第57話 魔の山ダンジョン 3
三階層をしばらく
二階層の洞窟内にあった地底湖のような神秘的な光景が拝める場所は、あいにく見つからなかったが。
「まぁ、この雄大な夜空を独占できるのも贅沢だしな」
遮る物がひとつもない、藍色に染まった夜空は吸い込まれそうなほどに美しい。
ずっと眺めていても、ちっとも飽きそうになかった。
満天の空で瞬く星々に、見覚えのある星座はなく、月が二つ浮かぶ光景は相変わらず違和感はあったけれど、美しいものは美しい。
テントの結界のおかげで、魔獣は近寄れないため、のんびりと天体観測を楽しめる。
ホーンラビット肉の串焼きを齧りながら、
リクライニングチェアは
ダンジョン内だからなのか、虫の音は聞こえない。とても静かだ。
ウルフのものらしき遠吠えがたまに耳朶を震わせるくらいで、日本の自宅マンションよりも余程静寂を満喫出来ている。
「ダンジョン、悪くないよな……」
ぽつりとつぶやく。
階層ごとに違う景色が楽しめるし、定期的に魔獣を狩ればポイントも貯まり、食に困ることもない。
レベルはそれほど上がってはいなかったが、四属性魔法のスキルレベルはかなり上昇していた。
特に火魔法の習熟度が高い。
(洞窟エリアで火魔法を使い倒したからな。この階層では草を焼くのが怖いし、水魔法と風魔法を育てるか)
土魔法も洞窟内の方が相性が良さそうなので、火魔法とあわせて洞窟エリアでぶっ放そうと思う。
ゆらゆらと揺れるハンモックが心地良くて、テントまで移動するのが面倒になる。
久々のレモンサワーが美味しくて、つい飲みすぎてしまったのも一因か。
心地良い酔いに身を任せながら、【アイテムボックス】からタオルケットを取り出した。
身体に巻き付けるようにして、そのままハンモックで眠りについた。
愛らしい鳥の鳴き声に、爽やかな目覚めを促される。チュンチュンチチチ、ピヨヨ。ケッココー!
(……うん、ラストの絶叫。おい)
小鳥の
ぼんやりと身を起こし、周囲を見渡した。まだ夜明け前の空の色を目にして、ため息を吐く。
「まぁ、早寝早起きに慣れてきたし、二度寝も無理そうだから起きるか」
ハンモックから抜け出すと、テントの中で手早く着替える。アルコールはすっかり抜けているようで、気分は悪くない。
身支度を整えて外に出ると、再びあのダミ声。コッコッコケッコー! ニワトリの魔獣だろうか?
気持ちの良い眠りを邪魔されて、少しばかり面白くなかったので、朝食用のお肉確保も兼ねて声の主を探すことにした。
「うん、まさかいつもお世話になっているコッコ鳥のレア個体だったとはな」
階層のボスかと見紛うほどに巨大なコッコ鳥は鑑定によると、ジャイアントコッコ(亜種)とあり、詳細に大変美味とあったので、容赦なく狩らせて貰った。
いつもより大きめの
「デカい肉はありがたい。モモ肉二本に手羽先、手羽元に胸肉付きか……。あとは卵大の魔石と羽毛?」
ジャイアントコッコ自体が軽ワゴンサイズだったので、ドロップした肉もかなり大きい。モモ肉などは片脚部分だけでも、一抱えはある。これは食い出がありそうだと、ワクワクが止まらない。
てっきり卵がドロップしたのかと勘違いしそうになったほどに大きな魔石はポイントが期待できそうだ。
羽毛は使い道がないので、これもポイント変換かな。たくさん集めれば羽毛布団が作れるのかもしれないが、今のところは不要だ。
ウキウキしながら、【アイテムボックス】に大量の肉を収納する。これだけあれば、しばらくは美味しい鶏肉を堪能出来るだろう。
まずは朝食用にと、胸肉を使うことにした。
食べやすいように薄く削ぎ切りにし、塩胡椒とガーリックで味付けする。
