第66話 子猫のステータス


 ダンジョン攻略を再開することにして、あらためて猫の妖精ケット・シーのコテツのステータスを確認することにした。

 テイムした存在は【鑑定】スキルで詳しくステータスを把握できる。

 

「良い子だな。じっとしてろよ?」


 小さな子猫を膝に乗せ、スキルを発動する。

 遊び足りないコテツが逃げようとするのを抱き止めて、くすぐってやると可愛らしく喉を鳴らして大人しくなった。

 これ幸いにと【鑑定】を掛けてみる。



〈ステータス〉


コテツ 生後30日〈ケット・シー〉

レベル1


HP 100/100

MP 1500/1500

力 5

防御 5

素早さ 10

器用さ 7

頭脳 6

運 90


スキル 【生活魔法】【精霊魔法】

固有ギフト 【植物魔法】

※テイム状態



「素早さ以外、一桁のステータスか……」


 生後1ヶ月、レベル1では仕方ないか。

 それにしても運とMPがやたらと数値が大きい。この子だけ生き残れたのは、この強運のおかげだろうか。

 ちなみにMPがこれだけ増えているのは、俺がせっせと回復魔法を掛けてやった所為らしい。

 ハイエルフの極上のマナをたっぷり吸収して育っちゃったからね……と創造神がこっそりメッセージを送ってきた。

 まぁ、いいんじゃないだろうか。魔法猫。かわいくて。


 【生活魔法】が使えるのはありがたい。

 あれから魔法の書で調べたところ、この世界のケット・シーは『家につく妖精』だと知った。

 気に入った家に棲み付く存在で、ミルクやおやつと暖かな寝床を提供すると代わりに家事を手伝ってくれるらしい。

 気になるのは【精霊魔法】と固有ギフトの【植物魔法】か。

 精霊の力を借りて四属性魔法を扱うことができるのが【精霊魔法】。


「攻撃や防御は【精霊魔法】を使うんだな。固有ギフトの方は、植物を育てる魔法か? へー。ちょっと面白そうだな」


 召喚魔法ネット通販で家を買えば、庭で小さな畑を作る予定でいたので、お誂え向きの能力だ。

 膝の上で微睡む子猫をそっと撫でてやる。

 無防備にへそ天姿を晒すキジトラが愛しくてたまらない。


「レベルを上げてステータスを強化しないと、かなり心許ない数値だよなぁ……。しばらくは俺が痛め付けて弱らせた獲物にトドメを刺させてレベルを上げていくか」


 この小さく愛らしい生き物に魔獣を倒せるのかは不安だが、弱いままでは母親や兄弟たちのように喰われてしまう恐れがあった。


「ずっと俺が側で守ってやれるとは限らないしな」


 うっかりテイムしてしまったが、本人──本猫の希望を優先してやりたいので、ある程度まで育ててから、手放してやるつもりだった。


「俺の近くにいたら危険かもしれないし。……本当言うと、ずーっと飼いたいところだけど」


 ずっと、このダンジョンや大森林にこもっているつもりはないのだ。

 せっかく異世界に転生したので、従弟たちが邪竜とやらを倒して平和になった世界を見て回りたい。

 念の為に変装をするつもりではあるが、この身はレア種族らしいハイエルフ。

 人族至上主義の国によっては亜人と蔑まれ、奴隷に堕とされる可能性もあるらしい。


(勇者の従弟たちが元の世界に戻れば、餌になっている俺も少しは安全に生きられるかな。……いや、創造神からもらったギフトが狙われる可能性もあるから、やっぱり目立たないように生きるべきだな)


 厄介な連中に目を付けられたら、楽しいスローライフは送れそうにない。

 異世界旅行に関しても、普通に魔獣や野盗などが闊歩している物騒な世界なので、やはりそれなりの腕はあった方が安心だろう。

 逃げ隠れするにも、ステータスは上げておいた方が良いに決まっている。

 明日からはスパルタ教育だな。

 



「よし、行け! コテツ!」


 ゴブリンの群れは一匹だけ残して、他は魔法で潰しておいた。

 残した一匹もかなり加減して弱らせておいたので、残りHPは一桁になっている。

 近接戦闘だとコテツに何かあったら大変なので、ここしばらくは魔法で遠方から攻撃をしていた。


「ミャア!」


 てちてちと瀕死のゴブリンに近付いていったコテツが、その小さな前脚でぺちんと猫パンチを繰り出した。とんでもなくかわいい。とんでもなくかわいいが、攻撃力はめちゃくちゃ低い。

