第30話 新涼灯火
季節は過ぎ、秋を迎えていた。
夏休み中に無事夏祭りや花火大会にも行けたし、イルカショーも見に行くことができた。
おかげで灯花との仲は着実に進展し、いつしかお互いの家に躊躇なく行けるようにまでなっていた。
「おじゃましまーす!」
基本的に俺の両親は出張が多く、家を留守にする日が多いため、必然的に彼女が家に来る回数の方が増えた。
「あれ〜?出迎えに来ないと思ったら、本に夢中でしたか……まぁ最近涼しくなってきたし、
「──うわ、もうこんな時間か、ごめん!!」
ある程度予め来る時間は連絡してもらっていたが、夕暮れに窓から吹き込む涼風が気持ちよく思わず読書に耽ってしまっていた。
「本と私、どっちが大事?」
珍しく彼女が悪戯げな笑みを浮かべ、尋ねてきた。
「そりゃもちろん────」
俺が答えようとした時、彼女が不意に口を人差し指で抑えてきて、思わず驚いてしまった。
「まぁ答えは分かってるよ笑じゃあ、さっき私が言った四字熟語の意味、当ててみて!」
彼女の意地悪は続いた。ひょっとしたら彼女は夏休みくらいから俺の反応を見て愉しむことにハマってしまっているのかもしれない。まぁ俺も似たようなことをしているのでなんとも言えないが。
「うーん、俺が読書している時に使ったということを踏まえて考えると……新涼は、初秋の涼しい頃。灯火、これが難しいんだけど……灯りの下で読書することかな」
「なんで分かるの……大正解。秋初めの涼しくなった頃は、灯りの下で読書するのにぴったりの季節ってこと!」
……拗ねた。彼女は俺なんかよりも大人びているのだが、そういう子供らしい一面を見せるとそれはそれで非常に可愛いので、ついつい眺めてしまう。
「おっと、ごめんね」
少し不機嫌になってしまった彼女をすぐに抱き寄せる。流石に慣れたのでもうこの程度で赤面してしまうことはない……はず。
「そういえばもうすぐ体育祭&学園祭だね」
「あー、確かにその季節だったよな」
「それがひと段落すれば十一月はハロウィンだし、十二月はクリスマス、一月はお正月……イベント続きだね、私すごく楽しみ!」
「俺もだよ。まぁ、入学当初はまさかここまで充実した日々が送れるなんて思いもしなかったけどな」
「あー、またその話じゃん、でもきっと、私たちがあの時クラスが一緒になったのはきっと運命だったんだよ、きっと」
「じゃあ神様にでもお礼言いに行かなきゃな」
二人同時に笑みが溢れる。
「ねぇ涼、……ずっと……一緒にいてね?」
「もちろん」
人の縁や運命とは数奇なものだとつくづく思う。
この幸せが当たり前だと思わないように、一日一日幸せを噛み締めつつ、手放すまいと努力を怠らないようにしていこうと心に誓うのだった。
四字熟語を覚えたい!! 神白ジュン @kamisiroj
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