第67話 ポテトサラダとミートボール


 コテツのレベルアップは順調だ。

 猫パンチよりも【精霊魔法】の方が効率が良いと自分でも気付いたようで、遠方からの攻撃魔法で魔獣を殲滅していく。

 未だに回復魔法をねだってくる子猫が可愛くて、ついつい頑張った結果。

 コテツの魔力量は大幅に増え、消費魔力の大きな火魔法も容易に操れるようになっていた。

 ダンジョン内はなぜか火魔法の延焼はないようなので、存分に使わせてやっている。


「にゃあん」

「よし、やったな。強くなったなぁ、コテツ」


 ゴブリンの群れも火魔法であっという間に殲滅できるほどに、猫の妖精ケット・シーのコテツは順調に成長していた。

 四属性魔法は完璧にマスターしたが、光魔法は苦手。闇魔法とはそこそこ相性が良いのは、夜行性の猫ゆえか。

 闇に潜伏して気配を消されたら、ハイエルフの俺でさえ、なかなか見つけることは出来なかった。

 大きな魔獣や凶悪な魔物が現れたら、すぐに俺の影に潜めと、しっかりと教えておいた。


「あとは【生活魔法】をマスターすれば、快適に暮らせるようになるぞ」

 

 耳の後ろを撫でてやると、瞳を細めて喉を鳴らす。

 ゴブリンの群れを倒したご褒美にクッキーを差し出すと、丁寧に噛み砕きながら味わう様が可愛らしい。猫用のオヤツも嫌いではないようだが、妖精らしく甘いお菓子が大好きなのだ。

 眠る前には必ず、蜂蜜入りのホットミルクを欲しがった。

 以前はペット用のベッドを用意していたが、俺のベッドの中に潜り込んで眠るようになったので、今は使っていない。

 ぬくもりを求めて甘えてくる、小さくていとけない存在を突き放せず。

 結局、腕枕をしつつの添い寝は継続中。

 寝付く際に指を吸う癖があり、これには困惑してしまった。


「いや、ほんと止めて? それは止めよう。なんか芽生えちゃいけない本能が芽生えそうだから……!」


 最近は牙も育ってきたからか、あむあむと甘噛みしてくることが多くなり、ほっとしたのは内緒である。母性は育てたくない。


 小さな子猫を抱えてのダンジョン攻略はのんびりと進めている。

 本来なら食べて眠って遊ぶだけの時期の子猫なのだ。数時間おきの食事と睡眠は必須なので、昼休憩は長めに取り、午後三時には探索を終了している。

 精霊に教わった安全で快適なセーフティエリアを拠点にして、夕方からはのんびりと過ごすようにした。



 すっかり日本の味に慣れ親しみ、食いしん坊に育った子猫の妖精は、俺が料理する姿を眺めるのが好きらしく、フライパンを振っていると、真剣な表情で覗きに来た。

 たまに味見と称したお裾分けがもらえることを知っているからかもしれないが。


「今日はポテトサラダを作るか。ステーキはまだ食いにくそうだから、挽肉料理だと……ミートボールかな」


 浄化クリーンで全身を綺麗にして、さっそく夕食作りに取り掛かる。

 在庫がしこたまある鹿ディア肉とボア肉の合挽きを使い、ミートボールを作ることにした。


「シャキシャキ食感が好きだから、玉ねぎの代わりにレンコンを使ってみよう」


 あるかどうか不安だったが、召喚魔法ネット通販のコンビニショップでレンコンを見つけた。

 カット野菜として、水煮されていたレンコンだ。


「これはありがたいな。使いやすくて最高。カット野菜いいよなー」


 省ける手間は省きたいので、カット野菜や調理済みの根菜類は重宝している。

 レンコンはもちろんだが、タケノコやゴボウなど下拵えが面倒な食材は迷わず調理済みのパウチ入り商品を選ぶタイプです。

 化学調味料や麺つゆ、出汁の素とか大好きですが何か。


「ミートボールをメインにするなら、パスタかな。肉はたんまりあるし、ホール缶からミートソースを作るか」


 ちょっと面倒ではあるが、市販のソースよりはこちらの世界の魔獣肉を使った方が美味いので、頑張って仕込んでみた。

 ニンジンとにんにく、玉ねぎ、シイタケをみじん切りにするのは百円ショップのアイデア商品を使った。

 ケースに入れて蓋をして、あとは紐を引っ張るだけで、中に仕掛けた刃物でざくざく刻んでくれるのでとても便利だ。

 オリーブオイルを引いたフライパンで合挽き肉を炒め、みじん切りにした野菜も加えて火を通す。小麦粉を入れて軽く混ぜ合わせたら、コンソメスープとホールトマトを投入して大鍋で煮込むだけだ。

