第56話 魔の山ダンジョン 2
一階層は洞窟道の一本道で、突き当たりがそのまま二階層へ続く階段部屋だった。
鑑定すると、階段の周辺がセーフティエリアになっている。広さは三メートル四方。
「うん、微妙だな……」
何なら、土魔法で削って広げた仮の拠点の方が広くて快適だった。なので、このセーフティエリアはスルーして、そのまま二階層へ降りることにした。
「下に降りるのに二階っていうのが不思議だよな。地下二階ってことか?」
うっすらと淡く輝く岩壁の灯りを頼りに、石造りの階段を降りていく。途中の踊り場を経由して、ぐるりと百八十度回転するように階段は続いていた。
「お、さっきの洞窟より明るい?」
青白い光が目に入り、わくわくとした気持ちを抑えながら、そっと足を踏み出した。
二階層は一階層と同じく洞窟エリアだったが、天井も幅も高くて広い上に、青光りする水晶に似た形の鉱石が大量に埋まっていた。
「すごい。この水晶っぽい石が光っているのか?」
美しい水晶岩を前にして、幻想的な光景にただ言葉もなく見惚れてしまう。
青く輝く水晶を鑑定すると、インディゴライトクォーツという稀少な鉱石であることが分かった。
たしか、日本でも同名の水晶があったが、内包する色が全く違う。
インディゴライト──ブルートルマリンを内包した水晶は群青色に近い色彩をほんのり孕んでいるのだが、この洞窟内の水晶はもっと明るく透明感のある蒼い光を放っていた。
「洞窟内での、天然の灯り水晶か。採取できるのかな?」
詳しく鑑定してみると、採掘は可能だが、洞窟から削り出すと、半日ほどでその光は消えてしまうらしい。
ダンジョン内では安全な松明代わりに採掘する冒険者もいるようだが、光を失うとただの水晶へと変化するし、ランタンの方が長持ちするため、あまり人気はないらしい。
「綺麗なのにな。長持ちしないのは残念。試しに採掘してみるか」
間近に生えた青水晶を、サバイバルナイフで折り取ってみる。親指ほどの太さの青水晶はまるでペンライトのように輝いていた。
【アイテムボックス】に収納し、念の為に素材のポイント化を試してみると採掘物と判断されたようで、3000ポイントに変化する。
「親指大の水晶が一本3000ポイントか。結構、美味しいな?」
日本から持ち込んだサバイバルナイフは創造神に祝福された不壊のアイテムに変化しているので、
周囲を見渡すと、そこかしこに青白く光る水晶が生えている。
「よし、小遣い稼ぎだ」
ゴブリンやスライムの魔石のポイントはかなり低い。なので、ここ二階層で少しばかり稼いでいきたかった。
「ナイフよりも土魔法が効率良いかな? ま、どっちも試してみれば良いか」
ダンジョン内のため、魔獣や魔物避け効果を狙い、【アイテムボックス】からテントを取り出して設置する。
これで周辺には結界が作動するため、採掘に集中できるだろう。
「ダンジョン内で採掘とか、本当にゲームみたいだな。結構面白い」
根こそぎ採掘すると洞窟内が真っ暗になってしまうため、最低限の光源は残しつつ、大量のインディゴライトクォーツを掘り出したのだった。
「まさか200万ポイントも貯まるなんてなー。驚きだったぜ」
にまにま笑いながら、ポイントを確認する。
親指大サイズのペンライト水晶はそこそこのポイント数だったが、大きく育った物や、まるで豪奢なシャンデリアのような水晶の
「リポップするなら、かなり美味しい。ここに留まってしばらくポイントを荒稼ぎしたいところだけど……」
視線を奥に向けると、洞窟内に小さな湖があるのが目に入る。吸い込まれそうなほどに濃く美しい青の地底湖だ。
「あんな綺麗な光景をもっと見てみたいから、進むとするか。眺めの良い場所を見つけて拠点にしたいしな」
あの美しい地底湖を眺めながらの野営も楽しそうではあるが、あいにくセーフティエリアは見当たらない。
それに、いい加減で洞窟以外の景色を楽しみたかった。
「ダンジョンには空があるみたいだし、どうせなら青空や星空が楽しめる場所がいい」
テントを収納し、二階層の奥へ進む。
【気配察知】と【
地底湖に沿って進んでいくと、突き当たりの部屋に辿り着く。
足を踏み入れると独特の安心感から、ここがセーフティエリアだと分かったが、湿気の多い洞窟内で見通しも悪い。
ここはさっさと通り抜けよう。
下に降りる階段はなく、石造りの扉があったので、てのひらを押し当てた。
淡く発光した転移の扉に運ばれて。
いざ、三階層へ。
「久々の空! 夕焼けが目に沁みるー!」
三階層は洞窟エリアを抜けたようで、広々とした草原が出迎えてくれた。
外の時間とダンジョン内は連動しているようで、赤紫色に焼けた空にため息が漏れる。
ここしばらくはずっと雨空か、岩しか拝めていなかったので、感動もひとしおだ。
「お、っと。久々のウサギちゃん」
【気配察知】に引っ掛かった、小さな魔力の塊はホーンラビットだ。
真っ白い毛皮の持ち主だが、凶悪な魔獣だ。鋭いツノで急所を狙って飛び掛かってくるので、冒険者たちにとっては初心者殺しとして有名らしい。
大森林の手前の草原で大量に狩った俺には、美味しいお肉を感謝する獲物でしかないが。
余裕を持って鋭いツノから身を避けて、手にしたマチェットで頸を落とす。
ドロップしたのは、魔石と肉。
肉はいくらあっても良いので確保して、魔石はポイント交換用のフォルダに収納した。
「時刻はだいたい、午後五時前後か。駆け足でセーフティエリア探しだな。見つからなかったら、テントの結界頼りにダンジョンキャンプっと」
それはそれで楽しそうだな、とふと思う。
三階層はまだ浅いフロアなので、出没するのも弱い魔獣だけ。
草原エリアということは、ウサギやネズミ、オオカミやキツネの魔獣あたりか。
ならば、草原でのキャンプとあまり変わらない。
「……うん。セーフティエリアじゃなくて、景色の良さげな場所にテントを張ろう」
満天の夜空の下でのソロキャンプは久しぶりだ。洞窟内では煙や匂いを気にして我慢していたバーベキューも久々に楽しむことが出来るだろう。
「よし、なら場所探しと肉探しだな。オオカミやキツネは食えたもんじゃないから、狙うはホーンラビット。ボア系の魔獣も歓迎」
マチェット片手に周辺を探る。
【
毛皮や魔石、牙などのドロップアイテムを無造作に拾っては【アイテムボックス】に放り込む。
「やっぱり草原はオオカミが多そうだな」
ちっ、と舌打ちしながらも【気配察知】スキルを発動し、美味しいお肉もとい魔獣の気配を探っていく。
群れは肉食の魔獣の可能性が高いので、狙うは単体の気配。
「っし! そこか!」
駆けつけるのが面倒で、つい大きめの
結局、この日手に入れることが出来たのは、ホーンラビット肉だけだったので、バーベキューを諦めて串焼き肉を堪能した。
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