタップする。うん、めちゃくちゃ良い感じ。L字型のカウチソファと迷ったが、コテツと自分しか座らないので二人用のシンプルなソファにした。

 本革を選んだので24万ポイントになった。

 ついでに、サイドテーブルもカートに入れる。

 ソファで食事をするつもりはないが、コーヒーは飲みたい。

 

「クッションは百円ショップにもあるけど、どうせなら家具屋で買うか」


 せっかくの本革ソファ。数百円のクッションだと、さすがに違和感がすごいので。

 とは言え、百貨店と違ってクッション自体はそこまで高くない。

 ひとつ1500ポイントの物を二つ買うことにした。

 それとは別の大型クッションについ目を奪われる。幅65センチ四方の四角いビーズクッションだ。


「これは人やペットをダメにすると言うアレか……!」


 本革ソファを買ったので、ソファクッションは必要ない。

 必要はなかったが、とてもとても心が惹かれた。

 羽毛布団に虜にされて、うっとりと寝こけている可愛らしい子猫はきっとこのクッションも気に入ることだろう。

 小さい身体をビーズクッションに埋もれさせ、ふみふみマッサージを披露してくれるに違いない。

 絶対にかわいい。


「よし買おう」


 かわいいが8千ポイントで楽しめるのだ。買うに決まっている。

 そのまま床に置くのは何となく嫌で、ついでに手触りの良さそうなラグマットも購入。

 これは1万ポイントの物にした。

 さっそく設置して、試しに腰掛けてみたが、ずぶずぶ頭が沈んでいき、独特の感触に思わず「ふわぁ」とか言ってしまう。

 うん、これは気持ち良い。猫が踏みたくなるのもよく分かる。てのひらで感触を楽しみながら、他の家具を物色した。


「さすが大型家具屋。キッチンカウンターにキッチンボードまであるのか。これは特に必要ないかな。家に付いているだろうし。小さめのキッチン用の収納棚は食器を置いておくのにちょうど良いか」


 調理をするのはテントの外。

 お茶や菓子を摘まむ程度なら、小さな収納で充分だが、たまにはテントの中でゆっくりと食事を取るのも良さそうなので、それなりの大きさのキッチンボードを置くことにした。

 百円ショップで購入した皿やグラスを棚に並べていく。

 レンジ台付きで、引き戸タイプの収納には皿やグラスを置くようになっている。小さめの引き出しが二つ、一番下に大きめの引き出しが付いていた。


「小さい引き出しにはカトラリー類やクロスを入れておくか。大きめの引き出しには菓子やカップ麺を詰めておこう」


 もう一つの小さめの引き出しには、コテツ用のおやつを入れておくことにした。

 レンジ台にはホーロー製のケトルを置く。シンプルで見栄えが良いし、このケトルなら生活魔法を使えばお湯を沸かせることができる。

 せっかくなので、後でコンビニで少し良い紅茶の葉やドリップ用のパックコーヒーを買っておこう。


「あとは寝室が丸見えなのは落ち着かないし、目隠し用にラックやシェルフを置くか」


 ベッドはテントの入り口から一番遠い、奥の壁際に置いてある。今までは気にならなかったが、今はポイントさえ使えばテント内でも個室スペースが作れてしまうのだ。

 木製の落ち着いた色のラックとシェルフを購入し、ベッドの手前に並べてみる。

 シェルフには電池式の置き時計やタオル、雑貨類を。シェルフはブックシェルフを選び、本を収納した。漫画や雑誌はハルにねだられて譲ってやったので、ここにはレシピ本や写真集、小説本しかなかったが。


「うん、良い感じじゃないか。普通に1DKに見える。あとはハンガーラックがあると良いな」


 木製のシンプルなハンガーラックを選ぶ。可動式の棚付きで、籐製のカゴを収納ボックス代わりに使うことにする。Tシャツや下着、靴下入れだ。

 サイドにフックがあり、カバンや帽子を吊るせるようになっていた。

 目隠し用のカーテン付きなのが良い。

 1万5千ポイントだが、家でも使えそうなので悪くない買い物だろう。


「このくらいかな。あとはペット用品と、雑貨類。これは落ち着いてからじっくり眺めることにして、他は……」


 画面をスライドさせていた指が止まる。

 大型家具屋に置いているとは夢にも思わなかったカテゴリー。


「マジか。メンズのルームウェアがある!」


 三百円ショップにはレディース物しかなくて、泣く泣くシンプルな色柄物を選んで使っていたが、ここにはちゃんとメンズ用のルームウェアがあった。

 パジャマやルームウェアだけでなく、下着や靴下もある。スエットタイプから、Tシャツハーフパンツのセット、カーディガンやガウンもあった。

 キャンプ用品の扱いもあるからか、Tシャツにメッシュパーカー、ダウンのベストやパンツもある。

 どれも2、3千ポイントあれば手に入る、お手頃価格で素晴らしい。柄なしのシンプルなデザインなのもありがたかった。


「良し、買うか! ついでにアイツらにも教えてやらないとな。ポイントがヤバいから、あんまり高い物は買えないけど……」


 勇者メッセでレベルアップした召喚魔法について伝えてみると、歓喜のスタンプが連打された。

 皆、もちろん真っ先に選ぶのは寝具なのには笑ってしまう。

 テントに入らないから今は買わない方が良いんじゃないかと返信すると、今度は絶望する毛玉スタンプが送られてきた。

 あんまり気の毒なので、空間拡張について教えてやった。アキのやる気が凄まじいので、その内きっとマスターするだろう。


「それまでには俺もポイントを貯めておかないとなー……」


 爆買いに後悔はないが、さすがに大幅に目減りしたポイント数を目にすると寂しくなる。

 しばらくはコンビニ弁当などの贅沢は控えて自炊とダンジョン攻略を頑張ろうと思った。

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