第2話 破

 ある夜、村人たちが住む家の玄関先すべてに誰かが一本の煙草を置いていった。


《神が病を直し、私が金を取っている》と側面にはそう書かれている。


 皆が薄気味悪がった。しかし、子供の悪戯だろうと村人たちは取り合わない事にした。

 女が村八分にされて家を失ってから数週間が経った。


 村の羊を一匹クスねて金に換えた事を村長に咎められて今に至っている。

 村人に食べ物を譲ってくれと頼んでもロクすっぽ相手にしてくれない。

 女は雨風凌げる場所も与えてもらえず困っていると道端に野良犬の死体を見つけた。

 いっその事コレを焼いて食ってやろうとした、その矢先――




 犬の腹からシャがれた男の声で「かわいいねぇ。どこに住んでるの?」と聴こえてきた。


 一瞬驚いた女は間を置いて「住む場所はない」と答えた。


 すると、犬の腹が膨れて破裂した。中から大量の煙草が溢れ出てくる。

「……もしかして以前の悪戯はお前の仕業か?」と死体に女が恐る恐る尋ねた。

 返事はないが無性に煙草が吸いたくなった女は一本拾って口に咥えた。

 火が無くても吸えるらしい。肺一杯に煙を巡らせる。不思議と空腹や喉の渇きが消えた。


 すると、犬の死体が立ち上がり、そのまま林の奥に消えていく。

 着いていくと一件の小屋が建っていた。しかし、ただの小屋ではなかった。




 子供の死体で組まれた肉の小屋だった。無惨にも子供たちは歯を全て抜かれている。



「お前、子供が好きなのか?」と女が尋ねると犬の死体は小さく頷いた。

 それから女はそこに住み着いた。存外悪くない住み心地である。


 さて、あとは仕事を見つけねばならない。果たしてどうするか。


 そう女が悩んでいると、不意に彼女の右手首がゴトリと落ちた。

 千切れたというよりも外れたという表現がシックリくる。血は一滴も出ていない。

 驚きのあまり女はその場で失禁してしまった。




 落ちた手首に目を向けると生き物のように動いて辺りを走り回っている。




 そして、そのままの勢いで右手首が女の顔に張り付いてきた。まるで蜘蛛のように。

 呻きながら何とか引き剥がそうとするが、力が強くて取れない。

 口に何かが注ぎ込まれている。ドロっとした紅い水だった。

 だが、女はそこでふと気付く。小屋の外から誰かが叫ぶ声が聴こえてくる。

「お医者さあああぁぁんにぃなるんだあぁぁぁ!」


 その声に呼応するように小屋を形成する死体たちが一斉に歯抜けの口を開く。


「「「ぼくぅ身体があぁぁ悪いぃぃのおおおおぉぉ」」」

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