片栗粉をまぶして、溶き卵にくぐらせ、後はオリーブオイルを引いたフライパンで焼くだけだ。
皮目がきつね色にパリッと香ばしいのが好みなので、念入りにフライ返しで押し付ける。
「よし、完成。ジャイアントコッコのピカタ、野菜のバター炒め添え、っと」
彩り豊かな野菜も添えたので、見栄えが良く美味しそうだ。
野菜炒めは適当に玉ねぎやブロッコリーにミニトマトなどをバター醤油で炒めて味付けしただけの適当料理だったが、野外では意外とイケるもの。
せっかくなので、映えを意識しながらスマホで撮影し、勇者メッセに流しておいた。
送った後で、今が早朝なのを思い出したが、まぁ向こうもダンジョンブートキャンプ中だし、問題はないだろう。
「いただきます」
手を合わせて、早速ひとくち。
パリパリの鶏皮部分が美味しくて、瞳を細めながら味わった。
胸肉部分はパサつきがちだが、溶き卵をくぐらせると、柔らかくジューシーな肉を楽しめる。
塩胡椒とガーリックのシンプルな味付けは文句なしに美味しいが、粉チーズで味変するのも良さそうだと思った。
バター醤油味の野菜炒めも食べ応えがある。
ピカタと合わせてサンドイッチにして食べるのも有りかもしれない。
綺麗に食べ切ると、冷えたオレンジジュースを一息に飲み干した。
「うん。ジャイアントコッコめちゃくちゃ美味い。これは見つけたら絶対に狩る」
胸肉でこれほど美味しいのだ。
モモ肉のローストや唐揚げ、フライドチキンに調理して味わうのが今から楽しみだった。
ジャイアントコッコのレアな亜種はあいにく見つからなかったが、コッコ鳥はそれなりの数を狩ることが出来た。
ホーンラビットの群れも倒したので、しばらくは鶏肉とウサギ肉には困らないだろう。
オオカミやキツネ等の魔獣のドロップアイテムは全てポイントに変換して、意気揚々と三階層へ向かった。
草原にぽつりと自立する転移扉にてのひらを押し当てて、四階層へ転移する。
「んん? 遺跡……?」
てっきり森林エリアや草原が続く階層だと思い込んでいたが、四階層は想像もしなかった景色が広がっていた。
乾いた土砂に半ば埋もれた石畳に、赤茶けた土壁──煉瓦だろうか。人工的な建物の廃墟が見える。
崩れ落ちてしまったのか。屋根らしき物はなく、かろうじて壁が残る建物が幾つも蔦性の植物に半ば埋もれている。
「古代ローマ遺跡に似ている、か?」
歩道が造られていないのは、確か上下水道が発達していたことを意味すると、何かの本で読んだことがある。
浴場や劇場らしき建物の痕跡もあり、興味深い。試しに鑑定してみるが、ダンジョン内遺跡としか分からなかった。
観光気分でぐるりと周囲を歩いていると、ゴブリンの集団が現れた。
肉をドロップする魔獣でないのは残念だったが、火魔法のレベル上げの餌食になって貰う。
四階層の遺跡エリアでは、ゴブリンの他にはコボルトやホブゴブリンの群れしかいなかったので、【
転移扉の手前に居座っていた、コボルトの上位種であるホブコボルトを火魔法で倒すと、宝箱が現れたのには驚いたが。
「やった……! ようやくマトモな武器が手に入った!」
木製のシンプルな
鑑定すると、まさかの
「魔力さえあれば、いくらでも矢が放てるのか。いいな」
矢の残りを気にしながら攻撃しないで済むのは楽で良い。
込める魔力の属性ごとに魔法の矢も変化するらしく、それぞれの魔法のスキル上げにもピッタリだ。
「ダンジョンの宝箱、最高すぎる」
これからは美味しい魔獣肉だけでなく、宝箱も頑張って探そうと思う。
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