第55話 魔の山ダンジョン 1
ダンジョンは階層ごとに別空間が広がっており、基本的には下の階層へ続いている。
先に進むためには、フロアの何処かにある階段か、転移扉を見付けなければいけない。
浅い階層は魔素の少ない弱い魔獣や魔物が守り、下層へ進むごとにダンジョンの生き物たちは強くなる。
「五階層より深く潜ると、階層ごとにフロアボスが出没。倒すとレアドロップが拾える可能性が高い、と。ダンジョンの隠し部屋には稀に宝箱があり稀少な魔道具が発見されることもある。……なるほど」
創造神から貰った魔法書で、ざっとダンジョンについて調べてみた。
狙い目はフロアボス討伐と隠し部屋の発見だな。丈夫で使い勝手の良い武器か、便利な魔道具が手に入ると良いのだが。
「ま、せっかくだし、梅雨の間の暇潰しに冒険が出来るなら、悪くはないかな」
魔法書を【アイテムボックス】に戻すと、マチェットを握り締めて歩き出す。
とりあえずは、拠点の出入り口から右手の方向に向かって行くことにした。
外は大雨だが、洞窟内は静かだ。
ひんやりとしており、湿度はそれなりに高そうだが、エアコンに慣れた身にはちょうど良い気温だった。むしろ、じめっとした大森林の中よりも快適かもしれない。
「梅雨が終われば、すぐに夏だし。もしかして、ダンジョン内の方が快適なんじゃ……?」
とは言え、ダンジョンのセーフティエリアとやらがどれほど安全かも不明。
今は仕方なく洞窟を拠点にしているが、どうせなら景色の良い場所を拠点にしたい。
緑が豊かで綺麗な水場が近いと良いなと、ぼんやり思う。
湖畔に建つ、小さなコテージ。鮮やかな緑陰に佇みながら、紺碧の湖でのんびり釣りを楽しむ。コテージの横には小さな畑と果樹園があり、毛艶の良い大型犬が二匹、木陰で昼寝をしている。
虹色の大きな鱒を釣り上げて帰宅した俺を迎えてくれるのは、美しい金髪のエルフの女性。
笑顔で「おかえりなさい、あなた」なんて出迎えてくれて───
「……はっ。しまった、妄想が捗りすぎた」
いつのまにかゴブリンが迫っており、棍棒を結界に叩き付けていた。うん、ぼんやりし過ぎたな。
反省しつつ、マチェットで首を落とす。
黒っぽい血が飛び散るが、死骸が消えるの同時に血も消えてなくなる。
返り血や武器にこびりついた血や内臓も綺麗に消えてくれるので、ありがたい。
地面に落ちた魔石を拾い、あらためて気持ちを引き締める。
「人恋し過ぎて妙な妄想に耽ってしまったけど、ここはダンジョン。気を付けて進もう」
幸い、この階層は一本道で、横道は全く見掛けないため、地図作りも楽だった。
現れる魔物も今のところはゴブリンだけ。
たまにスライムが天井から落ちてくるので、そこは注意が必要。
ドロップするのも魔石と初級ポーションのみ。
どうやら、かなり浅い階層のようだった。
歩き始めて二十分ほどで、突き当たりが見えてくる。石造りの扉がゴールだろうか。
かなり重そうだが、動くのかと不安に思いながら、石の扉に手を当てると自動ドアのように横にスライドした。
「うおっ? 魔力で動くのか、これ。焦った……って、おい」
ドアの向こうには、見慣れた大森林が広がっていた。
「ダンジョンの入り口に向けて進んでいたのか……」
慌てて石の扉や周辺を鑑定して調べたところ、逆方向に進み、ダンジョン入り口に辿り着いていたようだ。
先程までいたのは読み通りに浅い階層、一階層だったのだ。
「ま、ちゃんと一階層からチャレンジしたかったし、かえって良かったかも」
魔の山ダンジョンの入り口の転移扉に魔力を通しておけば、踏破した階層に自由に転移が出来るのだ。浅い階層をスキップ出来るのは、ありがたい。
大森林は相変わらず、大雨警報中。
魔の山ダンジョンの入り口は木々に埋もれており、見つけるのは至難の業だっただろう。
暇潰しの洞窟掘りでダンジョンを見つけることが出来たのは幸運だった。
「さて、じゃあダンジョンに再挑戦するか」
ふたたび大森林に背を向けて、ダンジョンに足を踏み入れる。すると、脳内に
『魔の山ダンジョン挑戦者特典、スキル【
ゲームかよ、と眉を顰めながら、ステータスを確認すると、スキルが追加されていた。
タップして詳細を確認すると、ダンジョン内で踏破したエリアが自動的に地図として展開するらしい。
「ふーん……。便利だな。地図を書かないで済むなら助かる」
スキルを使おうと念じると、ステータスボードに似た透明の画面が現れて、ダンジョンの一階層の地図が浮かび上がる。
「うん。一本道だな。進むしかないか」
洞窟内を進むと地図上で動く青い光が自分なのだろう。
一本道は拠点まで続き、そこで途切れているので、歩いた箇所しか地図に載らない仕組みらしい。
地図を全て埋めるには、フロア内をくまなく歩いて回らなければならないのか。
それは面倒なので、なるべく最短で次の階層への階段や扉を見つけたい。
「お、赤色に点滅している光が四つ。これが敵かな?」
数十メートル先に反応がある。【気配察知】スキルによると、地図の通りに四匹のゴブリンらしき気配がした。
地味に便利だな、【
こちらに気付いたゴブリンが襲い掛かってくる前に、
「よし。ダンジョン内だと火事の心配もないし、素材が焼け落ちることもないから、しばらくは火魔法のスキル上げだな」
火魔法は四元魔法の中で最も攻撃力が高いと言われている。これまでは森林火事が怖くてあまり使えなかったが、ダンジョンなら遠慮は要らない。
「
ハイエルフの魔力は膨大だ。
初級魔法を百発撃っても、魔力量は一割も減っていない。【気配察知】と【自動地図化】スキルがあれば、遠距離攻撃で瞬殺できる。
「……うん。こりゃ、マチェットも弓も要らないな」
そんな感じで一階層のスライムとゴブリンを一掃し、行きの半分の時間で元の拠点に戻ることができた。
「やっぱり荷物は全部持って行こうかな」
ダンジョン攻略をするには、安全な拠点が必須。セーフティエリアを見つけて、結界付きのテントで休めば効率も良い。
せっかく作った拠点部屋だが、荷物はすべて【アイテムボックス】に収納する。
ひんやりとして過ごしやすいが、洞窟エリアは退屈だ。どうせなら、目に楽しい光景が広がるエリアで野営したい。
「草原エリアは良かったよな。遮蔽物がなくて落ち着かなかったけど、満天の星空は見応えがあった」
草の匂いに包まれて眠るのも、悪くはなかった思い出だ。近くに小川や湖があれば、さらに野営も楽しくなるのだが。
従弟たちが耳にしたら「キャンプ気分か!」と叱られそうなことをウキウキと考えながら、ゴブリンとスライムを火魔法で消し炭にしていった。
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