 あとは好みで塩や砂糖、ケチャップで味を整えながら煮詰めれば完成。

 ミートソースは色々と使えるので、少し多めに作り置き用も調理した。


「ミートボールは油で一気に揚げておこう。フライパンでいいか」


 ミートボールを揚げながら、ポテトサラダ用にじゃがいもを茹でる。

 ソーセージを使うか迷ったが、ホーンラビット肉を茹でてほぐした物を使うことにした。

 ウサギ肉は茹でるとサラダチキンと食感が似ており、ポテトサラダとの相性も良い。

 コンソメパウダーと塩胡椒で味付けしたマッシュポテトにウサギ肉、キュウリとニンジン、スライスしたりんごを加えて、たっぷりのマヨネーズで和えてみた。


「おあーんおあーん」

「お、なんだ? ごはん? 欲しいのか?」


 ポテトサラダを混ぜ合わせたところで、足元でコテツが騒いだ。

 さすがマヨラー、マヨネーズの香りに誘われたのか。ボウルの端に飛び散ったポテトサラダを指で掬い取ると、コテツの目の前に差し出してみた。


「食うか? ポテトサラダだけど」

「ふみゃあう」


 野菜中心のポテトサラダなのでお気に召さないかと思ったが、どうやら口に合ったらしい。

 両前脚で抱え込むようにして、指先をペロペロと舐めてきた。


「マジか。気に入ったのか。それはいいけど、ちょっとくすぐったい……」


 もっともっと、と欲しがる子猫にはおあずけを教えた。

 放っておけばポテトサラダの皿に頭ごと突っ込みそうな様子に、慌てて【アイテムボックス】に隠すことになった。


「もうちょい待て。パスタを茹でるから!」


 たっぷりのお湯でパスタを茹でながら、テーブルをセッティングする。

 向き合って食事をしたがるコテツのために、折りたたみ式のミニテーブルを設置し、猫用のお皿を二枚並べた。

 一枚にはポテトサラダ、もう一枚にはミートボールパスタを入れてやる。

 口直し用の飲み水も忘れずにグラスを置くと、茹で上がったパスタをザルにあけた。

 少し固めに茹でて、ソースと絡めてフライパンで炒める。ミートボールもたっぷりと投入すると食べ応えがありそうだ。


「おあーん!」

「はいはい、ご飯な。もうちょい待て。食いやすいように切ってやるから」


 キッチン用のハサミでパスタを子猫の一口サイズに切り、ミートボールも細かく砕いてやる。

 ポテトサラダはそのままでも大丈夫そうなので、テーブルに並べた。


「よし、できた! 食っていいぞ」

「うみゃあああん」


 最近のコテツはおしゃべりだ。

 まだまだ子猫の鳴き声だが、感情や欲求を訴える要求鳴きは上達したと思う。

 「ご飯」ゴアン「うまい」ウミャイは特に秀逸で、動画を送った従弟たちにも「しゃべってるー!」と大好評だった。


「うまいか?」

「んみゃー」

「ふっ、そうか。口元べとべとだぞ」


 ガツガツとミートボールに食い付いていたコテツがご機嫌で返事を寄越す。

 ミートソースで可愛らしい口元が真っ赤に染まっている。あーあ、と思いつつも、その可愛らしさにデレデレだ。

 パスタも気に入ったらしく、奥歯でもちもちと噛み締めながら味わっている。

 途中でポテトサラダの存在を思い出したようで、慌てて皿に顔を突っ込んだ。

 今度はマヨネーズまみれだ。


「あとで浄化魔法クリーンもしっかり教え込まないとな……」


 苦笑しながら、ミートボールを口に放り込む。うん、ハンバーグと違い、肉汁はないがレンコンと肉の食感が小気味良い。

 ミートソースの味付けは少し甘めだが、こちらもパスタと良く絡んで上々だ。

 ポテトサラダも安定の美味しさ。明日はサンドイッチにしようと思う。


「んみゃい!」

「お前、褒め上手だな。おかわり食うか?」


 小さなお腹がぷくぷくに膨れるまで、ついついご馳走してしまったのは反省している。

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