【連載全3話】 犬 『1話あたり3分で読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話 急
夕方。外を歩いていた少年は道端でたまたま野良犬の死体を見つけた。
彼は興味本位で近づき、足先で感触を確かめ、尻尾を持って引きずった。
特に理由はない。強いて言うなら《衝動的にやりたくなったから》だろうか。
飽きると『車が通ると邪魔になるから』という理由で側溝に落とそうとした。
すると――。
犬の腹からシャがれた男の声で「かわいいねぇ。どこに住んでるの?」と聴こえてきた。
少年は咄嗟に犬から手を離して立ち尽くす。幻聴だろうか?
怖くなって少年はその場から逃げ出した。
家に帰ると母が間男と素っ裸で情事に耽っていた。父は数年前から帰ってこない。
いつもの光景だが、さっきの声が耳に張り付いて落ち着かない。
「ただいま」と告げると「あっ、おかえり」と喘ぎ声混じりに母が応えた。
交尾が終わると母は服に着替えて、少年と間男の分の夕食を作った。
それなりに楽しい食事だったが、ふと気付く。
男の口から夥しい数の蛆虫が湧いて出ていた。
二人はそれでも気にせず会話を続ける。見えているのは少年だけらしい。
その時―― 玄関の扉を誰かがノックした。いや、ちょっと待て……。
玄関からだけじゃない。外から家中の壁を大人数の人間が叩いていた。
少年はそこで意識を失くしてしまった。まるで眠るように。
翌日少年が布団の中で目を覚ますと、珍しく母が朝食を作ってくれていた。
話を聞いてみると、少年は昨日夜遅くまで間男とゲームをして楽しんでいたそうだ。
そんなはずはない。たしか彼は途中で意識を――。
そこで少年は口の中に違和感を感じ、指を突っ込んで確かめた。
奥歯が抜けていた。血は一滴も出ていない。
驚いた少年は催す吐き気に我慢が出来ず、洗面台で嘔吐した。
すると、排水溝の下から女の笑い声が聴こえてきた。
なおもポロポロと抜け落ちる歯が洗面台の上でコツコツと音を立てる。
蛇口を捻ると血のようなドロっとした紅い水が出てきた。
振り返ると背中側に一八〇度ひん曲がった母の顔が笑いながら少年を見ている。
そこで気付いた。窓の外から誰かが叫ぶ声が聴こえてくる。
「かわいいぃねぇッ! どこに住んでるのおおおおおおおおおおッ?」
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