 幸いと言うか、瀕死に近いゴブリンにはそれなりのダメージだったのか、猫パンチ一度につき、HP1ずつ減っていく。

 9回ほど、愛らしい猫パンチをぺちぺちと繰り返したところ、ゴブリンはようやく淡く光ってドロップアイテムに変化した。


「みゅ?」


 不思議そうに小首を傾げている。

 どうやら、今の攻撃でレベルが上がったようだ。ステータスを見ると、力や素早さなどの数値が少しだけ上がっている。

 かなり不安だったHPも微妙に増えており、ほっとした。


「よし、この調子でどんどん倒していくぞー!」


 気分は園児の引率だ。

 子猫は気まぐれなので、いくらテイムした俺が命じても、飽きたら梃子てこでも動こうとしない。

 そのため、彼が飽きないように工夫しつつのダンジョンブートキャンプは続いた。

 猫パンチぺちぺち作戦に飽きたコテツには、魔法を教えて興味を誘う作戦だ。

 猫の妖精ケット・シーのコテツには【生活魔法】はまだ難しかったが、【精霊魔法】は使いやすかったようで、難なく地水火風の四属性魔法を精霊の力を借りつつではあるが、魔獣や魔族を倒していく。


「良し、上手いぞ。そのまま水球を動かして、ゴブリンの頭部を覆ってしまえ」


 この小さな肉体では魔力が欠乏すると命に関わりそうなので、数値を確認しつつ省エネ魔法を教えてやった。

 水魔法では水球を創り出して、窒息させる。

 火魔法は燃費が悪いので今はスルーして、土魔法では土を操作して獲物を串刺しにして倒させた。


「なかなかやるじゃないか。もうレベルが6だぞ?」


 倒した数が少ない割には、レベルの上がりが早い。もしかして、彼は種族特性とやらで経験値が入りやすいのかもしれない。


「よし。今日の訓練はここまでにしておこう。後は本日の野営地探しな」


 日が暮れるにはまだ少し早いが、意外と拠点探しは時間が掛かる。

 景色が良く、緑が豊かで綺麗な水場が近くにあれば、なお良し。なんとも贅沢な拠点探しだが、ここでコテツが大活躍した。

 なーん、と可愛らしく宙に向かって鳴いたところ、どうやら周辺にいた精霊が良い場所を教えてくれたらしい。

 適当に魔獣を蹴散らし、露払いしながら精霊が俺たち──と言うかコテツだな? 小さな猫を案内してくれた。


「精霊は大の猫好き。理解した」


 ありがたく、そのおこぼれを貰うことにして、てちてち歩く子猫の後を追った。



「さすが精霊。分かっているなー」

「ぴゃあん!」


 上機嫌で会話を交わす。

 コテツも嬉しそうに尻尾をぴんと立てて返事をしてくれた。

 精霊が案内してくれた、とっておきの場所はセーフティーエリア内の広場だ。

 目の前には小さな滝が見える。マイナスイオンをたっぷり浴びることができる、素晴らしいキャンプ地で、ウキウキと調理を始めた。


「今日はオーク肉を使ったハンバーグステーキにしよう。……ん? お前も欲しいのか?」


 普通の子猫なら絶対にダメだが、妖精のコテツにとって、人間の食べ物は嗜好品。

 毒にも薬にもならないよ、と創造神が教えてはくれたが、何となくそのまま与えるのは気が引けた。

 なので、玉ねぎ抜きのたねにして、子猫サイズの小さな特製のハンバーグステーキを焼いてやる。

 ケチャップとマヨネーズを鼻先に差し出すと、小さな前脚はマヨネーズを選んだ。

 マヨラーの妖精か。

 リクエスト通りにハンバーグにマヨネーズを添えて、そっと提供してみると、大喜びで食べ始めた。

 小さな牙を器用に使い、丁寧に肉を噛み砕いているところは、妖精といえども、肉食の猫の性質が強いなと感心する。


「……ん。オーク肉ハンバーグステーキ、旨いな。肉汁がすげぇ」


 一人で食べるよりも、相棒と一緒に食べる飯は格別だ。明日は何を作ってやろうか、と自然と口許が綻んでいた。

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